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第三章 それぞれの闇と求める希望の光
【9】
しおりを挟むそれはある日の午後の事だった。
ある侯爵邸での茶会にヴィーが参加をすると言う情報を得た俺は、何時もの様に偶然を装いそこへ参加するべく手筈を整えていた。
だが結果は当日になってヴィーの、恐らく初めての……ドタキャン。
欠席理由は体調不良だった。
ヴィーの体調を真っ先に心配した俺は茶会の途中で不作法だと理解しつつも、いや抑々だ。
彼女が参加しなければこの様な何の益も生み出さない茶会へ参加をしなかったのだからな。
故に途中退場大いに結構!!
俺はバートにミルワード侯爵邸への先触れを出すように命じると同時にそちらへ向かったのだがしかし……。
「申し訳御座いませんリーヴァイ様。娘はゆっくりと療養させる為に領地へと向かわせたのです。とは申せ、まあ身体は元々丈夫なのが取り柄なのですがその何と申しましょうか、最近少し疲れたと申しておりましてな。何分こう何度も婚約を破棄されれば娘もあぁ見えて実は繊細な女性なのです。どうかまた娘が首都へ戻りました折りには当家にて盛大に持て成させて頂きます」
侯爵邸で俺を出迎えたのはヴィーの父親であるミルワード侯爵だった。
「あ、いや突然で申し訳ありません。ではこれにて失礼します」
そんな事を言われてしまえば俺には帰るしか道はない。
確かにここ何件かヴィーへ持ち掛けられた縁談を悉く破断へ追いやったのは他の誰でもないこの俺なのだ。
ふん、10歳児にそれは流石に無理だろう……と思うか。
馬鹿にして貰っては困る。これでも俺は世間では神童と呼ばれる程に頭脳は明晰、魔導保有量も帝国一の上おまけに希少な全属性持ちでもあるのだ。
全てはヴィーの愛故への努力の賜物。
愚かな俺は鼻をツンと上げ、澄ました調子で……ああ実際にこの時はしっかりと調子に乗っていた。
その幸福を自分自身で勝ち得たものだと思い込んでいる愚かな子供は、何処までも本当に愚かだった。
だがその事に気づいていなかった俺は公爵家の影達に急遽自領へ戻ったヴィーの動向を引き続き見張るよう命じた。
普段ならそこまで……いや四年前の出逢いの頃より、俺は彼女の安全をこうして静かに見守っていただけの事。
頭脳は明晰でも俺の身体は10歳のもの。
いざヴィーが危険な目に遭ったとしても子供の俺が彼女を守るには色々と限界があり過ぎるからな。
いやいやこれでも一応譲歩はしたのだ。
本音を言えば影と言えど愛するヴィーを誰かの腕、いや指一本でも他人には触れさせたくはない!!
しかしだな、俺はそこまで現実を弁えられない程のお子様でもないのだ。
だから苦渋の決断で数名の影を彼女へ配備した。
勿論その事に関しては父上へ相談と言う協力を要請したのは言うまでもない。
ヴィーは何と言っても侯爵家の令嬢。
その侯爵令嬢の婚約を再三に渡り破断へと追い込むには俺だけの力だけでなく父上……大公であり皇族の権力をだな。それはとても有意義に利用させて貰ったのだがしかし父上は何時になく神妙な面持ちである条件を告げられた。
11歳となる誕生の日に、とある話を俺が静かに受け入れる事。
一応了承はしたけれどもただ何も条件を付けない訳にはいかない。
そうヴィー以外の女とは絶対に婚姻は結ばないのは当然だが、将来においても側妃は絶対に娶らないと言い切った上での話となる。
だが結局は父上の話の前に俺は初めて転移魔法を行使してしまった。
理論上において転移を出来る自信はあったけれどもだ。
そこはやはり危険を伴う等色々と理由を挙げられ、14歳までは敢えて高度な魔法を遣うなと強く父上より言明されていたのにも拘らずにだ。
それでもこの時ばかりは飛ばずにはいられなかったのだ。
目指す先はミルワード領。
此度こそは絶対……愛する女性ヴィヴィアン・ローズの許へ――――!!
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