上 下
25 / 130
第二章  悪夢への分岐点?

8  どうしてここへ来たの?

しおりを挟む


 今の私に出来る事――――。
 そして何度でも聞いて確認をしよう。
 

 先ずは患者さんのバイタルを測定しながら機械へ入力している数字に間違いはないのかと、再計算をしつつカルテの数字と機械の数字を確認していく。

 それから受け持った患者さんの情報収集をし、血圧の値と前回のカルテの内容を見比べ、除水設定が多いかもと思えばその都度田中さんへ確認をした。
 
 またこのN病院では前職の様な安定透析の様に血圧が下がれば血液中の水分のみを除水するECUMイーカム若しくは即時終了は余程の事がなければしない。

 そこは個々の患者さんに合わせた血圧を測定し、適宜その日の担当の匙加減……まあぶっちゃけそれが真実だろう。

 血圧の状態を見てカフェインやリズミックと言う血圧を上昇させる薬の服用を患者さんへ与薬していくのである。
 
 そう、半年のブランクとまだまだ透析経験の浅い私の手の中に五人の患者さんの命がある!?

 この現実に不安がないなんて絶対に言えない。
 出来る事ならば『私にはまだ無理なのだ』と声を大にして叫びたいくらいだった。

 前職通りの安定透析ならば未だしもである。
 血圧の変動によって機械……コンソールの入力の変更や内服の与薬、その他様々な事が不慣れな、仕事始めの初日から重過ぎる重石を負わされるなんて思ってもみなかったのである。


 そうして時間が流れ一応無事に透析は終了し、1クール目の患者さんは帰宅していく。
 その間に看護部長がやって来れば私を連れて外来患者さんへ一人一人紹介をしてくれた。
 私は紹介される度に挨拶をしていったのだが……本当は看護部長に言いたかった。

 !!

 しかし患者さんの前でそんな事が言える筈もなく、1クール目の患者さんが終わる前には既にエレベーター前の待合所には2クール目の患者さんが待っているのだ。

 私達は透析が終了すれば回路に残っている患者さんの血液を返血しなければいけない。
 返血し終えれば針を抜き、止血の確認を終え患者さんがベッドを後にしていく毎にベッドメーキングを行っていく。
 
 本当に息を吐く間もなく2クール目の患者さんが入室すれば手洗いを行い穿刺が始まる。
 怒涛の様に、あっと言う間に時間は過ぎていく。
 そうして17時になる前だった。

 私の教育係と言うのだろうか。
 それとも……?

 ただ喜怒哀楽の少ない田中さんがぼそりと呟いたのである。

しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

小さなパン屋の恋物語

あさの紅茶
ライト文芸
住宅地にひっそりと佇む小さなパン屋さん。 毎日美味しいパンを心を込めて焼いている。 一人でお店を切り盛りしてがむしゃらに働いている、そんな毎日に何の疑問も感じていなかった。 いつもの日常。 いつものルーチンワーク。 ◆小さなパン屋minamiのオーナー◆ 南部琴葉(ナンブコトハ) 25 早瀬設計事務所の御曹司にして若き副社長。 自分の仕事に誇りを持ち、建築士としてもバリバリ働く。 この先もずっと仕事人間なんだろう。 別にそれで構わない。 そんな風に思っていた。 ◆早瀬設計事務所 副社長◆ 早瀬雄大(ハヤセユウダイ) 27 二人の出会いはたったひとつのパンだった。 ********** 作中に出てきます三浦杏奈のスピンオフ【そんな恋もありかなって。】もどうぞよろしくお願い致します。 ********** この作品は、他のサイトにも掲載しています。

ウブな政略妻は、ケダモノ御曹司の執愛に堕とされる

Adria
恋愛
旧題:紳士だと思っていた初恋の人は私への恋心を拗らせた執着系ドSなケダモノでした ある日、父から持ちかけられた政略結婚の相手は、学生時代からずっと好きだった初恋の人だった。 でも彼は来る縁談の全てを断っている。初恋を実らせたい私は副社長である彼の秘書として働くことを決めた。けれど、何の進展もない日々が過ぎていく。だが、ある日会社に忘れ物をして、それを取りに会社に戻ったことから私たちの関係は急速に変わっていった。 彼を知れば知るほどに、彼が私への恋心を拗らせていることを知って戸惑う反面嬉しさもあり、私への執着を隠さない彼のペースに翻弄されていく……。

人違いラブレターに慣れていたので今回の手紙もスルーしたら、片思いしていた男の子に告白されました。この手紙が、間違いじゃないって本当ですか?

