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第二章 五日後に何かが起こる?
【9】
しおりを挟むヴィヴィアンにはサブリーナがこの時期にやって来るだろう事を予め予想が出来ていた。
サブリーナの登場までにと彼女は一皇族の責任として公式行事や来賓が来るだろうスケジュールを可能な限り故意に操作もしていたのである。
決して我儘をと言う訳ではない。
公爵夫人としての務めを両立しているからこそ、宮殿の内務の者とのスケジュール調整の折にほんの少しだけお願いをしただけである。
その結果後二ヶ月の間は何とか大きな行事はなく、あるとしても施設等への慰問のみ。
またヴィヴィアンはほんの少しずつだが側妃Sを伴い時間を掛けてこれまで色々と教えてきたのである。
勿論理由なんて人間切羽詰まればどうとでも言えるのだと、ヴィヴィアンは何度目かにしてしっかりと悟ったのは言うまでもない。
このまま今日明日の二日間ヴィヴィアンは公爵邸で実務をして過ごし、三日目は孤児院と病院への慰問へ行く事となる。
そうして四日目は……。
「ねぇナタリー」
「はい、何か御用でも奥方様?」
「あ、そうね。別に特別用が――――ってそ、そうそうお昼時にシンディーが話していたでしょ。サブリーナ嬢について……」
「は、はぁそうで御座いましたね」
ナタリーは思いっきり両肩を脱力させて返事をする。
それもそうだろう。
怒り心頭状態のシンディーが執務室へやってきた内容と言えば、余りにもサブリーナの欲深過ぎる要求にシンディーだけではなく屋敷内にいる者達は皆辟易としているのだ。
まぁそこはバークリー医師の機転で明日の昼まではしっかり熟睡する様にはして貰ったものの、その余りの要求の多さに一体何様の心算なのだと誰もが心の中で激しく突っ込みを入れていた。
それを知らないのは寝ている本人ばかりなり……。
とは言え確率は低いとは言えど万が一と言う事もある。
扱い難い相手、然も相手は妊婦ときている。
誰しも関わりを持ちたくないと思い、当然ナタリーもその中の一人である。
だからその名を聞いて思わず主の前だと言うのにも拘らず出てしまったのは溜息だった。
「ふふ、大変ね。そしてごめんなさいね、嫌な事ばかりお願いして……」
「い、いいえ奥方様こそお辛い思いをしてらっしゃるのでは――――」
万が一サブリーナの胎の子の父親がリーヴァイだとすれば、それは即ち妻であるヴィヴィアンへの手痛い裏切り。
だが貴族社会に置いて貴族に愛人や恋人は暗黙の了解で認められている。然も彼女の夫は貴族でも皇族。であれば側妃や公妾も普通にOKなのである。
傷つくのは何時も浮気をされる側である。
「大丈夫。わたくしは平気ですよ」
「え、あ、そ、そうなのですか?」
可笑しい、確か夫婦仲はとても良好だった筈では……と、ナタリーは心の中でセルフ突っ込みを入れていた。
「えぇそれよりもサブリーナ嬢の望む通りにして差し上げて下さいね。だってあの方がこれからの公……い、いえっ、何もなくてよ。さ、さぁもう休もうかしら。ふふ、この様な時間に休めるだなんて本当に久しぶりね」
そう言ってヴィヴァンは寝室へと朗らかに微笑みながら向かっていく。
「本当に奥方様は何時も働き過ぎなのです。お願いに御座いますからもっとお身体をご自愛して下さいませ」
「そうですね、後もう少ししたら今度こそゆっくりと過ごさせて頂くわ」
「本当にで御座いますよ」
念押しの心算でナタリーはヴィヴィアンへ願ってしまう。
「えぇ約束するわ。だってその為にこれまで頑張ったのですもの」
「? え、あ、はい、お約束ですからね。ではお休みなさいませ奥方様」
「お休みなさいナタリー」
そうして静かに扉は閉められていく。
自分以外誰もいないふかふかの寝台の中でヴィヴィアンは一人心の中で静かに決意する。
今度こそっ、えぇ今回こそ絶対に成功させてみせる!!
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