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第八章  それはある日突然に

11  失業手当

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 三歩進んで二歩……私の場合確実に2.5歩は下がっていた。


 現実に何処までを前進しているかは全くの謎。

 心臓と鬱との折り合いをつけながらそれでも私は何とかその日その日を前へと進むべく過ごしていた。

 離婚をし今度は病院とも完全に縁が切れてしまった。


 つまりは退である。


 藤寺先生の勧めもあったのは確かである。

 簡易とは言え訴訟を起こしてでも私との間に何も問題はなかったと主張をしたいN病院は、私の精神面において益となる要素は一つもないと言う事なのだろう。

 それどころかあの病院と繋がっている限り私の心は何時まで経っても縛られ続ければ決して癒される事はないとも言われた。

 そう前へ、日の当たる場所へと向かうのであれば色々想う所はあるけれどもN病院との縁を切らなければいけない。


 そして私は前へ進みたいと思うからこそN病院を退職した。

 これでもうN病院とは何の関係はない。

 この事で私の心がもっと軽くなればそんなに遠くない先にはまた普通に働けると思っていたのにである。


 本当に鬱とは思い願う様によくはならない。
 そしてまた何が切っ掛けで病状は後退をするのかが全くわからない。
 

 流石に裁判所で弾けてしまっただろう悪意が出てくる事はもうない。

 しかしそれでも鬱々とした思いはまだしっかりと私の心に居座っている。

 私も大概腰の重い人間だけれどもまさかの鬱までも同じだとは断じて思いたくはないと言うかそこは素直に認めたくはない。

 でも現実に今日出来た事が翌日、またその三日後には全く出来なくなると言う事も普通にある。

 そしてそういう時は必ずと言っていい程しっかりと落ち込む訳で……。


 今でこそマスクは世界中で必須アイテムと化してはいるが私にしてみれば他人様へ素顔を晒す事が怖い為だけにずっとマスクをしている。

 また何かで、それがほんの少しでもいい。

 私を隠す物であればそれだけで精神が酷く落ち着くのである。

 因みに身体は大き過ぎる為そこは普通に隠されてはいない。

 まあ要するに気持ちの上での事なのである。


 また指を指される行為……それは直接だけでなくTV等間接的なものにまで私は今現在も直視する事は出来ない。

 包丁も然りであった。

 先が尖っているから……? 


 でも実際彼らに指を指された覚えはない。

 しかし先生に言わせれば行為そのものはなくとも、それだけ私に対して彼らは長期間に渡って強烈なストレスを与えたからだろうとの事だった。


 手の震えとこの二点は今も私の心を悩ませているものである。
 特に包丁は自殺未遂にも用いたものだから触れる事も出来ない。

 食器を洗う時でさえ包丁のみを先に母へお願いをして洗って貰う毎日。

 そんな日常を過ごしながらも自分自身心の中に焦るものはある。


 早く人間になりたい!!

 ではなく。

 一日も早く働きたい!!


 藤寺先生と循環器内科の森本先生のお二人へ相談しまだ心配はあるけれどもそろそろ準備を始めてもいいかなと、鬱を患って六年超えた頃にようやく許可を貰ったのである。
 
 ただし実際に働いたとしても一日数時間、然も毎日は駄目だとしっかり釘を刺されてしまった。


 でもほんの少しづつ、そしてまだ完全には回復はしていないけれどもである。

 これから私の歩みだす先へ少しだけ温かな光を感じる事が出来たのだ。

 そうして先ず第一歩としてこれまでずっと勝手に払い続けてきた雇用保険からの失業手当を申請しよう。

 その手当が支給されたら最初に原付を買って毎日ではないけれども外へ出てみよう。


 久しぶりの前向きな考えを持った私はN病院の管轄内にあるハローワークへ電話をした。

 その電話でちゃんとこれまでの事そして一応だがDrの許可も出ている事を説明した上で相手側は離職票を持って来て欲しいと告げる。


 場所は御池にあるハローワーク。
 電車で行けば直ぐにある場所。

 でも電車には沢山の人が乗って……いやそんな事を言っていれば何時まで経っても自立は出来ない!!


 私は出来るだけ早くちゃんと普通に働きたい。

 その為にも人に慣れなくてはいけない。
 だから私は嫌な気持ちを抑え込めばその場の勢いで一人で外出し電車へと乗る。
 そうして30分もすれば目的の場所へと無事に到着した。

 窓口近くにある番号表を取って名前が呼ばれ私は指定された場所へと向かう。
 それなのに――――。


「失業手当は出ませんよ」

 何で⁉
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