18 / 197
第一部 第一章 突然の訪問者
15 揺蕩う波の狭間で…… Ⅱ
しおりを挟むだが悲劇はそこで終わりではなかった。
そんな彼女の楽しげな様子に興味を示した皇帝夫妻が何気に声を掛ければ、あろう事かヴィヴィアンは皇帝の背中をバンバンと叩きながら笑う状況に、流石の周囲……いやいやヴィヴィアンの両親と兄はムンクの叫びならぬ絶叫の様な状態のまま全身を真っ青にさせつつカチコチに、身体をこれでもかと言う程に固まらせていた。
もうその瞬間ヴィヴィアンの家族全員の精神は瞬殺状態だったと言っても過言ではなかっただろう。
しかし当のヴィヴィアンが実際に飲んだワインの量はほんの小さな一口だけ。
その一口だけで彼女は一瞬の内に家族全員を瀕死の状態へとしてしまった。
また背中や肩をバンバンと何度となく叩かれようとも陽気な酔っ払いヴィヴィアンの様子を見ては『面白い』と、何時もは厳しく冷血漢と呼ばれている皇帝すらも思わずつられる様に破顔一笑してしまう始末である。
結局最後には宴会状態となり無事にお開きとなった舞踏会での出来事に対し、後日ミルワード侯爵含め騒動の発端であるヴィヴィアンにも一切お咎めはなかった。
そうして案の定翌日目覚めたヴィヴィアンは昨夜の醜態を晒したであろう記憶について一切を覚えてはいない。
だが父親である侯爵より事の次第を事細かく教えられれば、何時の間にか彼女は顔の色と言う色の全てを失くしてしまっていたらしい。
以来ヴィヴィアンは何があろうともアルコールと名のつく飲み物を一切摂取しなかった。
ただし料理やお菓子作りにおいては過熱する事でアルコールが飛ぶ故に、今も少量のみの使用はしている。
しかし今夜ばかりは長年封印していたアルコールを僅かなりとも自ら進んで摂取したのは、ヴィヴィアンにとってワインを飲まなければいけない理由はそこそこにあったのだろう。
何時かは――――と覚悟をしていたとはいえ、やはりヴィヴィアンも普通の女性。
愛する者の裏切りに何も感じない程冷酷な人間ではない。
「っく……ばぁか、ばーかばーかリーヴィなんてもう知らないもん。もういらないしもう逢いたく――――⁉」
全身を真っ赤にさせてヴィヴィアンは、お気に入りのクッションをしっかりと抱えそのままソファーへ突っ伏しながらぶつぶつと泣きながら文句を零していた。
「……その様な事を言わないで僕の愛しい女神様」
ふわりと背後よりそっとヴィヴィアンを抱き締めるのは温かくも逞しい両の腕。
「っや、も、もういらないっ、リーヴィーなんてだ、大っ嫌い!!」
「ヴィー……」
抱き締められる腕の中でヴィヴィアンはいやいやと小さく身体を捩り何度も逃げ出そうと試みるがそこは男女の力の差と言う所が大きい。
どの様にヴィヴィアンが抵抗しようとも彼女の愛する夫は暴れる妻を余裕で抱き上げればすたすたと、隣室……つまりは夫婦の寝室へと歩みを進めていく。
「嫌っ、放してリーヴィ―ってば⁉ や、やっぱりあの娘が来ちゃったもの。っく、だから私とリーヴィ―は結ばれ――――ん、む、んんっ……⁉」
「嫌だよ僕は何があろうとも絶対に貴女を逃がしはしない」
「う、嘘よっ、だってだってそう言ってもやっぱり未来は何も……」
「そんな不吉な言葉なんて譬え愛しいヴィーでも許されないよ。だからこれは僕からヴィーへのお仕置きだ」
「い、嫌……んむっ、あ、あん、そ、そんな……事ばっかり、い、つも、私……は、あっ、りぃう゛ぃの、あっ、玩具…あ、ああああ!!」
寝室の中央にあるのは二人で眠るには大き過ぎる寝台が一つ。
ヴィヴィアンは寝台へ優しく壊れ物の様に降ろされれば、頭の回らないままの彼女の上へずしりと心地の良い重みが覆い被されていく。
結婚をして五年もの間三日と開けずにヴィヴィアンは何時も夫の腕の中でぐずぐずに蕩けさせられていた。
何時も何度でも絶頂まで引き上げられ、そして気が付けばその絶頂より降りる事さえ許されず、揺蕩う波の中で何度もヴィヴィアンは真っ白に弾けていく。
