91 / 122
第四章 現在
16 始まりは終わる為にそれとも終わりは始まりの為にあるもの?
しおりを挟む背後にいるアーロンへ気付かれない様にジェフリーは一瞬だけフィオをギュッと抱きしめれば、凡そ声とは呼べない程の小さな、擦れる様な声で然も吐き捨てる様に彼女へと告げた。
ジェフリー自身その言葉を紡いだ刹那、彼の心臓はギリギリと捩じ上げられる様な痛みにも似た錯覚を感じていた。
だがこの程度でフィオを護れるのであれば幾らでも耐えてみせると、ジェフリーは表面上何もない体を貫いてみせた。
フィオが自身の腕の中で酷く困惑しているのにも構わずその華奢な背中をそっと向こうへ、アーロンと反対側へと押し出せばそのままくるりと踵を返した。
「何も、街の者とぶつかっただけです我が君」
何もなかったかの様にジェフリーは振る舞う一方で、心の中では一刻も早くフィオにこの場より立ち去って欲しいと懇願する。
アーロンに、彼の蛇の様な執着さを持つ天色の双眸に、フィオを囚われたくはないとジェフリーは柄にもなく思ってしま――――!?
「ジェフリー、君は相変わらず嘘が下手だねと言うかね。普通の人間ならばまぁ騙せるレベルだけれどさ。抑々この僕に君の程度の嘘で誤魔化せられるど本当に思っているの?」
「いっ、いえ、その様な事は考えてもおりません」
「ふぅ……んそうかな? 君、今顔色が変わったよ?」
「――――っっ!?」
「クスクス、本当に君は何時も楽しいね。僕は君を見ていて飽きないよ」
アーロンは自身の銀色の髪を指に絡めながら形の良い唇を弧に描き、目の前の優秀な部下が自身の言葉一つで普段ならば絶対に見せないだろう顔色の変化を、ねっとりと舐める様に見つめ愉しんでいた。
とは言えジェフリーも直ぐ何時もの無表情となれば賺さずアーロンを窘める。
「我が君、ここは人目に付きますので早々に馬車へお乗り下さい」
「ふふん、僕を箱に閉じ込めて事なきを得ようとでも思っているのかな? まぁいいか、他でもない君の言う事なら僕は大人しく従うとしよう――――っ!?」
アーロンは軽く両肩を竦めジェフリーの促すままに馬車へ乗ろうと一歩前へ踏み出したと見せかければ、彼は一瞬の隙を突きジェフリーの身体をさらりと躱し、堅物の、面白みのない男がだ。
主である自分を欺いてでも護ろうとしたモノの前へと躍り出る。
最初にアーロンの視界に入ったのは赤毛交じりの金色。
それも金色の部分は白金に輝きを放つ髪。
またどんなに黒く冴えない縁の太い大きな眼鏡を掛けていようとも間違えよう筈がない。
キラキラと煌めくエメラルドグリーンの大きな瞳に白磁の様に抜ける白い肌、また桜桃の様に愛らしい唇そして小柄で華奢な肢体を持つこの世でたった一人しか存在しないだろう乙女。
何があろうとも忘れられない存在。
どれ程の月日が流れようとも決して忘れられない存在。
彼女がこの世界に生を受けた瞬間よりずっと恋焦れてきた。
誰が見間違える?
否、見間違える事等ない!!
この世界の誰よりも愛しくて、その存在を自分の手で葬る事により彼女の全てを自分が手に入れられると信じてやまない、この世界でただ一つの愛する乙女。
永遠にも近い時間の流れの中でどんなにこの愛しい存在を探した事かっ!!
