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第二章 五日後に何かが起こる?
【10】
しおりを挟む翌朝ヴィヴィアンの体調は頗る良かったのか、何時もより早くに目覚めていた。
うーん、最近の気怠さはやはり疲れが溜まっていたのかしら。
で、でもそうだとすればあ、あのっ、し、下の異物感は一体……。
あぁもしかして?
いえもしかしなくとも何か出来物でも出来てい……る?
あのじんじんとした感じと言うのはもしかしなくとも余りよくない兆候?
だとすればよ。旦那様とのその……致した際と同じ様な感覚みたいなものもってそ、そうよ抑々アレとコレは別物なのよね。
今まで感じた事のないものだけに、少し考え過ぎ……いいえ、やはりでこれは40歳に突入した故の身体の変調なのかしら。
もしそうだとすればこれはこれで地味に傷ついてしまうわね。
でも今日は何も感じないのだからきっとそれ程に大変な病ではない筈。
そうよヴィヴィアン漸く、そう後二日もすれば本当の意味で自由の身になれるの!!
ここまでの道のりは正直に言ってとても言葉にし難いくらい大変なモノだったのだけれどもよ。でもそれもこれも全ては後三日までの事だわ。
えぇ今度こそは何としても成功させなければいけないわ!!
だから今は自身の身体の事よりも我が人生の為に一層気を引き締めなければいけないのよ!!
「ま、まぁ奥方様、もうお目覚め……って一体どうなさいました?」
寝室の様子を見に来ただろうリラは、部屋の中央で夜着姿のまま勇ましくガッツポーズをしているヴィヴィアンをほんの一瞬ではあるが、陶然とした面持ちで見つめてしまった。
確かにまだ眠っていると思われる主が普段の行動とは全く違うだろうその様相に驚かない者はいない。
ヴィヴィアン自身も寝台でつらつらと、これから先の事について静かに考えていると思い込んでいたのである。
常より大人しく楚々とした淑女である様に誰よりも心掛けてきた彼女にしてみれば、この姿を見られた事はある意味クリティカルヒットをノーガードで受けてしまっただろうショックにも等しかった。
「おほほほ、お、お早うリラ。ま、あらそのね、た、偶には身体を動かす事もひ、必要かと……」
実に苦しい言い訳である。
「さ、左様に御座いましたか。ではこれよりお支度の準備に致しましょう。今日は午後より慰問があるとの事なので、午前の間はゆったりとした御召し物に致しましょうか」
「え、えぇそうして貰えると嬉しいわ」
そう言って何もなかったかの様にリラは一礼すると部屋を辞しナタリー達へ声を掛けた。
流石は公爵家の出来る侍女。
触れてはいけないものには一切触れない気遣いは一流です。
朝食の後ヴィヴィアンはダレンよりプライステッド公爵領で管理をしているランド・スチュワードのウィルフレッドから送られてきた今年の農作物の収穫等の報告を受けていた。
それを終えると先月来国した隣国の王妃からのお礼状の返事や時候の挨拶を認める。
そうして午後となり軽くお茶を飲み終えると、支度を整え孤児院と病院への慰問に向かう。
当然公務である故にヴィヴィアンには近衛の騎士達の護衛が付く。
彼女は気づいてはいないがそこは公務でなくとも普段よりリーヴァイの指示で動く影による護衛と言う名の監視をされているのはご愛敬である。
一応出掛ける前にサブリーナへ様子を兼ねてお茶へ誘ってはみたものの、バークリー医師より施された医療魔導の効果は強力で未だ惰眠を貪っているらしい。
その報告にヴィヴィアンは少し心配をしたのだが、ウィルクス夫人は――――。
『妊娠は病ではありませんがよく眠るものです。これも偏に御子が健やかなる証ですので、奥方様が御心を悩まされる必要はありません』
と静かな、そして感情の一切伺い知る事の出来ない無表情の笑みを湛えていた。
こういう表情のウィルクス夫人へ更なる質問を投げかけたとしてもだ。
彼女が絶対に望む応えを告げてくれない事は、この五年の間にヴィヴィアンはよ~く理解をしていた。
なのでそれ以上は何も訊かずヴィヴィアンは屋敷を後にした。
確かにサブリーナ嬢の許へお見舞に向かう時間もないのだけれど。でも大丈夫よね。今の彼女の身に危険は絶対に及ぶ事はないわ。公爵家の皆はとても有能だもの。
それに彼女はヒロイン。モブで悪役のわたくしが心配をする必要はないと言うのか、今は何をおいても我が身の安全を一番に図らなければいけないのよねぇ。
揺れる馬車の中でサブリーナの事を考えればだ。いや彼女とリーヴァイの関係を思うと自身の胸の奥がちくりと痛む感覚にヴィヴィアンは敢えて名を付けず、そのままその存在へ気付かない振りをするのであった。
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