そうして気づけば朝はやってくるのだが何故か愛する夫の寝顔をこの五年もの間ヴィヴィアンはほんの数える程しか見てはいない。
そして今夜も、いや翌日には恐らくヴィヴィアンはきっと何も覚えてはいないだろう。
また愛する夫の愛に溺れてきっていると言う現実すらも……。
22
お気に入りに追加
3,453
あなたにおすすめの小説
私を裏切った相手とは関わるつもりはありません
みちこ
ファンタジー
幼なじみに嵌められて処刑された主人公、気が付いたら8年前に戻っていた。
未来を変えるために行動をする
1度裏切った相手とは関わらないように過ごす
今さら言われても・・・私は趣味に生きてますので
sherry
ファンタジー
ある日森に置き去りにされた少女はひょんな事から自分が前世の記憶を持ち、この世界に生まれ変わったことを思い出す。
早々に今世の家族に見切りをつけた少女は色んな出会いもあり、周りに呆れられながらも成長していく。
なのに・・・今更そんなこと言われても・・・出来ればそのまま放置しといてくれません?私は私で気楽にやってますので。
※魔法と剣の世界です。
※所々ご都合設定かもしれません。初ジャンルなので、暖かく見守っていただけたら幸いです。
【完結】元婚約者であって家族ではありません。もう赤の他人なんですよ?
つくも茄子
ファンタジー
私、ヘスティア・スタンリー公爵令嬢は今日長年の婚約者であったヴィラン・ヤルコポル伯爵子息と婚約解消をいたしました。理由?相手の不貞行為です。婿入りの分際で愛人を連れ込もうとしたのですから当然です。幼馴染で家族同然だった相手に裏切られてショックだというのに相手は斜め上の思考回路。は!?自分が次期公爵?何の冗談です?家から出て行かない?ここは私の家です!貴男はもう赤の他人なんです!
文句があるなら法廷で決着をつけようではありませんか!
結果は当然、公爵家の圧勝。ヤルコポル伯爵家は御家断絶で一家離散。主犯のヴィランは怪しい研究施設でモルモットとしいて短い生涯を終える……はずでした。なのに何故か薬の副作用で強靭化してしまった。化け物のような『力』を手にしたヴィランは王都を襲い私達一家もそのまま儚く……にはならなかった。
目を覚ましたら幼い自分の姿が……。
何故か十二歳に巻き戻っていたのです。
最悪な未来を回避するためにヴィランとの婚約解消を!と拳を握りしめるものの婚約は継続。仕方なくヴィランの再教育を伯爵家に依頼する事に。
そこから新たな事実が出てくるのですが……本当に婚約は解消できるのでしょうか?
他サイトにも公開中。
魔法が使えない令嬢は住んでいた小屋が燃えたので家出します
怠惰るウェイブ
ファンタジー
グレイの世界は狭く暗く何よりも灰色だった。
本来なら領主令嬢となるはずの彼女は領主邸で住むことを許されず、ボロ小屋で暮らしていた。
彼女はある日、棚から落ちてきた一冊の本によって人生が変わることになる。
世界が色づき始めた頃、ある事件をきっかけに少女は旅をすることにした。
喋ることのできないグレイは旅を通して自身の世界を色付けていく。
いじめられ続けた挙げ句、三回も婚約破棄された悪役令嬢は微笑みながら言った「女神の顔も三度まで」と
鳳ナナ
恋愛
伯爵令嬢アムネジアはいじめられていた。
令嬢から。子息から。婚約者の王子から。
それでも彼女はただ微笑を浮かべて、一切の抵抗をしなかった。
そんなある日、三回目の婚約破棄を宣言されたアムネジアは、閉じていた目を見開いて言った。
「――女神の顔も三度まで、という言葉をご存知ですか?」
その言葉を皮切りに、ついにアムネジアは本性を現し、夜会は女達の修羅場と化した。
「ああ、気持ち悪い」
「お黙りなさい! この泥棒猫が!」
「言いましたよね? 助けてやる代わりに、友達料金を払えって」
飛び交う罵倒に乱れ飛ぶワイングラス。
謀略渦巻く宮廷の中で、咲き誇るは一輪の悪の華。
