上 下
83 / 197
第一部  第五章  拗らせとすれ違いの先は……

3  後悔と言う名の懺悔  リーヴァイSide Ⅲ

しおりを挟む


 本当に幸せだった。

 
 恋人として何か特別な事をしている訳でもない。


 いや、華……貴女とこうして再び巡り逢いまた同じ時を生きていられる幸せの毎日こそが俺にとって何よりの特別だったのだ!!


 担当医とその患者と言う間柄であってもだ。
 

 貴女の病状は残念ながら日々悪化の一途を辿ろうとも、俺は何としても病状をこれ以上進行させまいと何度も足掻きそして仕事の合間や仕事が終われば必ず貴女の傍にいた。

 優しい貴女の事だからきっと俺が貴女を励ましているとでも思っているのだろうね。


 でも真実は違うのだよ。
 俺の方が貴女から離れ難くて仕方がないのだよ。


 医師だからこそ病状の進行具合を肌でビシバシと伝わる様にわかってしまう。
 

 それと同時に絶対に知りたくもないと言うのにも拘らず時間の経過と共に貴女の残り僅かな命の灯まで知ってしまう恐怖と不安にどうしようもなく心が押し潰されそうになっている俺自身がだ。

 愛しい貴女を失うだろう恐怖故に少しでも時間の許す限り貴女の傍にいたいだけなんだ!!


 ふ、子供かって言われても仕方がない。

 俺にしてみれば貴女の居ない世界なんて到底考えられないのだからね。


 でもそんな貴女には何時も驚かされるね。

 何故かと言えば言葉でいや態度にすらも出してはいないと思うのだよ。

 今は12歳も年上のおじさんで貴女の担当医でもあるのだからね。

 病魔によって十分に苦しめられている貴女の負担には絶対になりたくないとそこは理解ある大人としてだね。

 うんまあそうは言っても貴女の傍にくっ付いてはいるものの、本音を言えば泣き出したいくらいの、今にも押し潰されそうな不安な気持ちは必死に隠しまた抑えていた心算だったのに……。


「何時までも、たとえ私が先に死んでしまったとしてもです。わ、私の心はずっと先生……結人さんと共に生きていますから……」

 真っ赤な顔……だけじゃあない。

 全身を朱に染め上げた姿。

 また可愛らしくもはにかんだ表情で、息苦しさを必死に誤魔化そうとすればだ。

 必死の笑顔と力が入らないだろう震える両腕でそっと俺の頭を優しく抱き締めてくれた瞬間――――俺は情けなくも貴女の前で声を出して泣いてしまったよ。


 だってそれはもう――――の一択しかないでしょ。


 こんなにも愛しくて、愛し過ぎる女性にこんなにも優しい言葉と態度を見せられれば俺と言う人間はどれ程幸せ過ぎる男なのだろうと、嬉しさと悲しさと悔しさと不安だけれど……でもやはり幸せ過ぎて泣かされてしまった。

