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第一章

2  鬼教官と言う名の私の侍女

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 然も楽しそうにダンスを踊る様にステップを踏みながら、でも実際は心の中で血の涙を流していた私はバルコニーからダイブした事をしっかりと思い出してしまった。
 とは言えダイブした後は何も覚えてはいない……と言うかだ。
 そこは普通に意識を消失したのか先か、はたまた何もわからないまま地面と仲良くなってしまったって事は⁉

 で、では今の私はもう既に死んで……いる?

 ほら三階のバルコニーからしっかりと身を投げたのだもの。
 普通に死んでしまったとしても当然だし、いや寧ろ助かっていたのであれば今頃全身包帯だらけのミイラ女と化せばよ。
 指一本だけではなく恐らく言葉も真面に発せられないだろう筈なのにどうしてなの⁉

 不思議な事に何処にも包帯の巻いている場所はおろか包帯らしきものの存在すらも認められないだけでなく、何処も痛みはなく身体は至って健康そのものって感じで異常は全く……ない?


 いやいや少し落ち着こうか私。
 痛みも何もないって事はやはり私はもう既に死んでいる案件なのでは⁉
 もしかして私は幽霊にでもなったの?

 まあ何れにせよそれを選んだのは他でもない私自身なのだけれど。
 出来ればそこは浮遊霊ではなくちゃんと成仏したかったわね。

 そんな事を考えながら姿見の前で自身の姿を見つめていた。

 うん、これは間違いようもなく胸だけでなく身体は細くも小さなお子様体型。
 ほらこの手もまるで縮んだ様に小さく可愛いらしいサイズとなっている。
 まるで物語の様に大人から子供へ若返……⁉

 暢気にも笑みを浮かべながらお馬鹿な事を考えていたまさにその時だった。


「何時までそうしておられるのですかエルお嬢様。今日は王宮へ、両陛下とのお茶会の日ですからちゃんとして下さいね」
「お茶……会?」
「そうですよ。何時もの野生児野猿令嬢様は綺麗にお隠しとなり、深窓のご令嬢の仮面をきっちりと、ええ絶対に1㎜も仮面を剥がしてはいけませんよ!!」

 ちょ、ちょっと待って。

「お・へ・ん・じ・は!!」

 背景がドロドロの、物凄く真っ黒なオーラを纏ったテアが余りにも久しぶり過ぎて半端なく怖い⁉
 だから私は深く考える間もなくその場の雰囲気と勢いのまま――――。

「い、イエス・マム!!」
「はい、良く出来ました。ではこちらへきて支度をして貰いましょうねお嬢様」

 テアの満面の笑みが物凄く怖い⁉
 そしてこれは絶対に有無を言わせない笑顔だわ!!

 これだけは忘れようたって忘れられない。
 思いっ切り調教され続けたテアの恐ろしい一面。
 

 何を隠そうって何も隠しはしない。
 私は少しだけ普通の令嬢とは違っていた。
 皆が甘やかしてくれるのも一理あると思う。
 でもそれに便乗した私はお転婆を通り越しじゃじゃ馬街道まっしぐらとなればよ。
 当時そんな私に手を焼いていた両親はある日一人の少女を侯爵家の養女として迎え入れた。

 アショフ男爵家令嬢テア・エデルガルト・フローン。

 私を淑女へと矯正するべくやってきた私の専従侍女鬼教官!!

 たった三歳しか違わないのに初めて会ったテアは12歳にして既に完璧な淑女。
 ただご実家は裕福だけれども男爵家の次女であるテアの将来は決して明るいものではない。
 そこでお父様とお母様は行く行くは養女としてテアを我が侯爵家へ縁付け、侯爵令嬢として嫁に出す事を条件に最初は私の話し相手コンパニオンと言う名の師匠として我が家へやってきたのだがしかし――――。


「閣下、ここは是が非とも義姉ではなくお嬢様の侍女として、一からお嬢様と向かい合いたいと思います」

 何処をどう見ても令嬢らしくなく男の子の様に走り回ればだ。
 初対面で顔に泥や葉っぱを付けては大口を開けて笑っている私を凝視したテアはそうのたまったのである。

 勿論ここで私……いや両親にも拒否権と言うものは存在しない。
 気付けばある意味テアは我が家で一番の権力を持ってしまった。

 第一頭もキレっキレでその上お母様と同じくらいの素晴らしい淑女っぷりって一体どんな化け物なのよ。
 ともあれ王妹であるお母様の一番のお気に入りとなったテアに最早怖いものは存在しない。
 行く行くは養女にと言うお話もお母様によって既に養女扱いではなく実の娘となっているのだもん。

 まぁそのテアのお陰で今の私は立派な淑女になったのだけれど……ってちょっと待って⁉


 私とテアはまだ知り合ってそんなに時間は経過していない筈。
 なのに立派な淑女って一体……。
 深く考えようとすればする程また頭の中は霞みで一杯になる。
 
 わからない事が多過ぎる。
 そして納得の出来ない事も多い。
 一体私はどうなっているのかしら。
 
 完全に現状が把握出来ないままの私は鬼教官いやテアの指示通り数名の侍女達によって身支度を整え、混乱した頭を抱えたまま王城へ伺候した。
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