――出てくる令嬢、全員悪人。
※小説家になろう様でも掲載しております。
悪役令嬢になるのも面倒なので、冒険にでかけます
綾月百花
ファンタジー
リリーには幼い頃に決められた王子の婚約者がいたが、その婚約者の誕生日パーティーで婚約者はミーネと入場し挨拶して歩きファーストダンスまで踊る始末。国王と王妃に謝られ、贈り物も準備されていると宥められるが、その贈り物のドレスまでミーネが着ていた。リリーは怒ってワインボトルを持ち、美しいドレスをワイン色に染め上げるが、ミーネもリリーのドレスの裾を踏みつけ、ワインボトルからボトボトと頭から濡らされた。相手は子爵令嬢、リリーは伯爵令嬢、位の違いに国王も黙ってはいられない。婚約者はそれでも、リリーの肩を持たず、リリーは国王に婚約破棄をして欲しいと直訴する。それ受け入れられ、リリーは清々した。婚約破棄が完全に決まった後、リリーは深夜に家を飛び出し笛を吹く。会いたかったビエントに会えた。過ごすうちもっと好きになる。必死で練習した飛行魔法とささやかな攻撃魔法を身につけ、リリーは今度は自分からビエントに会いに行こうと家出をして旅を始めた。旅の途中の魔物の森で魔物に襲われ、リリーは自分の未熟さに気付き、国営の騎士団に入り、魔物狩りを始めた。最終目的はダンジョンの攻略。悪役令嬢と魔物退治、ダンジョン攻略等を混ぜてみました。メインはリリーが王妃になるまでのシンデレラストーリーです。
転生先ではゆっくりと生きたい
ひつじ
ファンタジー
勉強を頑張っても、仕事を頑張っても誰からも愛されなかったし必要とされなかった藤田明彦。
事故で死んだ明彦が出会ったのは……
転生先では愛されたいし必要とされたい。明彦改めソラはこの広い空を見ながらゆっくりと生きることを決めた
小説家になろうでも連載中です。
なろうの方が話数が多いです。
https://ncode.syosetu.com/n8964gh/
【本編完結】さようなら、そしてどうかお幸せに ~彼女の選んだ決断
Hinaki
ファンタジー
16歳の侯爵令嬢エルネスティーネには結婚目前に控えた婚約者がいる。
23歳の公爵家当主ジークヴァルト。
年上の婚約者には気付けば幼いエルネスティーネよりも年齢も近く、彼女よりも女性らしい色香を纏った女友達が常にジークヴァルトの傍にいた。
ただの女友達だと彼は言う。
だが偶然エルネスティーネは知ってしまった。
彼らが友人ではなく想い合う関係である事を……。
また政略目的で結ばれたエルネスティーネを疎ましく思っていると、ジークヴァルトは恋人へ告げていた。
エルネスティーネとジークヴァルトの婚姻は王命。
覆す事は出来ない。
溝が深まりつつも結婚二日前に侯爵邸へ呼び出されたエルネスティーネ。
そこで彼女は彼の私室……寝室より聞こえてくるのは悍ましい獣にも似た二人の声。
二人がいた場所は二日後には夫婦となるであろうエルネスティーネとジークヴァルトの為の寝室。
これ見よがしに少し開け放たれた扉より垣間見える寝台で絡み合う二人の姿と勝ち誇る彼女の艶笑。
エルネスティーネは限界だった。
一晩悩んだ結果彼女の選んだ道は翌日愛するジークヴァルトへ晴れやかな笑顔で挨拶すると共にバルコニーより身を投げる事。
初めて愛した男を憎らしく思う以上に彼を心から愛していた。
だから愛する男の前で死を選ぶ。
永遠に私を忘れないで、でも愛する貴方には幸せになって欲しい。
矛盾した想いを抱え彼女は今――――。
長い間スランプ状態でしたが自分の中の性と生、人間と神、ずっと前からもやもやしていたものが一応の答えを導き出し、この物語を始める事にしました。
センシティブな所へ触れるかもしれません。
これはあくまで私の考え、思想なのでそこの所はどうかご容赦して下さいませ。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる