上 下
23 / 120
第一章  突然の訪問者

【21】

しおりを挟む


「ちょっとっ、あんたって本当に役に立たないレディーズ・メイドね!!」
「モウシワケゴザイマセン」

 シンディーの気持ちの籠らない口先だけの謝罪を受け、特に気分を害する訳もなくサブリーナは目覚めると共に思いのつく限り次から次へとシンディーを含め数人の侍女達へ山の様な指示を出していく。

 まるで自分こそがこの公爵家の女主人でもあるかの様に……。
 
「ふん、まあいいわ。兎に角早急に私のドレスを最低でも十着は用意して貰ってよ。勿論宝飾品もよ。あ、でもあのワイン樽夫人のお古は嫌よ。だって……ねぇ、考えなくてもわかるでしょ。女としての寿命を終わったおばさんの趣味とぉ、若くて美しいこの私が身につけるものとではデザインはおろか何から何まで色々と好みが全く違うのに決まっているでしょ」

 そう言ってサブリーナはニヤニヤと下卑た笑みを湛え、ここにはいないヴィヴィアンを更に貶める様に両手で大仰な仕草で以って樽の形を作ってみせる。

「き、貴様よくもっ、奥方様に対し何と言う無礼極まりのない!!」
「「シンディーさん!!」」

 暴言を吐き続けるサブリーナへ今にも掴みかからんとする勢いのシンディーを、ハウスメイドのジェーンとメアリーの二人は必死になって抑え込む。

「あ~ら何か気に障った事でも言ったかしらぁ。でも今はそのとやらであなたは私の専属な筈よ」
「うぅっっ……」
「ふふん、専属なら専属らしく従順な態度で主人へ仕えなければいけないわよねぇ。そうでしょうシンシア・マーゴット・エイムズ」

「――――っっ⁉」
「ふふ、やっぱりあなたも覚えていたのね。そうね勿論私もちゃんと覚えていてよ」
「貴様!!」
「十年前に受けた屈辱は簡単には忘れられないって事かしらぁ。この私に対しあなたが行った数々の許されざる罪を今回はあの時の何倍にもして償わさせてあげてよ。あ、でもリーヴァイ様の事は別よ。彼はこの私の最愛の御方なのですもの。ふふふ、もう直ぐ愛しのリーヴァイ様がこの屋敷へお戻りになられれば、あのワイン樽夫人と即離縁よね。そうして……あぁそうね、婚姻証明書はその日に書いてもやっぱり美男美女の盛大且つ壮麗なる結婚式を行わないって訳にはいかないでしょう。そうなるとお腹が大きくなるまでにウェディングドレスをって今から仕立てるのもアリよね。でもその前に……ワイン樽夫人とあなたの後始末をきちんとしなければ……ね」
「き、貴様その様な妄言を言ってよい事と悪い事の区別くらいわから――――」
「これが現実なのよ」

 ぎりっと歯軋りをしながらシンディーは地を這う様な低い声でサブリーナを恫喝し掛ければ、サブリーナは得意満面にぐいっとシンディーの言葉へ被せる様に彼女の顔の前に自身の腹をこれでもかと突き出してみせる。

「今更この子の父親の名を言わなくてもわかるわよね。そして私はこの子の母親……つまりはこのプライステッド公爵家の正当なる妻となるべき存在よ」

 怒りで全身をわなわなと震わせるシンディーへ、サブリーナは愉しげにそして更に容赦なく追い込んでいく。

しおりを挟む
感想 202

あなたにおすすめの小説

元侯爵令嬢は冷遇を満喫する

cyaru
恋愛
第三王子の不貞による婚約解消で王様に拝み倒され、渋々嫁いだ侯爵令嬢のエレイン。 しかし教会で結婚式を挙げた後、夫の口から開口一番に出た言葉は 「王命だから君を娶っただけだ。愛してもらえるとは思わないでくれ」 夫となったパトリックの側には長年の恋人であるリリシア。 自分もだけど、向こうだってわたくしの事は見たくも無いはず!っと早々の別居宣言。 お互いで交わす契約書にほっとするパトリックとエレイン。ほくそ笑む愛人リリシア。 本宅からは屋根すら見えない別邸に引きこもりお1人様生活を満喫する予定が・・。 ※専門用語は出来るだけ注釈をつけますが、作者が専門用語だと思ってない専門用語がある場合があります ※作者都合のご都合主義です。 ※リアルで似たようなものが出てくると思いますが気のせいです。 ※架空のお話です。現実世界の話ではありません。 ※爵位や言葉使いなど現実世界、他の作者さんの作品とは異なります(似てるモノ、同じものもあります) ※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。

