上 下
26 / 34
第二章  

5  カオスです

しおりを挟む
「ご機嫌ようエルネスティーネ嬢」

 目の前には焦げ茶色ダークブラウンの髪と煌めくエメラルドグリーンの瞳を持つ眉目秀麗筋骨隆々なイケメン。

 決して忘れられない、忘れようとしても忘れられっこない御方。
 
 そうこの御方こそ七年後の世界で私の婚約者であり、二日後の結婚式を控えていたと言うのに私達が使うであろう寝室で、同僚の女性騎士であられるアーデルトラウト様と愛し合われていた。
 私は何故かその現場に呼び出されればしっかりとこの目に焼き付けてしまったわ。
 そのショックで私の心は壊れてしまいこの御方の執務室のバルコニーより身を投げ……た。

 シュターデン公爵家当主、ジークヴァルト・アロイス・ラッツェル様。

 叶うならば二度とお会いしたくはなかった。
 いえ、もう二度とジーク様と結婚はおろか婚約もしたくはない!!
 あの悲しい想いはもう二度と味わいたくはない!!

 なのに、なのにどうして?

 こ、こんな風に我が家へ訪れる事なんてなかったと言うかよ。
 王命による婚約まで会う事もなかった……筈?


「エルこちらは。学院時代はよく試験で順位を競い合っていたライバル関係だったのだけれどね。卒業してからはほら、勤め先が二人揃って同じ王宮だろう。部署は違えどもお護りする相手は同じだからね。それ以外にも普通に僕達は親戚同士だし気付けば色々と仲良くなったのだよ」

 ほぉそうですか。
 私は一向に存じ上げませんでしたよアル兄様。
 その証拠にアルお兄様とジーク様より一切友情と申しますか抑々私達親戚付き合いをしていたのでしょうか。
 少しも記憶にないのですけれどね。

 コホン……こ、これは怒っているのではなくす、少しだけ拗ねてい……⁉

「御機嫌よう愛しき天使。私はジークヴァルト・アロイス・ラッツェルと申します。どうか私の事はジークと呼んで下さいますよう」


 はい?
 今物凄く物騒なお言葉が?
 いやいや私ってば到頭とうとう聴覚に異常をきたしたのかしら。
 何故なら愛されてもいないのに使って、私の耳は本当に可笑しくなったとしか思えない。
 貴方には愛する女性がいる筈なのにどうして私へ、そのお湯な優しい笑顔を向けられるの?
 また絶対にあり得ない事が今私の身に起こっている!?

 大きくもご立派なお身体を私の視線に合わすべく床へ跪けばよ。
 ジーク様はゆっくりとお身体を屈められたまま、私の様なお子様の手へそっと、まるで淑女の様に恭しく掬い上げればまさか本当にキスを落とすお心算なのだろうかそれとも――――。


 ただ分かっていると言うか視覚的に見えているのは、ジーク様のものよりも遥かに小さい私の手をぎゅっと握り締められたまま何故か決して離そうとはせず、だからと言ってキスを落とす訳でもない。
 なのに私の手より20㎝程の所へ身体を前傾へ傾けられたままのジーク様のお顔があると言うちょっとした……えーっと今までの経験上私にしてみればこれはかなりな混沌カオス

 何故かジーク様はその体勢のまま少しも動かれる事はない。
 ただじーっと静かに、ううん何かもの言いたげな切ない眼差しで私を見つめておいでになるの。

 理由なんてわからない。
 でもその憂いを帯びた眼差しが堪らなく私の心ギューッと鷲掴みにするのは何故?
 
 ねぇジーク様、貴女が愛しておられるのはアーデルトラウト様……ですよね。

 前回の私と貴方は王命による婚約で、そこに愛情云々何てものはない。
 なのにどうしてその様な切なくて堪らないと言った眼差しで私を見つめるの?


 わからない。
 本当にわからない。
 私は何を言いまたどんな行動をすれば正解なのかしら。
 
 そこへこの永遠にも等しいと思う状況に救いの声が現れる。

「……ねぇジーク僕の大切な天使に何時まで、そして何をしているのかな」

 それはもう清々しい程の魔王様宜しくと言った具合の真っ黒なオーラを纏うアルお兄様。
 実の妹の私でさえ若干引きたくなる様な壮絶過ぎる程の凍れるお色気むんむんの笑みを湛えたまま、私の腕を掴んでいるだろうジーク様の大きな腕と手ををがっちりとホールドされておりました。

 とは言え一応状況的には助かったからアルお兄様にはあとでお礼を言っておこうっと。
 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

幼妻は、白い結婚を解消して国王陛下に溺愛される。

秋月乃衣
恋愛
旧題:幼妻の白い結婚 13歳のエリーゼは、侯爵家嫡男のアランの元へ嫁ぐが、幼いエリーゼに夫は見向きもせずに初夜すら愛人と過ごす。 歩み寄りは一切なく月日が流れ、夫婦仲は冷え切ったまま、相変わらず夫は愛人に夢中だった。 そしてエリーゼは大人へと成長していく。 ※近いうちに婚約期間の様子や、結婚後の事も書く予定です。 小説家になろう様にも掲載しています。

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

うたた寝している間に運命が変わりました。

gacchi
恋愛
優柔不断な第三王子フレディ様の婚約者として、幼いころから色々と苦労してきたけど、最近はもう呆れてしまって放置気味。そんな中、お義姉様がフレディ様の子を身ごもった?私との婚約は解消?私は学園を卒業したら修道院へ入れられることに。…だったはずなのに、カフェテリアでうたた寝していたら、私の運命は変わってしまったようです。

