上 下
35 / 120
第二章  五日後に何かが起こる?

【10】

しおりを挟む


 翌朝ヴィヴィアンの体調はすこぶる良かったのか、何時もより早くに目覚めていた。


 うーん、最近の気怠さはやはり疲れが溜まっていたのかしら。
 で、でもそうだとすればあ、あのっ、し、下の異物感は一体……。

 あぁもしかして? 
 いえもしかしなくとも何か出来物でも出来てい……る? 
 あのじんじんとした感じと言うのはもしかしなくとも余りよくない兆候?

 だとすればよ。旦那様とのその……致した際と同じ様な感覚みたいなものもってそ、そうよ抑々そもそもアレとコレは別物なのよね。
 今まで感じた事のないものだけに、少し考え過ぎ……いいえ、やはりでこれは40歳に突入した故の身体の変調なのかしら。

 もしそうだとすればこれはこれで地味に傷ついてしまうわね。
 でも今日は何も感じないのだからきっとそれ程に大変な病ではない筈。
 そうよヴィヴィアン漸く、そう後二日もすれば本当の意味で自由の身になれるの!!

 ここまでの道のりは正直に言ってとても言葉にし難いくらい大変なモノだったのだけれどもよ。でもそれもこれも全ては後三日までの事だわ。
 えぇ今度こそは何としても成功させなければいけないわ!!
 だから今は自身の身体の事よりも我が人生の為に一層気を引き締めなければいけないのよ!!


「ま、まぁ奥方様、もうお目覚め……って一体どうなさいました?」

 寝室の様子を見に来ただろうリラは、部屋の中央で夜着姿のまま勇ましくガッツポーズをしているヴィヴィアン女主人をほんの一瞬ではあるが、陶然とした面持ちで見つめてしまった。
 確かにまだ眠っていると思われる主が普段の行動とは全く違うだろうその様相に驚かない者はいない。
 ヴィヴィアン自身も寝台でつらつらと、これから先の事について静かに考えていると思い込んでいたのである。

 常より大人しく楚々とした淑女である様に誰よりも心掛けてきた彼女にしてみれば、この姿を見られた事はある意味クリティカルヒットをノーガードで受けてしまっただろうショックにも等しかった。

「おほほほ、お、お早うリラ。ま、あらそのね、た、偶には身体を動かす事もひ、必要かと……」

 実に苦しい言い訳である。

「さ、左様に御座いましたか。ではこれよりお支度の準備に致しましょう。今日は午後より慰問があるとの事なので、午前の間はゆったりとした御召し物に致しましょうか」

「え、えぇそうして貰えると嬉しいわ」

 そう言って何もなかったかの様にリラは一礼すると部屋を辞しナタリー達へ声を掛けた。

 流石は公爵家の出来る侍女。
 触れてはいけないものには一切触れない気遣いは一流です。


 朝食の後ヴィヴィアンはダレンよりプライステッド公爵領で管理をしているランド・スチュワードのウィルフレッドから送られてきた今年の農作物の収穫等の報告を受けていた。
 それを終えると先月来国した隣国の王妃からのお礼状の返事や時候の挨拶をしたためる。
 そうして午後となり軽くお茶を飲み終えると、支度を整え孤児院と病院への慰問に向かう。

 当然公務である故にヴィヴィアンには近衛の騎士達の護衛が付く。
 彼女は気づいてはいないがそこは公務でなくとも普段よりリーヴァイの指示で動く影による護衛と言う名の監視をされているのはご愛敬である。

 一応出掛ける前にサブリーナへ様子を兼ねてお茶へ誘ってはみたものの、バークリー医師より施された医療魔導の効果は強力で未だ惰眠を貪っているらしい。
 その報告にヴィヴィアンは少し心配をしたのだが、ウィルクス夫人は――――。

『妊娠は病ではありませんがよく眠るものです。これもひとえに御子が健やかなる証ですので、奥方様が御心を悩まされる必要はありません』

 と静かな、そして感情の一切伺い知る事の出来ない無表情の笑みを湛えていた。
 こういう表情のウィルクス夫人へ更なる質問を投げかけたとしてもだ。
 彼女が絶対に望む応えを告げてくれない事は、この五年の間にヴィヴィアンはよ~く理解をしていた。
 なのでそれ以上は何も訊かずヴィヴィアンは屋敷を後にした。


 確かにサブリーナ嬢の許へお見舞に向かう時間もないのだけれど。でも大丈夫よね。今の彼女の身に危険は絶対に及ぶ事はないわ。公爵家の皆はとても有能だもの。
 それに彼女はヒロイン。モブで悪役のわたくしが心配をする必要はないと言うのか、今は何をおいても我が身の安全を一番に図らなければいけないのよねぇ。


 揺れる馬車の中でサブリーナの事を考えればだ。いや彼女とリーヴァイの関係を思うと自身の胸の奥がちくりと痛む感覚にヴィヴィアンは敢えて名を付けず、そのままその存在へ気付かない振りをするのであった。
 
しおりを挟む
感想 202

あなたにおすすめの小説

【完結】失いかけた君にもう一度

暮田呉子
恋愛
偶然、振り払った手が婚約者の頬に当たってしまった。 叩くつもりはなかった。 しかし、謝ろうとした矢先、彼女は全てを捨てていなくなってしまった──。

