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第一章 突然の訪問者
【19】
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――― ◦ ―――
「はぁ……到頭この日が来てしまいましたわね」
今この時間ヴィヴィアンの傍には誰もいない。
ヴィヴィアンはシンディーをサブリーナ付きへ据えた後、今夜は一人で過ごしたいと常の彼女らしかぬ物言いで静かに自身の私室へと帰って行ったのである。
私室に戻ったヴィヴィアンは夫婦の寝室にあるもう一つの扉を開ければこそこそと泥棒宜しく……と言う訳ではない。
何故ならその部屋はヴィヴィアンの最愛の夫の私室。
普段より彼女が直接触れる事のなかったワインセラーを開けば、そこにあるの酒を嗜む事のないヴィヴィアンでもわかる様々な有名どころの銘柄のボトル達。因みにこれは公爵家にとってほんの一部であり、地下の貯蔵庫には数え切れないくらい高価な酒類が眠っている。
彼女は迷う事なく封の解かれているだろうボトルを手に取ると、視界に入った小振りのグラスへほんの少し深いワインレッドの色味のある液体をこぷりと注ぐ。
そうしてきちんとコルクを押し込め元の場所へ戻せば、液体の入ったワイングラスを持って自身の部屋へと帰っていく。
私室へ戻り座り心地の良さそうな自身のお気に入りのソファーへ腰掛けると、ヴィヴィアンは普段飲み慣れないワインをゆっくりちびちびと飲み下せば、芳醇な香りと後からくるアルコールの苦みを味わいつつ深く嘆息する。
「ぅ……ごめんな、さいねシンディー。今日のわたくしはこれ以上ないくらい貴女の信頼を踏み躙ってしまってたわ。本当にごめんなさい……なんて言葉一つで到底許されない行い、だわね」
でも、どうか何時の日かわかって欲しいの。
いえ何時かわかって欲しいだなんてそれこそが烏滸がましい。
譬え恨まれてでもいいの。
シンディーが元気で、何時まででもあの愛らしい笑顔のままでいてさえくれればそれでいいのよ。
「この先わたくしなんかと一緒にいてはシンディーは不幸に、いいえっ、今度こそ絶対に彼女を死なせたりなんてしない!!」
そう自分へ言い聞かせる様にヴィヴィアンは強い口調で言い切れば、グラスに残っていたワインを一気に飲み干してしまった。
一人故にその行為を誰も咎める者はいない。
元々アルコールに強くないヴィヴィアンはどの様な席でも自ら進んでそれを摂取しようとはしない。
その理由はただ単に弱いだけではない。
何故ならアルコールを少量でも摂取すればヴィヴィアンは所構わずその場で泣いてしまうのである。
その証拠に今現在進行形で彼女の紫水晶の双眸より大粒の涙を幾筋も頬を伝って落ちていた。
彼女の場合泣いて、誰彼なしにくだを巻く――――所謂泣き上戸。
思い返せば最初はそう17歳の成人の時。
宮殿では新成人の為に盛大なる舞踏会が催されていた。
当然成人を迎えたばかりのヴィヴィアンは当時の婚約者と共に参加をし、その会場内で初めて味わうワインを口にしたのである。
まぁ言って見れば大人への通過儀礼的な、何時もの飲み慣れた果実水ではなく醸造されたワイン独特の深みのある赤く円やかな色は、ヴィヴィアンの手にしたグラスの中で何とも蠱惑的で妖しい魅力がゆったりと満ち溢れていた。
そうしてその魅力的なワインへ誘われるままにそっと一口口内へ流し込めば、ふわりと口から鼻へと抜けるアルコールの感覚。
次に胸がどくどくと忙しなく打ち始めれば普段ではあり得ないだろうスピードでヴィヴィアンの頭の中はふわふわと、つい今し方までここは壮麗な宮殿で緊張していた筈だったと言うのにだ。何故か彼女の視界に広がるのは色とりどりの花々が美しく咲き乱れる野山へと変わり、皆と一緒に楽しいピクニックへ出掛けた時の高揚感――――までが彼女の覚えている記憶の全てだった。
だが現実は野山へピクニックへ行った訳でもなければ行き成り違う場所へ転移したのでもない。
大体この世界に置いて転移と言う高等魔導術なんてものは極々一部の、特別な人間にしか行使出来ない代物である。
ならば――――そうヴィヴィアン自身は舞踏会場より少しも移動をしてはいなかったのである。
とは言えヴィヴィアン自身の脳内は変わらず美しい鳥達は競う様に囀り、近くで川の潺が聞こえてくる様な野山にいる状態だからして、婚約者や友人と話す声も何時もなら囁く様に大人し気な口調だったものが次第に、然も衆目監視の中、会場内へ響き渡る程の大きな声と淑女らしかぬ元気一杯な笑い声に、参加者一同皆驚愕を隠しきれないでいた。
