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第三章 それぞれの闇と求める希望の光
【12】
しおりを挟むあっと言う間に二回目の人生を終えたわたくしを待っていたのは、何と見た事のない異世界での人生でした。
その世界は今までに経験した事のないものばかりが沢山溢れていましたの。
中でもわたくしが幸運だと思いましたのはその世界でも比較的に、いえ恐らくこの国の者達は余りに当たり前過ぎてその自覚すらないのでしょうね。
戦いのない、己が意思を自由に語りそしてそれをある程度実行出来る自由を……。
確かにその国でも、日本でも数十年前には世界を相手に大きな戦争があったのです。
でも結果は戦に敗れ、日本は敗戦国となりました。
ですが彼らは、先人達は負けた事により自らの殻へ籠るのではなく、それを教訓に破壊された大地を、経済を再び生まれ変わらせ……いいえより一層発展へと導いたのですわ。
それは決して平坦な道のりではなかった筈。
なのに皆一様に前を向き、一丸となって何度も失敗や色々な問題と向き合い頑張ってきたのです。
それと同時に決して戦を行わないと言う固い信条を旨に、わたくしが亡くなった後もきっとその想いは貫かれているのでしょうね。
身近に敵が多いのにも限らず決して戦わない姿勢を貫き、でもだからと言って相手へ遜る事無く毅然とした対応で以って……あぁそれもある意味一種の戦いなのかもしれませんね。
そんな平和な国日本でわたくしはとある青年と出逢ったのです。
何とわたくしと彼が出逢ったのは病院でしたの。
えぇ勿論わたくしが患者で彼が担当医として……ね。
実は日本に転生したわたくしは幼い頃より難病に侵され、恐らく20歳までは到底生きる事は出来ないだろうと何度も余命宣告をされていましたの。
ですがわたくしをこよなく愛してくれた両親はそれを受け入れられず、一縷の望みを賭け幼いわたくしを連れて行き、何軒もの大きな病院で診察を受けてはどの医師も最後は皆同じ言葉を告げるのです。
そんな絶望にも似た日々の中で18歳の頃、これが最期だと思った病院で出逢った医師が――――彼でした。
「ここへ来るまでにどの先生もきっと同じ結果を伝えたでしょう。僕も貴女の検査結果を診て正直に言えばこれまでの先生達と同意見です」
あぁ終わったなぁ……ってこの瞬間そう思い、何故か思わず笑ってしまいましたの。
いえ違うのですよ。
何も先生に対し嘲笑うとかではないのです。
ただ、この様に文明が発達している世界でも治せないものはあるのだな……って思うと自然に笑っていたのです。
因みに日本へ転生したわたくしは生まれた時より過去二回の前世の記憶を持っていましたよ。
最初は余りの恐怖で泣いてばかり……とは言っても赤ん坊は普通に泣いていますものね。
わたくしは貴族制度のない日本で普通の家庭で両親に愛され、僅か10歳で病気に罹り入退院を何度も繰り返しはしましたけれど、でも前世の様な立派な淑女となり、皇帝陛下の顔色を窺い、またその命令には絶対に従わなければいけない様な環境ではなかっただけわたくしはとても幸せでした。
後は前世とは違い叶うものであれば愛する男性とごく普通の夫婦として幸せな結婚生活を送りたかった。
心残りがあるとすればそのくらいなのです。
そうして最期となる病院での入院生活も一年が過ぎ19歳の秋も深まりつつとある日、何時もの様に先生はわたくしのいる病室へ診察に来られれば、その手にはそれはとても見事な深い緋色のバラの花束を持っておられたのです。
実家で沢山咲いていたからね……って、はにかみながら話す先生は何時になく満面の笑みでそして――――。
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