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第三章  それぞれの闇と求める希望の光

【5】

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 ぼふん⁉

「きゃ!!」
「ぷふぁってこれは――――っ⁉」
「「リーヴァイ坊ちゃま!!」」

 俺はどうして今ここにいるのだろうか。
 そして俺を心配げに見上げている女性は一体誰なのだろうか。
 その女性の隣で涙ぐんでいるのはウィルクス夫人やダレン、その他には数名の見知った顔の使用人達が皆俺を心配げに見上げたまま涙ぐんでいる。
 
 俺は……と言えばその何と言えばいいのだろう。

 理由は全くと言うのか皆目見当がつかない。
 何もわからないのだけれども今俺がいる所は高さがうん、三階にある俺の部屋よりもそれはほんの心持ち低い……か。

 高さ的には約10mくらいのもので横幅は約5mくらいの水柱?
 いやいや水にしては何と言うかこうぬめりがあって、うーんそうだ。
 ぷるんぷるんとしたゼリーみたいなモノの中に俺はいる。
 でも何故ここにゼリーなるものが存在して、どうして俺はこの中にいるのだろう?
 確か母上と一緒にピクニックへ……。

 訳が分からずその場で考え込んでいると何故かぷるんぷるんのゼリーの内部より、何と言えばいいのか実に不可思議な感覚と小さな振動からのくぐもった声と言うのか、音が一緒に俺の身体へじわじわと伝わってきた。

「まぁ、ふふふタマも喜んでいましてよリーヴァイ様」

「たま?」
「はい、タマですわ。これはわたくしの大切なお友達のキングスライムですの」

 小さな鈴を転がす様な……正しくそのものだった。心地の良い澄んだ声音を聞くだけで、何故か俺の心の中がとてもすっきりとしていく。
 つい先程まで感じていた纏わりつく様なドロドロの暗い闇の中みたいな重苦しい空気の中、母上の声を頼りに一人彷徨っていただろう俺は今何処にもいない。

 何気に下を見下ろせば……ってタマと呼ばれしキングスライムはその短い手? 
 触手……何気に腕らしいモノを俺の前へ差し出した瞬間、その腕の真ん中が大きく凹んでいく。
 そうしてあっと言う間にぷるんぷるん且つふわふわで出来た巨大な滑り台と成していた。

 俺はあの日までスライムと会話をした事がなかった。いや抑々スライムが会話を出来るかも知らなかったのだ。だからスライムとの会話をする方法もわからなければそこは普通にスライム語なるものがあるのかさえわからない。
 いやいやその前にスライム語なるものが果たしてあるのかは謎――――である。

 でもこの時タマが――――。

『ソレを使って下へ降りロ』

 と、微妙な振動と共に声なき思いが伝わってきたのだ。
 俺は促されるままにタマの身体をくるくる回りながらふわふわの巨大な滑り台を一気に滑り降りればそこへウィルクス夫人ががばりと抱き着いてきた⁉

「坊ちゃまっ、リーヴァイ様っ、オードリーは本当に心配致しましたよ。まさか、まさかこの様な事になっているなんて……!!」

「ぅ、ウィルクス……つ、潰れる⁉」

 細身のウィルクス夫人の渾身の力が、まだ6歳児の俺の身体にはとてもきつく、この時は本当にぐしゃっと身体中の骨と言う骨が押し潰されるかと真剣に思ってしまった。

「ま、まぁ坊ちゃまっ、何時もご注意申し上げていますでしょう。女性に対しその様な物言いは決して仰ってはいけませんと、ああでも本当に良かったですわ」

 何時もは口煩いウィルクス夫人が、この時ばかりはぎゅうぎゅう俺に抱き着いただけではなく、人前だと言うのに涙を浮かべ……いや既にしっかりと泣いていた。


「本当によう御座いました坊ちゃま」

 ダレンや他の使用人達も何故か安堵した面持ちで涙ぐんでいる。
 当然俺はその理由が皆目見当つかなかったのは言うまでもない。

 そして――――⁉

 俺がタマの身体の中にいた頃俺の私室では父上とバート、精鋭の騎士達と聖女数人達は母上の思念であった一部が闇へと取り込まれ闇の眷属と化した化け物と対峙していたのだった。
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