婚約破棄された検品令嬢ですが、冷酷辺境伯の子を身籠りました。 でも本当はお優しい方で毎日幸せです

青空あかな
恋愛
旧題:「荷物検査など誰でもできる」と婚約破棄された検品令嬢ですが、極悪非道な辺境伯の子を身籠りました。でも本当はお優しい方で毎日心が癒されています チェック男爵家長女のキュリティは、貴重な闇魔法の解呪師として王宮で荷物検査の仕事をしていた。 しかし、ある日突然婚約破棄されてしまう。 婚約者である伯爵家嫡男から、キュリティの義妹が好きになったと言われたのだ。 さらには、婚約者の権力によって検査係の仕事まで義妹に奪われる。 失意の中、キュリティは辺境へ向かうと、極悪非道と噂される辺境伯が魔法実験を行っていた。 目立たず通り過ぎようとしたが、魔法事故が起きて辺境伯の子を身ごもってしまう。 二人は形式上の夫婦となるが、辺境伯は存外優しい人でキュリティは温かい日々に心を癒されていく。 一方、義妹は仕事でミスばかり。 闇魔法を解呪することはおろか見破ることさえできない。 挙句の果てには、闇魔法に呪われた荷物を王宮内に入れてしまう――。 ※おかげさまでHOTランキング1位になりました! ありがとうございます! ※ノベマ!様で短編版を掲載中でございます。

【コミカライズ決定】地味令嬢は冤罪で処刑されて逆行転生したので、華麗な悪女を目指します!~目隠れ美形の天才王子に溺愛されまして~

胡蝶乃夢
恋愛
婚約者である王太子の望む通り『理想の淑女』として尽くしてきたにも関わらず、婚約破棄された挙句に冤罪で処刑されてしまった公爵令嬢ガーネット。 時間が遡り目覚めたガーネットは、二度と自分を犠牲にして尽くしたりしないと怒り、今度は自分勝手に生きる『華麗な悪女』になると決意する。 王太子の弟であるルベリウス王子にガーネットは留学をやめて傍にいて欲しいと願う。 処刑された時、留学中でいなかった彼がガーネットの傍にいることで運命は大きく変わっていく。 これは、不憫な地味令嬢が華麗な悪女へと変貌して周囲を魅了し、幼馴染の天才王子にも溺愛され、ざまぁして幸せになる物語です。

[完結] 邪魔をするなら潰すわよ?

シマ
ファンタジー
私はギルドが運営する治療院で働く治療師の一人、名前はルーシー。 クエストで大怪我したハンター達の治療に毎日、忙しい。そんなある日、騎士の格好をした一人の男が運び込まれた。 貴族のお偉いさんを魔物から護った騎士団の団長さんらしいけど、その場に置いていかれたの?でも、この傷は魔物にヤられたモノじゃないわよ? 魔法のある世界で亡くなった両親の代わりに兄妹を育てるルーシー。彼女は兄妹と静かに暮らしたいけど何やら回りが放ってくれない。 ルーシーが気になる団長さんに振り回されたり振り回したり。 私の生活を邪魔をするなら潰すわよ? 1月5日 誤字脱字修正 54話 ★━戦闘シーンや猟奇的発言あり 流血シーンあり。 魔法・魔物あり。 ざぁま薄め。 恋愛要素あり。

骸骨と呼ばれ、生贄になった王妃のカタの付け方

ウサギテイマーTK
恋愛
骸骨娘と揶揄され、家で酷い扱いを受けていたマリーヌは、国王の正妃として嫁いだ。だが結婚後、国王に愛されることなく、ここでも幽閉に近い扱いを受ける。側妃はマリーヌの義姉で、公式行事も側妃が請け負っている。マリーヌに与えられた最後の役割は、海の神への生贄だった。 注意:地震や津波の描写があります。ご注意を。やや残酷な描写もあります。

ハズレ嫁は最強の天才公爵様と再婚しました。

光子
恋愛
ーーー両親の愛情は、全て、可愛い妹の物だった。 昔から、私のモノは、妹が欲しがれば、全て妹のモノになった。お菓子も、玩具も、友人も、恋人も、何もかも。 逆らえば、頬を叩かれ、食事を取り上げられ、何日も部屋に閉じ込められる。 でも、私は不幸じゃなかった。 私には、幼馴染である、カインがいたから。同じ伯爵爵位を持つ、私の大好きな幼馴染、《カイン=マルクス》。彼だけは、いつも私の傍にいてくれた。 彼からのプロポーズを受けた時は、本当に嬉しかった。私を、あの家から救い出してくれたと思った。 私は貴方と結婚出来て、本当に幸せだったーーー 例え、私に子供が出来ず、義母からハズレ嫁と罵られようとも、義父から、マルクス伯爵家の事業全般を丸投げされようとも、私は、貴方さえいてくれれば、それで幸せだったのにーーー。 「《ルエル》お姉様、ごめんなさぁい。私、カイン様との子供を授かったんです」 「すまない、ルエル。君の事は愛しているんだ……でも、僕はマルクス伯爵家の跡取りとして、どうしても世継ぎが必要なんだ!だから、君と離婚し、僕の子供を宿してくれた《エレノア》と、再婚する!」 夫と妹から告げられたのは、地獄に叩き落とされるような、残酷な言葉だった。 カインも結局、私を裏切るのね。 エレノアは、結局、私から全てを奪うのね。 それなら、もういいわ。全部、要らない。 絶対に許さないわ。 私が味わった苦しみを、悲しみを、怒りを、全部返さないと気がすまないーー! 覚悟していてね? 私は、絶対に貴方達を許さないから。 「私、貴方と離婚出来て、幸せよ。 私、あんな男の子供を産まなくて、幸せよ。 ざまぁみろ」 不定期更新。 この世界は私の考えた世界の話です。設定ゆるゆるです。よろしくお願いします。

処理中です...