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第七章  黒闇の闇の中で

10  労災の結果

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 鬱を患ってからと言うものの本当に心臓への負荷は半端なく、自宅から片道二時間かけての通院ははっきり言ってめっちゃ辛い。

 それでもK病院のある場所は本当に自然豊かで、時折お猿さんとも遭遇したりする。

 診察が終わり病院を出てバス停までの少しの道のりを、母と並んでゆっくりと歩いては周りの景色を見てホッとする。

 この頃になると私は帰る途中で昼食を食べたり母と他愛のない話に講じては少しだけでも笑う事が出来る様になっていた。

 買い物は流石にこのポンコツ心臓では荷が重く、私は近くにある椅子で荷物を持って薬を飲みつつ発作が落ち着くまでの間を母が一人で疲れているとも一切弱音を吐かずに買い物をしてくれていた。
 
 そうして何とか帰宅すればである。
 私は寝室へ籠れば家事の一切は当然の様に全て母任せにしていた。

 私は何の役にも立つ事もなければである。

 常に愛情を欲するお姫達の相手をするのも気分のいい時にしか出来ない。
 ぷりぷりと三人娘が私の周りへ来ては可愛らしく怒っていてもである。

 気分と心臓の調子によってはベッドより起き上がる事すら儘ならない。
 
 それでも今思い起こせば母と過ごしたこの時間は本当に掛け替えのないものだった。
 元に戻る事が出来るのであればもっと母の負担を少なくしたかった。
 そう私がどんなに早く元気になればと今更ながらに悔やんだところでもう……。


 また病院は何もK病院だけではない。

 心臓は自宅より車で30分弱離れた所にあるT医院へ通院をしていた事もあり、また母自身は糖尿病とそれからの白内障もあって通院の重なる月は母へと掛かる負担は相当なものだったと思う。

 本当に今更ながらにとんでもなく親不孝な娘だ。
 それなのに……。


 労災の件で上京労務局へ向かう日々。
 時には電話でのやり取りも少なくはない。
 それらに関わる私の精神的なストレスも相当で、24時間イライラ状態の日々も少なくはなかった。

 そうして待ちに待った最初の労災の結果。

 私へもたらされたのは――――。


 何故⁉
 納得がいかないっっ。
 私はこんなにも苦しんでいるのに一体どうして――――。

 私は納得をする事は出来ないけれどもその答えは実に完結明瞭だった。
 
 当然苛め云々に関しての問題は病院側が綺麗に隠蔽したのは間違いない。

 そして2月で再契約すると豪語していた桜井は、私への謝罪の後雇用契約は打ち切りとなり風の噂では彼女はどうやら大阪にいるらしい。

 また最も労災認定に重要だったのがである。

 100時間越えの残業だったのであらば間違いなく私は認定されていただろう。

 でも私の残業は実際それ以下だった。
 幾ら殆ど休憩なしで、また食事もせずに働いていたとしてもである。

 一日の残業にしてみれば僅か二、三時間以内。

 然も毎日がリーダーと言う訳でもない。
 普通に受け持ちをしている時は定時上がりもしくは残ったとしても30分以内ならば残業とは認められない。


 現在の精神疾患についての労災の基準はわからない。
 でもあの頃は鬱と言えば過剰残業と頑なに決められていたのである。

 それに休憩云々に関してはあくまでも私が一方的に告発しているだけで証拠となるものは何一つ存在しない。

 そう物証らしいものが何もない故に私の労災は認められなかった。

 当然直ぐに納得が出来ないから再抗告をしたのは言うまでもない。


 でも労務局の人が親身になって話を聞いてくれた分、這う様にして労働局へ通った日々、思い出したくもない過去の話を延々と話さなくてはいけない苦行の果てに明るい未来を期待するのは仕方ないでしょ。

 しかし結果は見事に撃沈。

 その結果を受けて私の心は更なる闇の中へと堕ちていく。

 ちょうどそんな時だった。
 あの悍ましい事件が報道されたのは。

 あの事件によって私の中で恐ろしい化け物が生み出されようとしたのは……。
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