理想の女性を見つけた時には、運命の人を愛人にして白い結婚を宣言していました

ぺきぺき
恋愛
王家の次男として生まれたヨーゼフには幼い頃から決められていた婚約者がいた。兄の補佐として育てられ、兄の息子が立太子した後には臣籍降下し大公になるよていだった。 このヨーゼフ、優秀な頭脳を持ち、立派な大公となることが期待されていたが、幼い頃に見た絵本のお姫様を理想の女性として探し続けているという残念なところがあった。 そしてついに貴族学園で絵本のお姫様とそっくりな令嬢に出会う。 ーーーー 若気の至りでやらかしたことに苦しめられる主人公が最後になんとか幸せになる話。 作者別作品『二人のエリーと遅れてあらわれるヒーローたち』のスピンオフになっていますが、単体でも読めます。 完結まで執筆済み。毎日四話更新で4/24に完結予定。 第一章 無計画な婚約破棄 第二章 無計画な白い結婚 第三章 無計画な告白 第四章 無計画なプロポーズ 第五章 無計画な真実の愛 エピローグ

聖女アマリア ~喜んで、婚約破棄を承ります。

青の雀
恋愛
公爵令嬢アマリアは、15歳の誕生日の翌日、前世の記憶を思い出す。 婚約者である王太子エドモンドから、18歳の学園の卒業パーティで王太子妃の座を狙った男爵令嬢リリカからの告発を真に受け、冤罪で断罪、婚約破棄され公開処刑されてしまう記憶であった。 王太子エドモンドと学園から逃げるため、留学することに。隣国へ留学したアマリアは、聖女に認定され、覚醒する。そこで隣国の皇太子から求婚されるが、アマリアには、エドモンドという婚約者がいるため、返事に窮す。

結婚記念日をスルーされたので、離婚しても良いですか?

秋月一花
恋愛
 本日、結婚記念日を迎えた。三周年のお祝いに、料理長が腕を振るってくれた。私は夫であるマハロを待っていた。……いつまで経っても帰ってこない、彼を。  ……結婚記念日を過ぎてから帰って来た彼は、私との結婚記念日を覚えていないようだった。身体が弱いという幼馴染の見舞いに行って、そのまま食事をして戻って来たみたいだ。  彼と結婚してからずっとそう。私がデートをしてみたい、と言えば了承してくれるものの、当日幼馴染の女性が体調を崩して「後で埋め合わせするから」と彼女の元へ向かってしまう。埋め合わせなんて、この三年一度もされたことがありませんが?  もう我慢の限界というものです。 「離婚してください」 「一体何を言っているんだ、君は……そんなこと、出来るはずないだろう?」  白い結婚のため、可能ですよ? 知らないのですか?  あなたと離婚して、私は第二の人生を歩みます。 ※カクヨム様にも投稿しています。

竜王の花嫁は番じゃない。

豆狸
恋愛
「……だから申し上げましたのに。私は貴方の番(つがい)などではないと。私はなんの衝動も感じていないと。私には……愛する婚約者がいるのだと……」 シンシアの瞳に涙はない。もう涸れ果ててしまっているのだ。 ──番じゃないと叫んでも聞いてもらえなかった花嫁の話です。

誰にも信じてもらえなかった公爵令嬢は、もう誰も信じません。

salt
恋愛
王都で罪を犯した悪役令嬢との婚姻を結んだ、東の辺境伯地ディオグーン領を治める、フェイドリンド辺境伯子息、アルバスの懺悔と後悔の記録。 6000文字くらいで摂取するお手軽絶望バッドエンドです。 *なろう・pixivにも掲載しています。

決して戻らない記憶

菜花
ファンタジー
恋人だった二人が事故によって引き離され、その間に起こった出来事によって片方は愛情が消えうせてしまう。カクヨム様でも公開しています。

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

処理中です...