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第一部 第一章 突然の訪問者
12 祝福と悍ましい過去 Ⅱ
しおりを挟む最初の切っ掛けかもしれない出来事は、それはまだヴィヴィアンがまだ15歳の頃。
当時ヴィヴィアンには三歳年上の同じ侯爵家の婚約者が存在していた。
幼い頃からの付き合いでもあり婚約者との関係は非常に良好で、二年後のヴィヴィアンの成人と共に結婚式を――――とまで順調に進む筈だった。
「済まない、何故なのかは私にもわからない。でも私には――――」
「ごめんなさいヴィー!! 許してなんて絶対に言えない!! で、でもでも……」
目の前には真面目で優しい婚約者。
そしてもう一人は幼い頃よりの親友でもある令嬢。
決して二人共がヴィヴィアンを裏切る様な者達ではなかった。
しかしこの数日前親友である令嬢と一緒にお茶会をしたのだ。
然も極々一般的な……である。
「い、いいの。二人が幸せならばそれが私の幸せだわ」
正直に言ってこの時ヴィヴィアンの心はしっかりと傷ついてはいたのだが、でもどうしても目の前にいる幸せそうな二人を憎む気持ちになれなかった。
それはヴィヴィアンにとって憎む事よりも親友達の幸せの方に比重が重かったのか、はたまた彼女自身まだ本当の恋を知らなかったからなのかもしれない。
親友はきっと長い間報われないと思い悩みつつも、元婚約者を秘かに慕っていたのだろう。
それを思えば自身の心の傷等些事に過ぎない。
等とまあかなりおっとりとした性格のヴィヴィアンの最初の出だしはそんな感じだったのである。
だがそれも二度、三度も続けば……それと同時にヴィヴィアンの周りにいる者達が幸せになれば成る程、彼女の婚期は何処までも伸びていく。
最早単なる偶然ではないと、流石の本人を含め周囲がそう確信した時だった。
「う、嘘でしょ? もしこの先、このまま生きていれば……」
ミルワード侯爵令嬢 レディ・ヴィヴィアン・ローズ・コッカー22歳は、ある日突然あろう事か前世の記憶を思い出してしまった。
人々へあらん限りの祝福を与え続けるけれども自身は悉く男運にこれでもかと見放され、漸く念願の結婚をしたかと思えば、今度はその夫を娘の様な若くも美しい女性に寝取られるだけではない。
ヴィヴィアン自身の生命力を代償にした祝福を根こそぎ搾り取られた後は、役に立たないとばかりに場末の娼館へ元夫の手によって売られ、今度は綺麗も汚い……いやいやあれは物凄く汚らわしい数え切れない男達の玩具にされた後の腹ボてエンド!!
「い、嫌よ!! あの様な辱めをまた繰り返さなければいけないなんて絶対に嫌!!」
行き成り降って湧いたような思い出したくもない悍ましい前世の記憶。
その余りの衝撃と恐怖へヴィヴィアンは知らずに全身をガタガタと小刻みに震わせてしまう。
無意識に両の腕で自身の身体をこれでもかと、きつく抱き締めながらヴィヴィアンは暫く熟考する。
一体何時間もの間そうしていたのかはわからない。
でもだからと言って直ぐにとんでもなく素晴らしい考えなんてそうそう思いつく筈もないのである。
そう数日と言う時間を掛けてヴィヴィアンはある一つの道を見出したのだ。
「今度こそ絶対に腹ボてエンドなんて、悍ましい人生を歩んだりするものですか!! 私の人生は私だけのもの!!」
しかしである。
結果から言えば最初に見出した道は呆気なく失敗した。
然も実の父親によって……。
だがそれでもヴィヴィアンは諦める事はしなかった。
きっと諦めれば最悪な展開しか待ち受けてはいないだろうから……。
それ故にそれからのヴィヴィアンは何度も手を変え品を変えては次から次へと、手当たり次第、もう思いつくままに行動へと移していくのであった。
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