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第二章
4 ぎゅっとして
しおりを挟む「ん、んーよく寝たぁぁぁぁ」
天蓋のカーテンの隙間より一条の光が差し込む。
私は何時もと変わらず目覚めれば思いっきり上体を伸ば――――。
「「「エル!?」」」
クリアになった視界に行き成り涙ボロボロと滂沱の涙を流し色々と顔面崩壊状態のお父様と王……陛下?
あ、アルお兄様と王妃陛下も涙を流されている……って何故に?
「身体の調子はどうなのエル」
うんお母様は冷静だね。
でも涙でぐちゃぐちゃなお父様達を肘で押し退けふわりと優しく抱き締めて下さる。
ふふ、温かい。
そしてお母様の良い匂いで私の身体と心の中がじわじわと満たされていく。
私もお返しとばかりにギュッとお母様を抱き締め返した所ではたと気付いた。
ここは何処?
「ここは王城よ。因みにここは貴女の部屋でもあるわね」
何もかも理解している様にお母様は答えて下さる。
「私の部屋?王城に⁉」
「ええそうよ。何故なら貴女は王妹である私の大切な娘ですもの。こうして何時でも休む事が出来る様に貴女専用のお部屋が整えられているのよ」
「そう、初めて聞いたわ」
知らなかった。
王城に私の部屋が整えられていたなんて……ね。
でもどうして侯爵家にいた筈なのに、何時の間に私は王城へ伺候していたのかしら。
それで以ってどうして王城でお泊りをしたのかしら……と思えばその疑問についてもお母様が間髪入れずに教えて下さったわ。
まるで何も私が困らない様……に?
「貴女ってば王妃様とのお茶会の途中、お菓子の食べ過ぎで眠ってしまったのよ。テアもそして迎えに来た私も流石に吃驚したわよ。我が家はその様なお行儀の悪い娘に教育をした覚えはないのだけれど。まぁ此度はお腹を壊さなかっただけ善しとしましょう。テアも屋敷で心配していてよ」
「はぅぅぅまたテアに扱かれてしまう〰〰〰〰」
王妃様とのお茶の席で居眠りだ何て本当にあり得ない。
あ゛あ゛ビシビシと見えない幻の鞭をしならせているテアの姿が目に浮かぶ。
「まぁよいではないか。高が居眠り……のう王妃よ」
「えぇそれだけ私達は打ち解け合っていると言う証ですもの。どうかティーネ様も穏便にお願い致しますわ」
「はい、よく存じておりましてよ王妃様」
「うおおおおおおおおおエル!!父は、父はまた可愛い娘に会えて嬉しいぞぉぉぉおおおおおおおおおお」
「げふぉ!?」
宰相なのに脳筋馬鹿力のお父様、娘に対してもっと細やかな力加減と言うものを学んで下さい!!
令嬢にあるまじき呻き声を出しちゃったではないですか。
「父上、エルが死んでしまいます!!」
いやこれでは死なないからアルお兄様。
「……心配をかけてごめんなさい」
私の呻き声に驚いたアルお兄様はお父様の腕より素早く引き剥がしてくれた。
「いいよ。エルが元気であればそれでいいのだからね」
アルお兄様はそう言ってお父様とは違いそっと、壊れ物の様に抱き締めてくれる。
「ふふ大好きよアルお兄様」
「僕もエルが一番大好きだよ」
その後両陛下と共に皆で賑やかな朝食を食べた後私とお母様は王城を辞した。
王妃様は最後までもう少しゆっくりお茶をしましょうって物凄く名残惜しそうにして下さったのだけれどもだ。
『次の定例のお茶会をキャンセルされるのであればよろしいですわよお義姉様』
お母様の地を這う様な低い声音でそう告げられた王妃様は、真珠と見まがう綺麗な涙をポロポロと流されながらも結局最後には泣く泣くエントランスまで見送ってくれました。
因みにお父様は宰相としてのお仕事がある為ご自分の執務室へ、王陛下も隣国の大使が待っていたらしく謁見の間へとそれぞれ側近の人達によって引き摺られて行った。
お兄様はその側近の人達と一緒に宰相府へと戻っていったとか。
未来の宰相様頑張って。
屋敷へ戻った私は当然何時もと変わらず……そこは是が非とも変わって欲しいテアのお説教から始まり、淑女レッスンと講師の先生と一緒にお勉強をしたの。
午後にはテアとお母様と一緒にお茶をしその後はテアと一緒にお庭へ出て散歩をする。
何時もと変わらない日常。
そうして何事もなく夕食を済ませ入浴をし、就寝を迎えた私はふと思う。
何か、そう何かを忘れている様で忘れていない?
忘れると言うかわからないほんの少しの違和感。
でも忘れている事って何がある?
私の家族に王陛下と王妃陛下、クリスお兄様に始まり第二王子のベルンお兄様でしょ。
第三王子のエーベルお兄様に第四王子のラインお兄様。
お兄様のご婚約者の令嬢方に親友のアンネとルートも覚えていてよ。
ほら、何も忘れてはいない。
でもそれならば何故……?
わからない。
一体何に対しての違和感なのかはわからない。
そう忘れてはいけないものは何もない……筈。
かちゃ
「エルまだ起きていたの?」
「お母様?」
「今日は身体も疲れていると思うから早く寝なさい」
お母様が様子を見に来てくれたみたい。
「ね、お母様」
「なぁにエル」
「お願いだからぎゅっとして下さい」
少し驚いた顔をされたと思えばその一瞬後朗らかに破顔一笑されるお母様。
「幾つになってもまだまだエルは甘えたさんね」
「何時もじゃないもの。偶に……だもの」
そう何時もはちゃんとお姉さんだものね。
「わかったわ。良く休むのですよエル。愛しているわ私の大切な宝物」
お母様はそっと私を布団ごと抱き締めれば額にキスをしてくれる。
「おやすみなさいお母様」
私は今日もお母様達の溢れる愛に包まれ夢の世界へと誘われていく。
違和感を忘れるかの様に……。
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