 ああこんなにも愛されて俺は、俺と言う人間はこの上もなく幸せなのだと柄にもなく思っていた日より数日後の事だった。


 まさかあの様な事が起こるだなんて一体誰が想像しただろう。



 その日は週末。

 夕方から――――とは言っても13時までには出勤し医局で書類整理をしていたんだ。
 

 外来診察や病棟での回診そして手術。

 はっきり言って猫の手も借りたいくらいに忙しい。
 ついでに犬でも何なら前世のでも……いい訳はないよな。

 ついつい自分の前世に人外的なモノがあるだけで何となく親近感が湧く――――って湧いてどうするっ。


 兎に角俺が言いたいのはそれだけ毎日が忙しいって事だな。

 そしてその隙間時間に恋人である貴女との逢瀬が俺の何よりも癒し時間でありご褒美なのだ。

 同僚や看護師達との飲み会やカラオケよりも一分一秒でも華、貴女の傍で貴女の吐息と温かさに譬えそう指の一本だけでもいい。


 肉体的には愛を交わせなくとも貴女を見つめているだけで、俺と言う存在は何処までも幸せになれるのだよ。


 本当に罪な女性だよっていや、俺にとっては今も昔も変わらず愛おしい女神なんだ。


 だから少しでも貴女との時間を作る為に俺は面倒……いやいやこれも立派な仕事だ。

 そうして雑念を払いつつ淡々と作業を進めていた時だった。

 院内用携帯よりコールが鳴り響いたと同時に何か嫌な予感めいたものを感じてしまった。


『先生っ、三枝さんがっ、華ちゃんの意識がっ、バイタルは――――って呼吸がもう……』


 華⁉


 俺は携帯を切る事も忘れてそれを握ったまま医局を飛び出した!!

 途中でいい加減に履いていた靴の所為で見っともなく何度も転倒し掛けたがそんな事なんて今はどうでも良かった。


 ただただ一刻も早く華――――貴女の許へ飛んで行きたい!!
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

私を裏切った相手とは関わるつもりはありません

みちこ
ファンタジー
幼なじみに嵌められて処刑された主人公、気が付いたら8年前に戻っていた。 未来を変えるために行動をする 1度裏切った相手とは関わらないように過ごす

今さら言われても・・・私は趣味に生きてますので

sherry
ファンタジー
ある日森に置き去りにされた少女はひょんな事から自分が前世の記憶を持ち、この世界に生まれ変わったことを思い出す。 早々に今世の家族に見切りをつけた少女は色んな出会いもあり、周りに呆れられながらも成長していく。 なのに・・・今更そんなこと言われても・・・出来ればそのまま放置しといてくれません?私は私で気楽にやってますので。 ※魔法と剣の世界です。 ※所々ご都合設定かもしれません。初ジャンルなので、暖かく見守っていただけたら幸いです。

【本編完結】ただの平凡令嬢なので、姉に婚約者を取られました。

138ネコ@書籍化&コミカライズしました
ファンタジー
「誰にも出来ないような事は求めないから、せめて人並みになってくれ」  お父様にそう言われ、平凡になるためにたゆまぬ努力をしたつもりです。  賢者様が使ったとされる神級魔法を会得し、復活した魔王をかつての勇者様のように倒し、領民に慕われた名領主のように領地を治めました。  誰にも出来ないような事は、私には出来ません。私に出来るのは、誰かがやれる事を平凡に努めてきただけ。  そんな平凡な私だから、非凡な姉に婚約者を奪われてしまうのは、仕方がない事なのです。  諦めきれない私は、せめて平凡なりに仕返しをしてみようと思います。

【完結】元婚約者であって家族ではありません。もう赤の他人なんですよ?

つくも茄子
ファンタジー
私、ヘスティア・スタンリー公爵令嬢は今日長年の婚約者であったヴィラン・ヤルコポル伯爵子息と婚約解消をいたしました。理由?相手の不貞行為です。婿入りの分際で愛人を連れ込もうとしたのですから当然です。幼馴染で家族同然だった相手に裏切られてショックだというのに相手は斜め上の思考回路。は!?自分が次期公爵?何の冗談です?家から出て行かない?ここは私の家です!貴男はもう赤の他人なんです! 文句があるなら法廷で決着をつけようではありませんか! 結果は当然、公爵家の圧勝。ヤルコポル伯爵家は御家断絶で一家離散。主犯のヴィランは怪しい研究施設でモルモットとしいて短い生涯を終える……はずでした。なのに何故か薬の副作用で強靭化してしまった。化け物のような『力』を手にしたヴィランは王都を襲い私達一家もそのまま儚く……にはならなかった。 目を覚ましたら幼い自分の姿が……。 何故か十二歳に巻き戻っていたのです。 最悪な未来を回避するためにヴィランとの婚約解消を!と拳を握りしめるものの婚約は継続。仕方なくヴィランの再教育を伯爵家に依頼する事に。 そこから新たな事実が出てくるのですが……本当に婚約は解消できるのでしょうか? 他サイトにも公開中。