常に控えめな淑女として名高い侯爵令嬢であるヴィヴィアンの、恐らく人生初の大やらかし記念日となった瞬間でもあった。
「はぁ……到頭この日が来てしまいましたわね」
今この時間ヴィヴィアンの傍には誰もいない。
ヴィヴィアンはシンディーをサブリーナ付きへ据えた後、今夜は一人で過ごしたいと常の彼女らしかぬ物言いで静かに自身の私室へと帰って行ったのである。
私室に戻ったヴィヴィアンは夫婦の寝室にあるもう一つの扉を開ければこそこそと泥棒宜しく……と言う訳ではない。
何故ならその部屋はヴィヴィアンの最愛の夫の私室。
普段より彼女が直接触れる事のなかったワインセラーを開けば、そこにあるの酒を嗜む事のないヴィヴィアンでもわかる様々な有名どころの銘柄のボトル達。因みにこれは公爵家にとってほんの一部であり、地下の貯蔵庫には数え切れないくらい高価な酒類が眠っている。
彼女は迷う事なく封の解かれているだろうボトルを手に取ると、視界に入った小振りのグラスへほんの少し深いワインレッドの色味のある液体をこぷりと注ぐ。
そうしてきちんとコルクを押し込め元の場所へ戻せば、液体の入ったワイングラスを持って自身の部屋へと帰っていく。
私室へ戻り座り心地の良さそうな自身のお気に入りのソファーへ腰掛けると、ヴィヴィアンは普段飲み慣れないワインをゆっくりちびちびと飲み下せば、芳醇な香りと後からくるアルコールの苦みを味わいつつ深く嘆息する。
「ぅ……ごめんな、さいねシンディー。今日のわたくしはこれ以上ないくらい貴女の信頼を踏み躙ってしまってたわ。本当にごめんなさい……なんて言葉一つで到底許されない行い、だわね」
でも、どうか何時の日かわかって欲しいの。
いえ何時かわかって欲しいだなんてそれこそが烏滸がましい。
譬え恨まれてでもいいの。
シンディーが元気で、何時まででもあの愛らしい笑顔のままでいてさえくれればそれでいいのよ。
「この先わたくしなんかと一緒にいてはシンディーは不幸に、いいえっ、今度こそ絶対に彼女を死なせたりなんてしない!!」
そう自分へ言い聞かせる様にヴィヴィアンは強い口調で言い切れば、グラスに残っていたワインを一気に飲み干してしまった。
一人故にその行為を誰も咎める者はいない。
元々アルコールに強くないヴィヴィアンはどの様な席でも自ら進んでそれを摂取しようとはしない。
その理由はただ単に弱いだけではない。
何故ならアルコールを少量でも摂取すればヴィヴィアンは所構わずその場で泣いてしまうのである。
その証拠に今現在進行形で彼女の紫水晶の双眸より大粒の涙を幾筋も頬を伝って落ちていた。
彼女の場合泣いて、誰彼なしにくだを巻く――――所謂泣き上戸。
思い返せば最初はそう17歳の成人の時。
宮殿では新成人の為に盛大なる舞踏会が催されていた。
当然成人を迎えたばかりのヴィヴィアンは当時の婚約者と共に参加をし、その会場内で初めて味わうワインを口にしたのである。
まぁ言って見れば大人への通過儀礼的な、何時もの飲み慣れた果実水ではなく醸造されたワイン独特の深みのある赤く円やかな色は、ヴィヴィアンの手にしたグラスの中で何とも蠱惑的で妖しい魅力がゆったりと満ち溢れていた。
そうしてその魅力的なワインへ誘われるままにそっと一口口内へ流し込めば、ふわりと口から鼻へと抜けるアルコールの感覚。
次に胸がどくどくと忙しなく打ち始めれば普段ではあり得ないだろうスピードでヴィヴィアンの頭の中はふわふわと、つい今し方までここは壮麗な宮殿で緊張していた筈だったと言うのにだ。何故か彼女の視界に広がるのは色とりどりの花々が美しく咲き乱れる野山へと変わり、皆と一緒に楽しいピクニックへ出掛けた時の高揚感――――までが彼女の覚えている記憶の全てだった。
だが現実は野山へピクニックへ行った訳でもなければ行き成り違う場所へ転移したのでもない。
大体この世界に置いて転移と言う高等魔導術なんてものは極々一部の、特別な人間にしか行使出来ない代物である。
ならば――――そうヴィヴィアン自身は舞踏会場より少しも移動をしてはいなかったのである。
とは言えヴィヴィアン自身の脳内は変わらず美しい鳥達は競う様に囀り、近くで川の潺が聞こえてくる様な野山にいる状態だからして、婚約者や友人と話す声も何時もなら囁く様に大人し気な口調だったものが次第に、然も衆目監視の中、会場内へ響き渡る程の大きな声と淑女らしかぬ元気一杯な笑い声に、参加者一同皆驚愕を隠しきれないでいた。
常に控えめな淑女として名高い侯爵令嬢であるヴィヴィアンの、恐らく人生初の大やらかし記念日となった瞬間でもあった。
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