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第五章  拗らせとすれ違いの先は……

【9】

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 五回目の転生は何と……。

「おめでとう我が娘ヴィヴィアン・ローズ」
「有難う御座いますお父様、そしてお母様」


 まさか貴女の!?


 た、確かに今度こそは貴女の傍で何者からも貴女を絶対に守り抜きたいと強く願ったのは間違いではない。
 そして貴女と同じ時間軸で生きるを願ったのもだな。
 それはある意味俺の願いは叶ったとも取れるけれどな!!

 俺が願っていたものとは微妙に違うのだ。

 貴女を愛する幸せにしたい……これも間違ってはいない。
 間違ってはいないがまさかの父親だったなんて……。

 俺が願ったのは断じて娘への父性愛ではない!!

 そう!!


 なのに蓋を開けてみればだな。然も貴女が22歳の誕生を迎えたその日まで俺はごく普通の父親として貴女を愛する娘として愛し慈しんでいたのだ。確かにそんな日々も正直に言えば幸せだったよ。美しい妻と良く出来た息子に、優しくも可憐な娘である貴女との二十二年間は本当に幸せに満ちた日々だった。
 
 だがこうして過去を思い出してしまってはもう貴女を、ヴィヴィアン……貴女を娘ではなく一人の女性にしか見えない。

 勿論これは今まで連れ添った妻に対し不義とも取れる想いなのかもしれない。とは言え貴女への永遠にも等しい想いと比べれば、一体どちらに重きを置くかは言わずともわかるだろう。なのに貴女とくれば俺の切な過ぎる程の気持ちを一切気付いた様子もなく、娘としてごく普通に父を慕う愛しかきっと存在しないのだろうね。

 愛する貴女を目の前にして俺は何も出来ずただただ良き父親として、また何が悲しくて貴女の嫁入り先まで探さなければいけないのだろうか。いや、侯爵家の令嬢としての貴女の幸せを思えば何時までも独身でいるのは些か問題である事も十分過ぎる程に理解をしているよ。
 
 そう十分過ぎる程に理解をしているのに何とも……切ない。
 
 俺の気持ちを知らずに貴女は何か切羽詰まった様に時折何かを口遊くちずさむ?
 いや、呟いているのか?
 殆ど声として発していない様子ではあるものの、そこは愛する貴女を何時も見続けている俺だからこそ分かったのかもしれない。

 でも最初は何の事なのか全くわからなかった。

 しかし徐々に……。

『……婚姻を、34歳までに婚姻を、誰でもいいから一刻も早く婚姻を結ばなければ――――死んでしまう』


 死!!


 そのキーワードで浮かび上がるのは前世でのあれやこれについてだった。
 
 ま、さか……だろう。
 いやあり得ない。
 本当にあり得ない……のか?

 であれば俺はどうなのだ。
 俺自身これまで実に様々なものではあるが何度も転生を繰り返している。
 そして彼女は……到底信じられないが全く同じ転生を繰り返している?

 一体何時から?
 どうして?
 何が理由で俺達は転生を繰り返す!?


 わからない。
 何時から始まって何時が終着地なのかさえもわからない。
 そんな疑問抱く俺はある事に気づいてしまった。

 そう、少なくとも貴女はのだと――――。

 俺の勝手な推測ではなく真実貴女がこの悍ましくも狂った転生を何度も繰り返しているのであれば……っ⁉

 俺とは違い全く同じヴィヴィアン・ローズとして転生を繰り返しているのであれば、貴女のこの先に待ち受けているのは惨たらし過ぎる終焉。また何れの前世において俺が貴女について知っているものは、どの様な前世であろうとも最終的には貴女が奈落の底へ突き堕とされた後の、思い出すのも悍ましい地獄の中で無理やり生かされていた頃だ。

 だが俺は情けなくもそれまでの経緯について何も知らない。

 多分本当に人生を繰り返しているのであれば貴女は12歳も年下の夫、現大公殿下の嫡男であり恐らく未来のプライステッド公爵となるだろうリーヴァイ・マクシミリアン・カートライト……現在まだ10歳くらいのお子様だな。

 俺も仕事上宮殿へ伺候した折に何度か目にした事はある。
 漆黒の髪に皇族しか受け継がれる事のない緋色の瞳を持つ、子供ながらにも目鼻立ちの整った美しい少年。
 アレがか、アレが将来……いや、十二年後貴女の呟いていた文言を信じるのであれば貴女が34歳の時に婚姻を持ち掛けられる事になるのかっ!?

 そして数年後、あぁまだ確たる事は何もわからないけれどもだ。妻を蔑ろにし浮気をした挙句愛人との間に子を儲け、元侯爵令嬢にも拘らず貴女を実家へも帰さずにあの様な辺境の寂れた娼館へっ、貴女の清らかで穢れのない心!! 
 いやいや身体までも汚らわしい男達に寄ってたかって穢すだけ穢した末に殺害せしめた張本人なのか!!

 許す許さないレベルなんてものじゃあない!!

 何があろうとも絶対にアレとの婚姻等認めるものか!!

 貴女は何時だって幸せにならなければいけない存在なのだ。


 あぁそうだ、今の俺は貴女の父親。最初こそはこの位置づけに嘆きもしたものだがまあいいだろう。今はこの地位を甘んじて受け入れようではないか。父親でありこの国の侯爵と言う地位を利用し、貴女を何としても守り抜いてみせよう。此度こそ、そこは少し違う意味合いにはなるけれどもだ。

 何が起ころうとも絶対に貴女を幸せにしてみせる!!


 何後十二年もあるのだ。アレがまだお子様の間に貴女を幸せに導いてくれる立派な男を探し出そう。それにしても貴女を他の男へ委ねなければならない事はどうしようもなく腹立たしい事この上ないがしかし背に腹は代えられない。

 俺は自身の心を押し殺しつつ貴女の幸せだけを考える事に専念した。

 そうして侯爵家としてあらゆる方向性より貴女の夫となりえる者を吟味し、その結果漸く眼鏡に叶った相手となる者を見つけ出したと言うのにも拘らずだ。

 俺はこれ程運命を呪った事はない。
 本当に貴女が34歳の誕生日を迎えて数日後、宮殿より陛下の勅使が遣わされたのだ。
 俺と貴女の二人の下へ……。
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