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第一部  第三章  それぞれの闇と求める希望の光

18  逃げられない⁉  ヴィヴィアンSide Ⅲ

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「ヴィヴィアン様、本当にどうして本宅へ寄らず郊外にある修道院へ向かうのですか? あの修道院はこの領内……いいえ帝国内で最も戒律の厳しい修道院ですよ。見学や慰問ですら簡単に受け入れて貰えるかわからない様な場所なのに……」


 既に目的地である修道院へ到着すればです。

 私達は車を降りればてくてくと内門へと向かっておりました。

 目指す扉はもう直ぐなのです。


 因みに入院許可願いはタウンハウスを出発する前、いいえお父様とのお話の後速攻魔法鳥便バード便を出して無事に入院許可証まで頂いたのですもの。

 ですから何も心配はないのです。


 それに今現時点で私に出家願望がある事を知っているのは恐らくお父様ただお一人だけ。


 そしてお父様はまさか私がこの様な形で修道院へ駆け込むだなんてお思いもなさらないでしょうね。

 ええ昔から私達家族はとても仲がいい事で有名でしたもの。

 だからこそお父様はあの時の話し合いで私が納得したと思っていらっしゃいますし、だからこそ領地入りをするアンナ達へ何も話さなかったみたいです。


 ふふお父様、詰めが甘いですわよ。


 でもそのまさか――――なのに、誰にも知られてはいない筈なのにどうして、何故その様に両肩を大きく上下に揺らし呼吸を荒くしたまま、何故その様に切羽詰まった……と、ても苦渋に満ちた表情おかおをしていらっしゃるのでしょう。


 その様に辛くて泣きたくても泣けない。

 思わずこちらの心の奥までツンと痛くなる程の切ない表情をなさるなんて、私は一体どうすれ――――⁉


 私の動揺等お構いなしにリーヴァイ様は口を真一文字にぎゅっと引き結んだまま、すたすたとこちらへ向かって歩いてこられたかと思えばです。

 私はグイっと彼の小さな……ですがとても10歳のお子様とは思えぬ程の荒々しい力で以って彼の腕……と申しますかそこはやはり体格差と言うモノが存在しておりましてですね。

 結果的に引き寄せられた私の身体へリーヴァイ様がぎゅっとしがみ付かれていると言うとても不可解な構図となっている模様です。


 ええ何と申しましてもそこは10歳のお子様と22歳の大人な私ですものね。


 それにしても一体どうしてここへ、どの様な方法で私よりも――――と申しますか私達とほぼ同時にお姿を現されるだなんてまるで転移魔法を行使……いいえそれは流石にないでしょう。


 転移の魔法はとても高度で多くの魔導力を必要としますもの。
 
 我が帝国内でもそこまでの魔法を行使出来る様な御方はほんの一握り。


 その全ての御方達は皆帝都にある魔導省へ所属されていると聞いております。

 よもやリーヴァイ様が……いえたとえどの様に素晴らしい素質をお持ちだと致しましても、彼の器でもあられるお身体は10歳の子供のもの。

 幾ら魔導力に優れていらっしゃったとしてもです。

 余りにもその幼いお身体に負荷を掛け過ぎれば魔力暴走を引き起こしてしまい兼ねないのです。


 抑々そもそもリーヴァイ様の父君であられる大公殿下がその様な無謀な行いを決して許しはしないでしょう。
 

 何と申しましてもリーヴァイ様は現時点で皇位継承第三位と言う尊い御方。


 もし万が一……誠に恐れ多い事では御座いますがええ、陛下方に何か変事があれば帝位はリーヴァイ様へと受け継がれていくのですって本当に転移等無謀な事をされてはいません……よね?


 私が考える等烏滸がましいとは十分理解致しておりますけれどもです。

 やはり帝国の民としてはこの問題をどうすればいいのだろうと、それこそ建物へと続く門はもう目の前。

 扉なんてその数m先にあるのにも拘らず私は修道院の前で悶々とこの事態について考えていた時でした。


「愛している、心よりいや魂レベルでヴィヴィアン・ローズ、貴女を愛し過ぎているんだ!!」

「え?」


 はい?

 今何と仰いました?


 勿論聞き返す勇気なんて私にはほんの欠片程も持ち合わせてはおりません。 

 何故ならきっと間違いなく後十三年後には婚姻の勅命死刑宣告を受ければその六年後には目の前の、今はとても愛らしいお子様により恐ろしいバッドエンドをプレゼントされる予定の私と致しましてはですね。

 その何とも心の中は複雑に御座いまして、リーヴァイ様のまさかの告白に自身でも情けないくらいの蚊の鳴く様な声で一言『え?』と絞り出すのが精一杯でした。


 当然私の脳内は既に許容量オーバーですよ。

 出来得る事ならばこのまま死んだ振りをしたいくらいです。
 

 あ、リーヴァイ様は熊では……熊でも死んだ振りは駄目でしょうね。


 リーヴァイ様が供の一人も付けずに突如ここへ現れられただけでも十分問題ですのにそれに加えまさかの、ええここには私以外にアンナそして私の護衛達も数名いるのです。


 ズバリこれはある意味公開処刑と言ってもいいくらいの出来事なのですよ⁉


 もういっそ何処かへ逃げられるものならば逃亡したいと思っていると言うのにも拘らず、目の前のお子様……リーヴァイ様はとても不安げな面持ちで私をじーっと見つめていらっしゃるのです。
 

 将来の私にしてみればそれは末恐ろしい悪魔、いえ大魔王となられると言うのにこの可愛さは犯罪級ですわ。


 ですので私の心は今はとても複雑且つ不安定で、何故か物凄く恐怖を感じている反面胸がキュンキュンしてしまう程の可愛らしさに私は到頭とうとうとんでもない事を口走ってしまいましたの。


「わ、わた、私もす、好きです……よ、リーヴァイ様」

 え、今私っ、私何かとんでもなく言ってはいけない言葉を発しましたよね⁉

「ヴィー……」
「大丈夫ですよリーヴァイ様。誰も貴方を傷つける者はおりません」


 表面上は平静を保てられてはいたらしいですけれどもです。


 私の心の中は既に大パニック状態です。

 それなのに斜め上目遣いで私を不安げに見つめるリーヴァイ様がとてもお可愛らしくて、気が付けば私は彼をあやす様に優しく抱き締めておりました。


 本当にリーヴァイ様の事が……今ではなくその未来の彼の事が今も現在進行形で死ぬ程怖いのです。

 約二十年後の未来を考えるだけでもほら、身体は自然と反応して小刻みに震えてしまいますのに、どうしてこんなにも接点を持ってしまったのでしょう。
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