上 下
79 / 120
第四章  逃げ妻は自由を満喫し妻に逃げられた魔王はじわじわと追い詰める

【2】

しおりを挟む


『ローズ様に何と言う狼藉を、貴様は万死に値する!!』

 そう叫べばシアは一瞬で抜刀したと思えば神業レベルで一閃のもとに、旅人の着ていただろう外套やシャツにトラウザースの全てを木端微塵にと切り刻む。それに加えふさっふさな髪の毛を一本も残さずつるっつるな禿げ頭へと秒単位で剃り上げてしまった。

 旅人は大きくはない街のど真ん中で、然も本人すら気づかない一瞬の内に全裸とつるピカ禿げ頭なオヤジへとなり果ててしまった!!

 だがシアの怒りはまだまだ収まらず、次に狙うはを覆う毛までをシアの一閃によりつるつるへと剃り上げられればだ。突然襲い掛かかる余りの恐怖でこれ以上ないくらいに旅人のソレは思う以上に小さくなっていく。ガタガタと音が聞こえるくらいに全身は震えればあり得ないだろうレベルへと縮み上がっている旅人の、男であるその象徴へとシアの持つ、よく手入れの行き届いた剣の切っ先が狙い澄ましていたのだ。

 周りにいる女性陣は老いも若きもその様子を見てきゃあきゃあと黄色い声を上げて能天気に笑ってはいるものの、流石に同性である男性達は先ず自身のソレを両手で覆うと共に軽く前傾姿勢を取ればである。自分達のソレの安全を確認してから次に旅人の許へとやや内股気味に駆け寄れば、シアへ剣を収める様必死になってお願いをした。

 何と言っても自分達の持つソレを他人のモノとは言え目の前でちょん切られるのは同じ男としては何とも居た堪れないし叶う事ならば絶対に見たくはない。

 しかしシアは一向に機嫌を直す……いやいや元よりそう言うレベルではなく、彼女にしてみれば護るべきローズへ言葉だけとは言えこれは穢したのと同義だと主張していた。
 そんな先の見えない男達とシアによる問答の間に、何時の間にか同情をした男性より旅人には外套で裸体を包んでくれていた。

 そうして周囲の観客(女性達)もそろそろ飽きてきたかな~っと思い始めた頃である。

「いい加減にしなさいシア」

 膠着状態の押し問答を止めたのは他の誰でもないシアが何をおいても護りたい存在、ローズその人である。

「駄目よ。何時も言っているでしょ。簡単に剣を抜いては駄目ですよ」
「はい、申し訳……」
「ではちゃんと相手に謝りなさい。そうして後で皆さんと一緒にお茶にしましょう。今日はシアの大好きなチョコチップ入りのクッキーも沢山作ったの。きっと美味しく焼けていてよ」

 にっこりと優し気に微笑むローズにシアは目に見えない大きな尻尾と耳をぶんぶん振り回せば、今までこれでもかと放っていただろう威圧なんてものは一瞬の内に掻き消えローズの前で大人しくなっているのである。

 因みに……に遭った旅人はローズの作る魔道具や毛生え薬により数日で髪は元通りとなり、今ではローズの魔道具はギルドを介して周辺へと売りに歩いているらしい。


 それからである。
 男達はどの様に甘いお菓子であろうとも、たとえローズが極上の味だとしてもだっ。

 !!
 
 この一件によりローズはある意味ヴェルレの男性達よりシアと共に守られる存在となったのである。
 全ては男の象徴をシアより守りたいが故の行動であった…・・・らしい。
しおりを挟む
感想 202

あなたにおすすめの小説

【完結】失いかけた君にもう一度

暮田呉子
恋愛
偶然、振り払った手が婚約者の頬に当たってしまった。 叩くつもりはなかった。 しかし、謝ろうとした矢先、彼女は全てを捨てていなくなってしまった──。

