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第二部 第一章 囚われのヴィヴィアン
17 断罪 女は自ら作りし穴へと堕ちる
しおりを挟むぎいぃぃぃぃぃ……
手入れの行き届いている筈の公爵邸の奥にあるサロンの扉が、まるで荒れた家屋の建付けの悪い扉の様な軋む音を、然も気づけば不気味な程暗い室内へ不気味にそして静かに響き渡る。
また何故気付かなかったのだろうか。
先程まで眩い陽光によりここは清浄な光と空気に満ちていた場所だったのが、ほんの少し数分経過しただけで室内奥までこんなにも光が射し込まなくなっただけなのだろうか。
いやその様な筈はない。
ヴィヴィアンの考案した魔石を用いた人感センサー付きの照明が公爵邸には沢山備え付けられている。
だからこのサロンに人がいると感知されればだ。
そこは問題なく照明は自動的に点灯するのだから……。
そしてこのサロンには確実に人間は存在していた。
「ちょっとぉ、一体どうなっているって言うのよぉ!! 公爵家と言えばお貴族様の中でも結構偉いんでしょ。だったら明かりくらいケチケチするなって言うのよ!! ねぇおじさんもそう思うで……しょ?」
ベラは仄暗い室内の中、傍にいるだろうダレンへ文句を言ってみた――――と言うよりもである。
彼女はヴィヴィアン達が退室してからと言うものずっとダレンへうだうだと文句を言い続けていたのだ。
だがそんなベラに対しダレンは……。
「私は当家の家令に御座います。旦那様がお戻りになられるまでこの場にて控えているのが私の仕事に御座いますれば、どうか私の事は壁――――とお思いになって下さいませ」
そうベラへ返答をした後は一切ダレンは何を言われようとも一切口を開かなかったのである。
ただ静かにベラと名乗る女を冷ややかな視線で以って見ていただけだった。
まあベラ自身一頻り文句と言う暴言を吐いた後は比較的静かにはなった。
だが流石にこの室内の異様な仄暗さと何とも言えない不気味な、何故か酷く心を落ち着かせない陰鬱な空気が、彼女をどうしようもなく不安へと駆り立てていく。
そうして我慢出来ずにダレンへ話し掛ける事で自身の心を何とか落ち着けようとしたのにも拘らずである。
当のダレンは一向に返事すらなく幾ら壁だと思えと言われてもだ。
ベラにはどうしても自分以外の人の気配が、気付けば全くしないと言う事に益々恐怖を煽られてしまう。
「ねぇちょっと……幾ら壁だって言っても返事くらいしなさいよっ。言っておくけどアタシは客!! それももう直ぐここの旦那と懇ろな関係になればあの豚女を早々に追い出すんだからさあ。そうすればアタシがここの公爵夫人様になるって言うのに……ってねぇ返事くらいって言うかぁ、あ、明かりくらいさっさとつけなさいよ!!」
どんなにベラが叫んでもダレンが返答をする気配はない。
いや、彼女の傍にいるだろうダレンの気配が冗談ではなく本当に一切感じられないのだ。
息遣いや衣擦れ、他にも生きている人間の普通に出すであろう生活音と言う音の一つすらベラ自身のモノしか感じられない。
「ちょ、も、もしかしなくってもここにはあ、アタシ一人……だけ?」
不安に駆られベラは辺りをきょろきょろと見廻してみる。
確かにここは完全なる闇の中ではない。
ただ仄暗いだけ。
時間にすれば15時を過ぎた頃……?
そうまだ15時を過ぎた頃なのに、然も今は真冬ではなく今は初夏。
そこは普通に一年を通しても日差しは一番長い季節。
いや何よりもだ。
15時と言えばまだまだ普通に明るい時間帯。
「あっ⁉」
そこで初めて今のこの現状が普通でない事にベラは思い至ると同時にせり上がる恐怖感は既に限界を迎えようとしていた。
「じょ、冗談じゃあないわよっ。そ、そうよ命あっての物種なんだから!! そう、だから、だか……ひぃっ⁉」
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