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第二章  五日後に何かが起こる?

【7】

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 ――― ◦ ―――

 公爵夫人であると同時に皇族でもあるヴィヴィアンの日常ははっきり言って多忙である。
 幾ら皇太子が若く健康だからとは言えその彼は現在独身で未だ決まった婚約者は存在しない。
 またリーヴァイと一ヶ月違である彼はリーヴァイと同じく28歳の青年でもある。

 一般的にその年齢に加え皇太子ならば当然妃の一人ないしは二人に子供が数名いたとしても何ら可笑しくはない。
 いやいやそれが普通なのである。しかし現実に皇太子は婚約者のいない独り身なのだ。

 そんな皇太子への釣書は帝国内外問わず毎日山の様に送り付けられるのだが、当の本人が『従兄と同じく生涯ただ一人だけを愛し合える相手でなければ結婚はしないし、帝位ならば大公である叔父上若しくは従弟のリーヴァイが継げばいい。私はそこまで皇帝への椅子に魅力を感じてはいないよ』等と三年前に突然の爆弾宣言をやらかしてくれたかなりの困ったさんなのである。

 まぁ皇太子にしてみれば傍近くでリーヴァイの暴走恋愛事情を幼い頃よりずっと見せられてきたのである。
 それ故なのかわからないが、少なくともリーヴァイの影響を彼は受けてしまったのかもしれない。
 
 とは言え皇太子自身優秀な人物であるのは言うまでもないが、彼の言う通り叔父である大公そしてリーヴァイそれぞれ三人の内何れが将来の皇帝へ誰が立ったとしてもだ。
 彼らを皇帝とた帝国は更なる繁栄への道が約束されているだろう。
 しかし男達はそうだとしてもだ。女性、つまり皇帝の伴侶たる后妃の事になれば話はまた別である。


 そして


 これは今より十五年前の事だった。
 后妃は大陸全土へ蔓延した流行病で帰らぬ人となったのだ。
 当然皇帝の指示の下ありとあらゆる治療や魔術を行使されたのは言うまでもない。
 でも残念ながらその病は未知なるものだった故に皇帝は后妃を、皇太子は母を永遠に失ってしまった。

 またその治療薬は未だ確率はされてはいない。
 医療だけではなく国一番の力を有する聖女も当然尽力を尽くしたのだが、未知なる病の前では聖女すらも思う様に力を行使出来なかった。

 何故なら聖女とは言えど万能の神ではないのである。
 幾ら聖なる力があろうとも彼女達は生身の人間なのだから……。


 そんな頃だった。
 当時侯爵令嬢であったヴィヴィアンに宮殿へ伺候する命が下った。
 その理由は彼女の預かり知らぬ所で称えられている祝福の姫巫女たる力を求められて……だ。

 まぁ結果的に后妃はこの世を去る事となった。
 でもそれはヴィヴィアンの所為ではない。
 ヴィヴィアンが自身の力を理解し願って助けられるものならば、きっと彼女は自身の命すら躊躇う事無く投げ打ててでも、后妃だけではなく病で苦しむ者全てを助けただろう。でも現実は彼女自身その力を有してはいても自由に行使する事は絶対に出来ないのである。

 ただヴィヴィアンより齎された祝福のお陰で后妃は残り僅かな時間を苦しむ事なく、最期の瞬間まで愛する家族達と微笑みの中で生を全うする事が出来たのだ。
 それだけではない。残された皇帝と当時13歳だった皇太子は病に罹患する事もなく、妻であり母であった后妃の最期まで安らかな笑顔を見る事が出来たのは何よりの救いとなった。
 
 后妃を含め多くの者の命を奪った病は感染力も強く罹患すれば隔離となり生きて、いや屍すらも会えず荼毘に付されてしまうのが現状である。
 

 話は戻りその褒美としてヴィヴィアンがリーヴァイの妻となった訳ではない。
 また当時、そして今現在もヴィヴィアンは誰かが幸せになったからと言ってその対価を求めた事は一度たりともない。

 ある意味ヴィヴィアンはそういう事では誰よりも無欲なのかもしれない。

 その後皇帝は二人の側妃の何れかを后妃へ昇格させる事もなく現在においても后妃の座は空位。
 いや、皇帝にとっての后妃は今も昔も変わらずたった一人の女性だけのものなのかもしれない。
 因みに側妃達は一人ずつ皇女を生んではいるがまだ幼く、皇子は后妃の産んだ皇太子ただ一人だけ。

 そして現大公であるリーヴァイの父親、つまりは彼の母親もこの世の者ではない。
 何故なら前大公妃は幼いリーヴァイを守った際に絶命したのだから……。



 そうして回り回って十年後にヴィヴィアンは想像も?
 いやいや彼女は精一杯運命に抗っていた。それはもう誰の目から見ても明々白々たるものであった。だが現実とは時に厳しく冷たいものである。

 プライステッド公爵夫人ヴィヴィアンは図らずも五年前リーヴァイの妻となった時点で、エアルドレッド帝国最高位の女性となってしまったのだから……。
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