前世軍医だった傷物令嬢は、幸せな花嫁を夢見る

花雨宮琵
恋愛
侯爵令嬢のローズは、10歳のある日、背中に刀傷を負い生死の境をさまよう。 その時に見た夢で、軍医として生き、結婚式の直前に婚約者を亡くした前世が蘇る。 何とか一命を取り留めたものの、ローズの背中には大きな傷が残った。 “傷物令嬢”として揶揄される中、ローズは早々に貴族女性として生きることを諦め、隣国の帝国医学校へ入学する。 背中の傷を理由に六回も婚約を破棄されるも、18歳で隣国の医師資格を取得。自立しようとした矢先に王命による7回目の婚約が結ばれ、帰国を余儀なくされる。 7人目となる婚約者は、弱冠25歳で東の将軍となった、ヴァンドゥール公爵家次男のフェルディナンだった。 長年行方不明の想い人がいるフェルディナンと、義務ではなく愛ある結婚を夢見るローズ。そんな二人は、期間限定の条件付き婚約関係を結ぶことに同意する。 守られるだけの存在でいたくない! と思うローズは、一人の医師として自立し、同時に、今世こそは愛する人と結ばれて幸せな家庭を築きたいと願うのであったが――。 この小説は、人生の理不尽さ・不条理さに傷つき悩みながらも、幸せを求めて奮闘する女性の物語です。 ※この作品は2年前に掲載していたものを大幅に改稿したものです。 (C)Elegance 2025 All Rights Reserved.無断転載・無断翻訳を固く禁じます。

元侯爵令嬢は冷遇を満喫する

cyaru
恋愛
第三王子の不貞による婚約解消で王様に拝み倒され、渋々嫁いだ侯爵令嬢のエレイン。 しかし教会で結婚式を挙げた後、夫の口から開口一番に出た言葉は 「王命だから君を娶っただけだ。愛してもらえるとは思わないでくれ」 夫となったパトリックの側には長年の恋人であるリリシア。 自分もだけど、向こうだってわたくしの事は見たくも無いはず!っと早々の別居宣言。 お互いで交わす契約書にほっとするパトリックとエレイン。ほくそ笑む愛人リリシア。 本宅からは屋根すら見えない別邸に引きこもりお1人様生活を満喫する予定が・・。 ※専門用語は出来るだけ注釈をつけますが、作者が専門用語だと思ってない専門用語がある場合があります ※作者都合のご都合主義です。 ※リアルで似たようなものが出てくると思いますが気のせいです。 ※架空のお話です。現実世界の話ではありません。 ※爵位や言葉使いなど現実世界、他の作者さんの作品とは異なります(似てるモノ、同じものもあります) ※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。

決して戻らない記憶

菜花
ファンタジー
恋人だった二人が事故によって引き離され、その間に起こった出来事によって片方は愛情が消えうせてしまう。カクヨム様でも公開しています。

父が再婚しました

Ruhuna
ファンタジー
母が亡くなって1ヶ月後に 父が再婚しました

【完結】あなたに知られたくなかった

ここ
ファンタジー
セレナの幸せな生活はあっという間に消え去った。新しい継母と異母妹によって。 5歳まで令嬢として生きてきたセレナは6歳の今は、小さな手足で必死に下女見習いをしている。もう自分が令嬢だということは忘れていた。 そんなセレナに起きた奇跡とは?

【完結】彼の瞳に映るのは  

たろ
恋愛
 今夜も彼はわたしをエスコートして夜会へと参加する。  優しく見つめる彼の瞳にはわたしが映っているのに、何故かわたしの心は何も感じない。  そしてファーストダンスを踊ると彼はそっとわたしのそばからいなくなる。  わたしはまた一人で佇む。彼は守るべき存在の元へと行ってしまう。 ★ 短編から長編へ変更しました。

アラフォー王妃様に夫の愛は必要ない?

雪乃
恋愛
ノースウッド皇国の第一皇女であり才気溢れる聖魔導師のアレクサは39歳花?の独身アラフォー真っ盛りの筈なのに、気がつけば9歳も年下の隣国ブランカフォルト王国へ王妃として輿入れする羽目になってしまった。 夫となった国王は文武両道、眉目秀麗文句のつけようがないイケメン。 しかし彼にはたった1つ問題がある。 それは無類の女好き。 妃と名のつく女性こそはいないが、愛妾だけでも10人、街娘や一夜限りの相手となると星の数程と言われている。 また愛妾との間には4人2男2女の子供も儲けているとか……。 そんな下半身にだらしのない王の許へ嫁に来る姫は中々おらず、講和条約の条件だけで結婚が決まったのだが、予定はアレクサの末の妹姫19歳の筈なのに蓋を開ければ9歳も年上のアラフォー妻を迎えた事に夫は怒り初夜に彼女の許へ訪れなかった。 だがその事に安心したのは花嫁であるアレクサ。 元々結婚願望もなく生涯独身を貫こうとしていたのだから、彼女に興味を示さない夫と言う存在は彼女にとって都合が良かった。 兎に角既に世継ぎの王子もいるのだし、このまま夫と触れ合う事もなく何年かすれば愛妾の子を自身の養子にすればいいと高をくくっていたら……。 連載中のお話ですが、今回完結へ向けて加筆修正した上で再更新させて頂きます。

処理中です...