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第一部 第二章 五日後に何かが起こる?
4 この世界の価値観 Ⅱ
しおりを挟むだがヴィヴィアンを前にすればそれが何時の間にか当たり前、そうこれが当然なのだとウィルクス夫人だけではなく既にダレンやこの屋敷に関係する者達のみにそれは限らない。
一度でもヴィヴィアンと言葉を交わせば、その不思議な魅力へ何時しか心そのものが自然と惹かれてしまう。
いや惹かれると言うのか、ただ魔力を用いての強制的な魅了と言う類ではない。
ただ自然に、ヴィヴィアンの作り出す雰囲気が想像以上に居心地が良いのである。
そこに異性同性関係なく彼女より齎される無償の愛と言うふんわりとした繭で柔らかく包み込まれる様な包容力。
当のヴィヴィアン自身はあくまでもそれは天然で無自覚。
だが偶に、いやいや実際この五年もの間何度も、そして彼女自身は全く気づく事もなく与えられる無償の愛を勝手に歪曲し己だけを見て、愛して欲しいと、中には強行突破へと及んだ者さえ何人かは存在したのだ。
しかしその度に夫であるリーヴァイは元より、武闘派のシンディーや屋敷内の人間達が悉くまあばっさりと殲滅をしてきたのである。
とは言え実際に命を奪う……リーヴァイに関してだけはそこの所に断言は出来ないのだが、シンディーを含む他のメンバー達の方法はもういっそ殺してくれ……と願う者も多数存在したらしい。
そんな渦中にいるヴィヴィアンの容姿ははっきり言って目の覚める様な絶世の美女ではない。
だが実際にその容姿ではなく彼女の内面の美しさに人々は目ではなく心を奪われてしまうのだ。
そうして目の前にいる女性の心を射止めた――――いやいや、現実に見る事の出来ない蜘蛛の様な細い糸で以って幾重にもヴィヴィアンの身体と彼女自身の行動をあらゆる意味合いを含めて絡め捕らえたのが自分達の主であると、ウィルクス夫人だけでなくダレンも激しく断言する。
こうして口頭では常に苦言しか呈せられないけれどもである。
実際心の中ではダレンだけでなく口煩いので有名なウィルクス夫人でさえも目の前の彼女を当主夫人として誇りに思っているのだ。
だからこそなのであるっ!!
今回の騒動は何としても最小限の被害で握り潰したかったのだが……。
「ねえダレン、出来れば早急にバークリー先生の手配をして貰えないかしら」
「奥方様何処かご体調が優れないと……」
「そ、それはいけませんわっ、事務処理は私が代理で致しますので、どうか直ぐにでもおやすみに――――」
途端に慌てだすダレンとウィルクス夫人の様子にヴィヴィアンはクスクスと小さく笑いながら訂正する。
「だ、大丈夫。私は見ての通り健康……うーん、まあ、その……ね、い、今はいいのです。あのう実は先生に診て頂きたいのは私ではなくサブリーナ嬢なの」
「「はあ⁉」」
何処までお人良し過ぎるのだこの御方はっ!!
と二人は同時に心の中で激しく突っ込みを入れていた。
でもそんな二人の心の突込みなんてヴィヴィアンは一切気付く様子はない。
「昨夜よりサブリーナ嬢の体調が優れないらしくて、だから今朝も食堂へ来られなかったそうなのよ。お胎の子に何かあれば、それに母親である彼女自身に何か問題あれば大変でしょう。ここは一刻も早くバークリー先生に診て頂いた方が、そ、その方が旦那様もよ、喜ばれると思うのですよ」
え、ええ私の方はもう少し後で、そう第一誰にもこの様な事を誰にも知られたくはないものっ!!
ヴィヴィアン自身思う所はあるのだが、だが場所が場所だけに非常に恥ずかしさを感じる余り思わず言葉がつっかえてしまう。
でもその物言いが二人にしてみれば彼女自身が旦那の浮気疑惑に心を痛めていると言う気持ちへ拍車を掛けていく。
こうして些細な拗れが真冬に降る雪の様に静かに音もなく積み重なっていくとは誰もまだ気付かない。
「だからお願い出来るかしらダレン」
最後のダメ押しで申し訳なさげにお願いされれば、ダレンに否とは言えよう筈はなかったのである。
譬えそれがどの様に受け入れ難い要望であっても……。
「確かに承りました。ではこれより直ぐにバークリー先生へ手配させて頂きます」
「有難うダレン」
そうしてダレンは傍で控えているジョナスへ不承不承とし難いが、それを一切態度に表す事無く指示を出した。
指示を受けたジョナスはヴィヴィアンへ一礼すると共に静かに部屋を辞していっただった。
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