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第一章 突然の訪問者
【17】
しおりを挟む最初の切っ掛けかもしれない出来事は、それはヴィヴィアンがまだ15歳の頃だった。
当時ヴィヴィアンには三歳年上で同格の侯爵家の婚約者が存在していた。
幼い頃からの付き合いでもあり婚約者との関係は非常に良好で、二年後のヴィヴィアンの成人と共に結婚式まで順調に進む筈だった。
「済まない、何故なのかは私にもわからない。でも私には――――」
「ごめんなさいヴィー!! 許してなんて絶対に言えない!! で、でもでも……」
目の前には真面目で優しい婚約者。
そしてもう一人は幼い頃よりの親友でもある令嬢。
また決して二人共がヴィヴィアンを裏切る様な者達ではなかった。
しかしこの数日前親友である令嬢と一緒にお茶会をしたのである。
然も極々一般的な……だ。
「……い、いいの。二人が幸せならばそれがわたくしの幸せだわ」
その言葉しか言えなかった。
正直に言ってこの時ヴィヴィアンの心はしっかりと傷ついてはいたのだ。でもどうしても目の前にいる幸せそうな二人を憎む気持ちになれなかった。
それはヴィヴィアンにとって憎む事よりも親友達の幸せの方に比重が重かったのか、はたまた彼女自身まだ本当の恋を知らなかったからなのかもしれない。
親友はきっと長い間報われないと思い悩みつつも、元婚約者を秘かに慕っていたのだろう。
それを思えば自身の心の傷等些事に過ぎない。
等とまぁ昔からかなりおっとりとした性格のヴィヴィアンの、最初の出だしはそんな感じだったのである。
だがそれも二度、三度も続けばだ。それと同時にヴィヴィアンの周りにいる者達が幸せになれば成る程、彼女の婚期は何処までも伸びていく。
最早単なる偶然ではないと、流石の本人を含め周囲がそう確信した時だった。
「――――ぅ、嘘でしょ? もしこの先、このまま生きていれば……」
ミルワード侯爵令嬢 レディ・ヴィヴィアン・ローズ・コッカー22歳は、ある日突然あろう事か、前世の記憶を思い出してしまった。
人々へあらん限りの祝福を与え続けるけれども自身は悉く男運にこれでもかと見放されればだ。漸く念願の結婚をした途端、今度はその夫を娘の様な若くも美しい女性に寝取られるだけではない。
ヴィヴィアン自身の生命力を代償にした祝福を夫と若い愛人によって根こそぎ搾り取られた後は、役に立たないとばかりに場末の娼館へ売られ、今度は綺麗も汚い……いやいやあれは物凄く汚らわしい数え切れないの男達の玩具にされた後の腹ボてエンド!!
「い、嫌よ!! あの様な辱めをまた繰り返さなければいけないなんて絶対に嫌っ!!」
行き成り降って湧いた様な思い出したくもない悍ましい前世の記憶。
その余りの衝撃と恐怖にヴィヴィアンは知らずに全身をガタガタと小刻みに震わせてしまう。
そうして無意識に両の腕で自身の身体をこれでもかと、きつく抱き締めながらヴィヴィアンは暫く熟考と言う名の現実逃避をした。
一体何時間もの間そうしていたのかはわからない。
でもだからと言って直ぐにとんでもなく素晴らしい考えなんてそうそう思いつく筈もないのである。
そう数日と言う時間を掛けてヴィヴィアンはある一つの道を見出したのだった。
「今度こそ絶対に腹ボてエンドなんて、悍ましい人生を歩んだりするものですか!! わたくしの人生はわたくしだけのもの!!」
しかしである。
結果から言えば最初に見出した道は呆気なく失敗した。
然も実の父親によって……。
だがそれでもヴィヴィアンは諦めなかった。
きっと諦めれば最悪な展開しか待ち受けてはいないだろうから……。
それ故にそれからのヴィヴィアンは何度も手を変え品を変えては次から次へと手当たり次第、いやもう思いつくままに行動へと移していくのであった。
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