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第四章 逃げ妻は自由を満喫し妻に逃げられた魔王はじわじわと追い詰める
【2】
しおりを挟む『ローズ様に何と言う狼藉を、貴様は万死に値する!!』
そう叫べばシアは一瞬で抜刀したと思えば神業レベルで一閃のもとに、旅人の着ていただろう外套やシャツにトラウザースの全てを木端微塵にと切り刻む。それに加えふさっふさな髪の毛を一本も残さずつるっつるな禿げ頭へと秒単位で剃り上げてしまった。
旅人は大きくはない街のど真ん中で、然も本人すら気づかない一瞬の内に全裸とつるピカ禿げ頭なオヤジへとなり果ててしまった!!
だがシアの怒りはまだまだ収まらず、次に狙うはソレを覆う毛までをシアの一閃によりつるつるへと剃り上げられればだ。突然襲い掛かかる余りの恐怖でこれ以上ないくらいに旅人のソレは思う以上に小さくなっていく。ガタガタと音が聞こえるくらいに全身は震えればあり得ないだろうレベルへと縮み上がっている旅人の、男であるその象徴へとシアの持つ、よく手入れの行き届いた剣の切っ先が狙い澄ましていたのだ。
周りにいる女性陣は老いも若きもその様子を見てきゃあきゃあと黄色い声を上げて能天気に笑ってはいるものの、流石に同性である男性達は先ず自身のソレを両手で覆うと共に軽く前傾姿勢を取ればである。自分達のソレの安全を確認してから次に旅人の許へとやや内股気味に駆け寄れば、シアへ剣を収める様必死になってお願いをした。
何と言っても自分達の持つソレを他人のモノとは言え目の前でちょん切られるのは同じ男としては何とも居た堪れないし叶う事ならば絶対に見たくはない。
しかしシアは一向に機嫌を直す……いやいや元よりそう言うレベルではなく、彼女にしてみれば護るべきローズへ言葉だけとは言えこれは穢したのと同義だと主張していた。
そんな先の見えない男達とシアによる問答の間に、何時の間にか同情をした男性より旅人には外套で裸体を包んでくれていた。
そうして周囲の観客(女性達)もそろそろ飽きてきたかな~っと思い始めた頃である。
「いい加減にしなさいシア」
膠着状態の押し問答を止めたのは他の誰でもないシアが何をおいても護りたい存在、ローズその人である。
「駄目よ。何時も言っているでしょ。簡単に剣を抜いては駄目ですよ」
「はい、申し訳……」
「ではちゃんと相手に謝りなさい。そうして後で皆さんと一緒にお茶にしましょう。今日はシアの大好きなチョコチップ入りのクッキーも沢山作ったの。きっと美味しく焼けていてよ」
にっこりと優し気に微笑むローズにシアは目に見えない大きな尻尾と耳をぶんぶん振り回せば、今までこれでもかと放っていただろう威圧なんてものは一瞬の内に掻き消えローズの前で大人しくなっているのである。
因みに被害……に遭った旅人はローズの作る魔道具や毛生え薬により数日で髪は元通りとなり、今ではローズの魔道具はギルドを介して周辺へと売りに歩いているらしい。
それからである。
男達はどの様に甘いお菓子であろうとも、譬えローズが極上の味だとしてもだっ。
命と大事なモノは何としても守りたい!!
この一件によりローズはある意味ヴェルレの男性達よりシアと共に守られる存在となったのである。
全ては男の象徴をシアより守りたいが故の行動であった…・・・らしい。
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