前世軍医だった傷物令嬢は、幸せな花嫁を夢見る

花雨宮琵
恋愛
侯爵令嬢のローズは、10歳のある日、背中に刀傷を負い生死の境をさまよう。 その時に見た夢で、軍医として生き、結婚式の直前に婚約者を亡くした前世が蘇る。 何とか一命を取り留めたものの、ローズの背中には大きな傷が残った。 “傷物令嬢”として揶揄される中、ローズは早々に貴族女性として生きることを諦め、隣国の帝国医学校へ入学する。 背中の傷を理由に六回も婚約を破棄されるも、18歳で隣国の医師資格を取得。自立しようとした矢先に王命による7回目の婚約が結ばれ、帰国を余儀なくされる。 7人目となる婚約者は、弱冠25歳で東の将軍となった、ヴァンドゥール公爵家次男のフェルディナンだった。 長年行方不明の想い人がいるフェルディナンと、義務ではなく愛ある結婚を夢見るローズ。そんな二人は、期間限定の条件付き婚約関係を結ぶことに同意する。 守られるだけの存在でいたくない! と思うローズは、一人の医師として自立し、同時に、今世こそは愛する人と結ばれて幸せな家庭を築きたいと願うのであったが――。 この小説は、人生の理不尽さ・不条理さに傷つき悩みながらも、幸せを求めて奮闘する女性の物語です。 ※この作品は2年前に掲載していたものを大幅に改稿したものです。 (C)Elegance 2025 All Rights Reserved.無断転載・無断翻訳を固く禁じます。

元侯爵令嬢は冷遇を満喫する

cyaru
恋愛
第三王子の不貞による婚約解消で王様に拝み倒され、渋々嫁いだ侯爵令嬢のエレイン。 しかし教会で結婚式を挙げた後、夫の口から開口一番に出た言葉は 「王命だから君を娶っただけだ。愛してもらえるとは思わないでくれ」 夫となったパトリックの側には長年の恋人であるリリシア。 自分もだけど、向こうだってわたくしの事は見たくも無いはず!っと早々の別居宣言。 お互いで交わす契約書にほっとするパトリックとエレイン。ほくそ笑む愛人リリシア。 本宅からは屋根すら見えない別邸に引きこもりお1人様生活を満喫する予定が・・。 ※専門用語は出来るだけ注釈をつけますが、作者が専門用語だと思ってない専門用語がある場合があります ※作者都合のご都合主義です。 ※リアルで似たようなものが出てくると思いますが気のせいです。 ※架空のお話です。現実世界の話ではありません。 ※爵位や言葉使いなど現実世界、他の作者さんの作品とは異なります(似てるモノ、同じものもあります) ※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。

決して戻らない記憶

菜花
ファンタジー
恋人だった二人が事故によって引き離され、その間に起こった出来事によって片方は愛情が消えうせてしまう。カクヨム様でも公開しています。

父が再婚しました

Ruhuna
ファンタジー
母が亡くなって1ヶ月後に 父が再婚しました

【完結】あなたに知られたくなかった

ここ
ファンタジー
セレナの幸せな生活はあっという間に消え去った。新しい継母と異母妹によって。 5歳まで令嬢として生きてきたセレナは6歳の今は、小さな手足で必死に下女見習いをしている。もう自分が令嬢だということは忘れていた。 そんなセレナに起きた奇跡とは?

【完結】彼の瞳に映るのは  

たろ
恋愛
 今夜も彼はわたしをエスコートして夜会へと参加する。  優しく見つめる彼の瞳にはわたしが映っているのに、何故かわたしの心は何も感じない。  そしてファーストダンスを踊ると彼はそっとわたしのそばからいなくなる。  わたしはまた一人で佇む。彼は守るべき存在の元へと行ってしまう。 ★ 短編から長編へ変更しました。

アラフォー王妃様に夫の愛は必要ない?

雪乃
恋愛
ノースウッド皇国の第一皇女であり才気溢れる聖魔導師のアレクサは39歳花?の独身アラフォー真っ盛りの筈なのに、気がつけば9歳も年下の隣国ブランカフォルト王国へ王妃として輿入れする羽目になってしまった。 夫となった国王は文武両道、眉目秀麗文句のつけようがないイケメン。 しかし彼にはたった1つ問題がある。 それは無類の女好き。 妃と名のつく女性こそはいないが、愛妾だけでも10人、街娘や一夜限りの相手となると星の数程と言われている。 また愛妾との間には4人2男2女の子供も儲けているとか……。 そんな下半身にだらしのない王の許へ嫁に来る姫は中々おらず、講和条約の条件だけで結婚が決まったのだが、予定はアレクサの末の妹姫19歳の筈なのに蓋を開ければ9歳も年上のアラフォー妻を迎えた事に夫は怒り初夜に彼女の許へ訪れなかった。 だがその事に安心したのは花嫁であるアレクサ。 元々結婚願望もなく生涯独身を貫こうとしていたのだから、彼女に興味を示さない夫と言う存在は彼女にとって都合が良かった。 兎に角既に世継ぎの王子もいるのだし、このまま夫と触れ合う事もなく何年かすれば愛妾の子を自身の養子にすればいいと高をくくっていたら……。 連載中のお話ですが、今回完結へ向けて加筆修正した上で再更新させて頂きます。

処理中です...