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第一章 突然の訪問者
【21】
しおりを挟む「ちょっとっ、あんたって本当に役に立たないレディーズ・メイドね!!」
「モウシワケゴザイマセン」
シンディーの気持ちの籠らない口先だけの謝罪を受け、特に気分を害する訳もなくサブリーナは目覚めると共に思いのつく限り次から次へとシンディーを含め数人の侍女達へ山の様な指示を出していく。
まるで自分こそがこの公爵家の女主人でもあるかの様に……。
「ふん、まあいいわ。兎に角早急に私のドレスを最低でも十着は用意して貰ってよ。勿論宝飾品もよ。あ、でもあのワイン樽夫人のお古は嫌よ。だって……ねぇ、考えなくてもわかるでしょ。女としての寿命を終わったおばさんの趣味とぉ、若くて美しいこの私が身につけるものとではデザインはおろか何から何まで色々と好みが全く違うのに決まっているでしょ」
そう言ってサブリーナはニヤニヤと下卑た笑みを湛え、ここにはいないヴィヴィアンを更に貶める様に両手で大仰な仕草で以って樽の形を作ってみせる。
「き、貴様よくもっ、奥方様に対し何と言う無礼極まりのない!!」
「「シンディーさん!!」」
暴言を吐き続けるサブリーナへ今にも掴みかからんとする勢いのシンディーを、ハウスメイドのジェーンとメアリーの二人は必死になって抑え込む。
「あ~ら何か気に障った事でも言ったかしらぁ。でも今はその奥方様の命令とやらであなたは私の専属な筈よ」
「うぅっっ……」
「ふふん、専属なら専属らしく従順な態度で主人へ仕えなければいけないわよねぇ。そうでしょうシンシア・マーゴット・エイムズ」
「――――っっ⁉」
「ふふ、やっぱりあなたも覚えていたのね。そうね勿論私もちゃんと覚えていてよ」
「貴様!!」
「十年前に受けた屈辱は簡単には忘れられないって事かしらぁ。この私に対しあなたが行った数々の許されざる罪を今回はあの時の何倍にもして償わさせてあげてよ。あ、でもリーヴァイ様の事は別よ。彼はこの私の最愛の御方なのですもの。ふふふ、もう直ぐ愛しのリーヴァイ様がこの屋敷へお戻りになられれば、あのワイン樽夫人と即離縁よね。そうして……あぁそうね、婚姻証明書はその日に書いてもやっぱり美男美女の盛大且つ壮麗なる結婚式を行わないって訳にはいかないでしょう。そうなるとお腹が大きくなるまでにウェディングドレスをって今から仕立てるのもアリよね。でもその前に……ワイン樽夫人とあなたの後始末をきちんとしなければ……ね」
「き、貴様その様な妄言を言ってよい事と悪い事の区別くらいわから――――」
「これが現実なのよ」
ぎりっと歯軋りをしながらシンディーは地を這う様な低い声でサブリーナを恫喝し掛ければ、サブリーナは得意満面にぐいっとシンディーの言葉へ被せる様に彼女の顔の前に自身の腹をこれでもかと突き出してみせる。
「今更この子の父親の名を言わなくてもわかるわよね。そして私はこの子の母親……つまりはこのプライステッド公爵家の正当なる妻となるべき存在よ」
怒りで全身をわなわなと震わせるシンディーへ、サブリーナは愉しげにそして更に容赦なく追い込んでいく。
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