転生王女は現代知識で無双する

紫苑
ファンタジー
普通に働き、生活していた28歳。 突然異世界に転生してしまった。 定番になった異世界転生のお話。 仲良し家族に愛されながら転生を隠しもせず前世で培ったアニメチート魔法や知識で色んな事に首を突っ込んでいく王女レイチェル。 見た目は子供、頭脳は大人。 現代日本ってあらゆる事が自由で、教育水準は高いし平和だったんだと実感しながら頑張って生きていくそんなお話です。 魔法、亜人、奴隷、農業、畜産業など色んな話が出てきます。 伏線回収は後の方になるので最初はわからない事が多いと思いますが、ぜひ最後まで読んでくださると嬉しいです。 読んでくれる皆さまに心から感謝です。

魔法が使えない令嬢は住んでいた小屋が燃えたので家出します

怠惰るウェイブ
ファンタジー
グレイの世界は狭く暗く何よりも灰色だった。 本来なら領主令嬢となるはずの彼女は領主邸で住むことを許されず、ボロ小屋で暮らしていた。 彼女はある日、棚から落ちてきた一冊の本によって人生が変わることになる。 世界が色づき始めた頃、ある事件をきっかけに少女は旅をすることにした。 喋ることのできないグレイは旅を通して自身の世界を色付けていく。

いじめられ続けた挙げ句、三回も婚約破棄された悪役令嬢は微笑みながら言った「女神の顔も三度まで」と

鳳ナナ
恋愛
伯爵令嬢アムネジアはいじめられていた。 令嬢から。子息から。婚約者の王子から。 それでも彼女はただ微笑を浮かべて、一切の抵抗をしなかった。 そんなある日、三回目の婚約破棄を宣言されたアムネジアは、閉じていた目を見開いて言った。 「――女神の顔も三度まで、という言葉をご存知ですか?」 その言葉を皮切りに、ついにアムネジアは本性を現し、夜会は女達の修羅場と化した。 「ああ、気持ち悪い」 「お黙りなさい! この泥棒猫が!」 「言いましたよね? 助けてやる代わりに、友達料金を払えって」 飛び交う罵倒に乱れ飛ぶワイングラス。 謀略渦巻く宮廷の中で、咲き誇るは一輪の悪の華。 ――出てくる令嬢、全員悪人。 ※小説家になろう様でも掲載しております。

悪役令嬢になるのも面倒なので、冒険にでかけます

綾月百花   
ファンタジー
リリーには幼い頃に決められた王子の婚約者がいたが、その婚約者の誕生日パーティーで婚約者はミーネと入場し挨拶して歩きファーストダンスまで踊る始末。国王と王妃に謝られ、贈り物も準備されていると宥められるが、その贈り物のドレスまでミーネが着ていた。リリーは怒ってワインボトルを持ち、美しいドレスをワイン色に染め上げるが、ミーネもリリーのドレスの裾を踏みつけ、ワインボトルからボトボトと頭から濡らされた。相手は子爵令嬢、リリーは伯爵令嬢、位の違いに国王も黙ってはいられない。婚約者はそれでも、リリーの肩を持たず、リリーは国王に婚約破棄をして欲しいと直訴する。それ受け入れられ、リリーは清々した。婚約破棄が完全に決まった後、リリーは深夜に家を飛び出し笛を吹く。会いたかったビエントに会えた。過ごすうちもっと好きになる。必死で練習した飛行魔法とささやかな攻撃魔法を身につけ、リリーは今度は自分からビエントに会いに行こうと家出をして旅を始めた。旅の途中の魔物の森で魔物に襲われ、リリーは自分の未熟さに気付き、国営の騎士団に入り、魔物狩りを始めた。最終目的はダンジョンの攻略。悪役令嬢と魔物退治、ダンジョン攻略等を混ぜてみました。メインはリリーが王妃になるまでのシンデレラストーリーです。

処理中です...