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第四章 現在
26 始まりは終わる為にそれとも終わりは始まりの為にあるもの? Sideジェフリー
しおりを挟む「…………っ、エヴァンジェリン」
確かにその名を仰った。
何時もの掴みどころのない飄々としたアーロン様とは別人なのかと思う程に余裕はなく、然も喉の奥より絞り出す様に漏れ出た声は渇望にも似た擦れた声で彼女を、フィオ嬢へ向かってその名を告げられたのである。
エヴァンジェリン。
ライアーン王国第一王女にして我が国の秘匿された王妃陛下の御名であり、アーロン様が心を傾けられる唯一の女性。
あれは確か五年前の事。
前シャロン王が戦場で討ち取られ、ルガート軍は一気にシャロンへと、シャロン城へ傾れ込みましたが、私の機転で世継ぎの君であられるアーロン様だけは何とか裏社会より手を廻し、我がルートレッジ侯爵領へ無事にお連れする事が出来ました。
ですが後の王族の方々はその場で全員処刑となりましたね。
まぁこう申しましては何ですが、アーロン様以外の御方々は実に遣えない方ばかりでしたので、厄介払いが出来て丁度良かったのかもしれません。
その点アーロン様は幼い頃より頭脳も容姿も共に大変優れた御方なのです。
そうですね、性格はやや難のある御方ですがそれも優秀過ぎるが故の事でしょう。
まだ10歳にもならないと言うのにです。
既に世の中について実に達観したと申しますか、この世界について大層悲観されておられたのです。
『この世界の為に人間は存在してはいけないものなのだよ。人間こそが世界をダメにしてしまうのだからね。僕は人間に生まれた事をとても後悔しているんだ』
当時の私はまだ物心がつくかつかないかの幼子でしたが、父に連れられ何度となく秘密裏にアーロン様とお会いし、常人にはない物の考え方や捉え方に心酔したのは言うまでもありません。
また、それが父達大人の考えでもあったのでしょう。
幼い頃よりシャロン王家に仕える臣下としての擦り込みを……ね。
確かにアーロン様はとても優れた御方ですが、優れておられるからこそあの御方の立たれておいでになる世界は常人である私には理解し難いものが度々あったのです。
アーロン様と交流を深めつつも表の顔としてルートレッジ家はルガートの忠臣でもあらねばなりません。
ルートレッジ家は表向きルガート建国より初代国王へ忠誠を誓っていますからね。
またアーロン様には及ばないのですが私自身もそれなりに優秀でしたので、飛び級でわずか12歳の時に学院を卒業しました。
そうそう一応同期生としてマックスとチャーリーもいましたね。
彼らにはいえ、正確にはラファエル陛下の従兄弟でもあるチャーリーからは、あの頃より何かと目を付けられていましたよ。
ルートレッジ侯爵家の黒い噂と私自身の行動について、ですけれどね。
学院を卒業した私は父の、先代ルートレッジ侯爵が亡くなるまでの六年間を自領で領地経営の勉強と称し、その裏では秘密裏にシャロンにてアーロン様へお仕えしていたのです。
そうして父が亡くなったのと同時に爵位を相続し、ルガート王宮の重臣の一人としてラファエル陛下に召し抱えられて以降私はラファエル様へお仕えしてきました。
アーロン様とラファエル陛下のご尊顔は本当に瓜二つと言っても過言ではありません。
瞳の色が違うだけで後は全て同じなのです。
いえ、髪型等はアーロン様が面白いからと、陛下の髪形を真似ておられましたね。
ただお二人の決定的に違うモノは性格です。
アーロン様が陰ならばラファエル陛下は陽。
私自身陰であるべきなのにいえ、陰だからこそ眩しい陽であるラファエル陛下へ惹かれたのかもしれません。
そしてそんな陰と陽共に求められる存在こそがエヴァンジェリン姫だったのです。
ですが長年憎しみさえも抱いていた彼の姫がまさかフィオ嬢だったとは、この世に神と言うものが真実存在するのであればこれ程酷い現実はありません。
己が命を懸けても護りたいと思える乙女と出逢った瞬間にバッドエンドですか。
ふふふ、そうですよね。
あぁそうです。
最初からわかっていた筈ですよね。
何故なら彼女は、フィオ嬢はアーロン様が夢見る様な瞳でお話をされる女性そのものなのです。
えぇっ、私が、ただ単に私自身がその事実に気付きたくなかっただけなのです!!
フィオ嬢は私が初めて出逢った瞬間我が命を懸けてでも護りたいと――――本気で想う女性だったのです。
ですがこれは最早運命としか言いようがありません。
このままアーロン様はお望みの姫君をその手中に収めようとなされますが、一方フィオ嬢は、エヴァンジェリン姫はそれを望んでいらっしゃらない。
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