石河 翠
恋愛
クラス内に「ワタナベ」がふたりいるため、「可愛いほうのワタナベさん」宛のラブレターをしょっちゅう受け取ってしまう「そうじゃないほうのワタナベさん」こと主人公の「わたし」。 ある日「わたし」は下駄箱で、万年筆で丁寧に宛名を書いたラブレターを見つける。またかとがっかりした「わたし」は、その手紙をもうひとりの「ワタナベ」の下駄箱へ入れる。 ところが、その話を聞いた隣のクラスのサイトウくんは、「わたし」が驚くほど動揺してしまう。 実はその手紙は本当に彼女宛だったことが判明する。そしてその手紙を書いた「地味なほうのサイトウくん」にも大きな秘密があって……。 「真面目」以外にとりえがないと思っている「わたし」と、そんな彼女を見守るサイトウくんの少女マンガのような恋のおはなし。 小説家になろう及びエブリスタにも投稿しています。 扉絵は汐の音さまに描いていただきました。

エリート警察官の溺愛は甘く切ない

日下奈緒
恋愛
親が警察官の紗良は、30歳にもなって独身なんてと親に責められる。 両親の勧めで、警察官とお見合いする事になったのだが、それは跡継ぎを産んで欲しいという、政略結婚で⁉

粗暴で優しい幼馴染彼氏はおっとり系彼女を好きすぎる

春音優月
恋愛
おっとりふわふわ大学生の一色のどかは、中学生の時から付き合っている幼馴染彼氏の黒瀬逸希と同棲中。態度や口は荒っぽい逸希だけど、のどかへの愛は大きすぎるほど。 幸せいっぱいなはずなのに、逸希から一度も「好き」と言われてないことに気がついてしまって……? 幼馴染大学生の糖度高めなショートストーリー。 2024.03.06 イラスト:雪緒さま

命の色

マスカレード 
現代文学
仕事に追われ、妻のことを顧みることもなくなっていたある日、 突然倒れた妻に命の危険が迫る

虎藤虎太郎

八尾倖生
現代文学
 ある日、虎藤虎太郎という名の男が、朝にアパートの部屋を出たきり戻ってこなくなり、そのまま行方不明となった──。  その話をアパートの大家から聞かされた二人の男は、縁もゆかりもない虎藤虎太郎を捜し出すために日常を捧げた。一人の男はひたすらに虎藤虎太郎の足跡を追い、もう一人の男は、名前以外、顔も人柄も知らない虎藤虎太郎の頭の中を理解しようとした。アパートの部屋が隣同士だった二人は、次第に接触する機会が増え、次第にお互いを虎藤虎太郎に関連する「何か」だと思い込むようになった。  それでも虎藤虎太郎の存在を知る人間は、二人以外、世界のどこにもいなかった。  二人が探している虎藤虎太郎とは、追い求めている虎藤虎太郎とは、一体誰なのだろうか?

一夜限りのお相手は

栗原さとみ
恋愛
私は大学3年の倉持ひより。サークルにも属さず、いたって地味にキャンパスライフを送っている。大学の図書館で一人読書をしたり、好きな写真のスタジオでバイトをして過ごす毎日だ。ある日、アニメサークルに入っている友達の亜美に頼みごとを懇願されて、私はそれを引き受けてしまう。その事がきっかけで思いがけない人と思わぬ展開に……。『その人』は、私が尊敬する写真家で憧れの人だった。R5.1月

処理中です...