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第八章  それはある日突然に

4  裁判所で Ⅲ

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 一方そこまで弁の立つ訳でもない私がである。

 おまけに今は普通の精神状態でもない。

 幾ら興奮を抑える薬を飲んでいようともだ。

 しかしこうあからさまに、私の言葉と気持ちを全くなかったものにしようとする弁護士と、その隣で静かに同意する看護部長へどうしようのない憤怒を覚えてしまう。

「病院側の申し立ての件ですがこれは流石に……ですね。少しこちらで話し合った結果桃園さんともう一度話し合いましょうか」


 調停役の男性も双方一歩も譲らぬ泥沼状態の話し合いいや、話し合いにすらなってはいない完全なる平行線。

 そこへ加え私の感情が徐々に昂っていたのも感じられたのかもしれない。
 先に調停役と病院側で話し合いをし、休憩後私を交えて話をする事となった。

 しかしほんの少し休憩したからと言って看護部長達の姿勢は何一つ変わる事はないだろう。

 何より私の主張は彼らにとって全く無意味なものなのだ。

 はっきり言ってなかったものにしたいと思っているしそう告げてもいる。

 労災にも見放されたし、一体私はここで何をしているのだろう。

 私はただ彼らから心からの謝罪が欲しかっただけなのに……。


 それは幼い子供でも出来るだろう悪い事をすれば反省し素直に謝ってくれる事だけ。

 なのに何をどう話しても彼らは私の言葉を聞いてはくれない。

 このまままた向こうの言い分が通ってそのまま終わってしまうのだろうか。

 どうすれば私の言葉と心の苦しみをわかってもらえるのだろうか。


 


 それは聞き覚えのある声と感情。
 忘れはしないあの時あの瞬間私の中で生まれ出で、そしてそのままひっそりと隠れるようにずっと私の心の片隅で隠れていただろう純粋なる悪意に染まりし想い。

 でも私はその声へ酷く同意をしてしまった。


 そう……だよね。

 このまま裁判で主張も聞いて貰えずまた負けて鬱が酷くなって今以上に生きる気力も何もかも失うくらいだったらさ、今この場で派手に皆の前で私が死ねばきっとその時は病院も逃げる事が出来ない筈。
 
 そんな考えがふと頭と心の中へよぎる。


「雪ちゃん……?」

 ほんの細かな私の心情の変化へ母が何かを察すれば、訝しげに再度私へ声を掛けてくるけれどももう遅い。

「雪ちゃん!!」


 私は踊る様に、そしてワクワクドキドキしながら軽快に階段を下りていく。

 何時もの、さっきまで重いと感じていた身体が何故か理由はわからないけれどもめっちゃ軽く……そう羽が生えた様に軽く感じていた。

 目指すは裁判所の直ぐ傍にあるだろう国道24号線。

 私は今日こそ確実に死んでみせる。

 そうすればきっと私の心からの叫びを今度こそは誰も無視が出来ない筈だっっ。
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