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第四章  逃げ妻は自由を満喫し妻に逃げられた魔王はじわじわと追い詰める

【17】

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 ――― ◦ ―――

「どうしたのかな。この世の何よりも誰よりも大切でこの上なく愛おしい僕の、僕だけのヴィー……」

「…………」

 にこやかな、それはもう晴れやかな笑みを湛えているイケメン貴公子リーヴァイがローズ、ヴィヴィアンの傍近くにいた。

「どうしてこちらへ、夫である僕の方へ貴女は振り向いてはくれないのかな? 僕は気も狂わんばかりに愛し過ぎる貴女に逢いたくて堪らないと言うのにね」

「…………」

 ヴィヴィアンはリーヴァイへ背を向けたまま微動だにせずその場でじっと佇んでいた。

 いや確には動けなかったと言う方が正しいのかもしれない。
 
 ヴィヴィアンの心情に気づいているのかいないのだろうかなんて全く関係のない……訳でもないのだが、リーヴァイはヴィヴィアンへの溢れんばかりの想いを言葉として語らずにはいられなかった。


「一刻も早くいや、最早一分一秒なんて待ちきれないのだよ。貴女の柔らかな肢体を強く抱き締めれば貴女のまろやかで瑞々しい白桃の中へ思うままに顔を埋めると共に、仄かに甘くも爽やかな、貴女の肢体より醸し出される匂いで僕の胸を隅から隅まで充分に満たしたいのだよ」

「…………」

「ねぇヴィーはどうして何も答えてくれないのかな。僕はあの日貴女が僕の前より姿を消した日からずっとヴィー、僕はずっと心の中で貴女だけを愛し続けてきたのだよ。何時も貴女の身体の隅々まで……そうだね、貴女の雪の様に白い背中とマシュマロの様なモチふわなお尻の付け根にある黒子の場所や数まで事細かに知っているのはこの僕だけだよ。今この場で目を閉じれば何時も僕達が愛し合っている姿がこうして瞼の裏へ浮かんでくるのだよ」

「…………っ⁉」

「ねぇヴィーはこの二十日の間、僕に一度も逢えなくて何も感じなかったの? ほんの一瞬でも僕を恋しいとは思わなかったの?」

「…………」

「僕はとても苦しかったよ。時間が経つ毎に心は引き裂け、出もしないのに心より血が噴き出せば出血多量で死にそうになるくらい貴女が、ヴィーがとても恋しかったよ」

「…………」

「あの日……いやその四日前にあの女がヴィーへ吐いた暴言と、公爵夫人である貴女に対し許し難い不遜な態度と行動により、心優しい貴女を傷つけてしまった事に対し僕はもっと迅速に動くべきだったと今更ながらだけれども猛省している」

「…………」

「幾ら災害や身の潔白の為の証拠集めが必要だとは言え、愛する貴女をもっと優先するべきだったし抑々そもそも害悪にしかならないあの女を貴女へ一歩たりとも近づけるべきではなかったと言うのにだ。傷ついた貴女を傍で労わらなければいけなかった筈なのに僕は本当にヴィーにとってとんでもなく至らない夫だね」

「…………害は、復興は、人々はどうなりましたの?」

 この言葉を発するので精一杯だった。
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