己の命よりも何よりも代え難く愛し過ぎる存在。
そうこの狂気の様な愛を自身へ教えてくれた愛するたった一つの至宝。
「…………っ、エヴァン、ジェリン!?」
「エル、さん?」
喉の奥より絞り出す様に出た声は渇望とも取れる擦れた声でアーロンは、その乙女の名を口にする。
そして目の前のフィオはアーロンの姿を見て、彼と瓜二つでもあるもう一人の名を紡ぐ。
そうラファエルとアーロンは一卵性の双子の様にそっくりだったのだ。
ただ二人を違えるのは瞳の色だけ……。
0
お気に入りに追加
241
あなたにおすすめの小説
【完結】淑女の顔も二度目まで
凛蓮月
恋愛
カリバー公爵夫人リリミアが、執務室のバルコニーから身投げした。
彼女の夫マクルドは公爵邸の離れに愛人メイを囲い、彼には婚前からの子どもであるエクスもいた。
リリミアの友人は彼女を責め、夫の親は婚前子を庇った。
娘のマキナも異母兄を慕い、リリミアは孤立し、ーーとある事件から耐え切れなくなったリリミアは身投げした。
マクルドはリリミアを愛していた。
だから、友人の手を借りて時を戻す事にした。
再びリリミアと幸せになるために。
【ホットランキング上位ありがとうございます(゚Д゚;≡;゚Д゚)
恐縮しておりますm(_ _)m】
※最終的なタグを追加しました。
※作品傾向はダーク、シリアスです。
※読者様それぞれの受け取り方により変わるので「ざまぁ」タグは付けていません。
※作者比で一回目の人生は胸糞展開、矛盾行動してます。自分で書きながら鼻息荒くしてます。すみません。皆様は落ち着いてお読み下さい。
※甘い恋愛成分は薄めです。
※時戻りをしても、そんなにほいほいと上手く行くかな? というお話です。
※作者の脳内異世界のお話です。
※他サイト様でも公開しています。
誰からも愛されない悪役令嬢に転生したので、自由気ままに生きていきたいと思います。
木山楽斗
恋愛
乙女ゲームの悪役令嬢であるエルファリナに転生した私は、彼女のその境遇に対して深い悲しみを覚えていた。
彼女は、家族からも婚約者からも愛されていない。それどころか、その存在を疎まれているのだ。
こんな環境なら歪んでも仕方ない。そう思う程に、彼女の境遇は悲惨だったのである。
だが、彼女のように歪んでしまえば、ゲームと同じように罪を暴かれて牢屋に行くだけだ。
そのため、私は心を強く持つしかなかった。悲惨な結末を迎えないためにも、どんなに不当な扱いをされても、耐え抜くしかなかったのである。
そんな私に、解放される日がやって来た。
それは、ゲームの始まりである魔法学園入学の日だ。
全寮制の学園には、歪な家族は存在しない。
私は、自由を得たのである。
その自由を謳歌しながら、私は思っていた。
悲惨な境遇から必ず抜け出し、自由気ままに生きるのだと。
転生王女は異世界でも美味しい生活がしたい!~モブですがヒロインを排除します~
ちゃんこ
ファンタジー
乙女ゲームの世界に転生した⁉
攻略対象である3人の王子は私の兄さまたちだ。
私は……名前も出てこないモブ王女だけど、兄さまたちを誑かすヒロインが嫌いなので色々回避したいと思います。
美味しいものをモグモグしながら(重要)兄さまたちも、お国の平和も、きっちりお守り致します。守ってみせます、守りたい、守れたらいいな。え~と……ひとりじゃ何もできない! 助けてMyファミリー、私の知識を形にして~!
【1章】飯テロ/スイーツテロ・局地戦争・飢饉回避
【2章】王国発展・vs.ヒロイン
【予定】全面戦争回避、婚約破棄、陰謀?、養い子の子育て、恋愛、ざまぁ、などなど。
※〈私〉=〈わたし〉と読んで頂きたいと存じます。
※恋愛相手とはまだ出会っていません(年の差)
ブログ https://tenseioujo.blogspot.com/
Pinterest https://www.pinterest.jp/chankoroom/
※作中のイラストは画像生成AIで作成したものです。
婚約破棄されたので暗殺される前に国を出ます。
なつめ猫
ファンタジー
公爵家令嬢のアリーシャは、我儘で傲慢な妹のアンネに婚約者であるカイル王太子を寝取られ学院卒業パーティの席で婚約破棄されてしまう。
そして失意の内に王都を去ったアリーシャは行方不明になってしまう。
そんなアリーシャをラッセル王国は、総力を挙げて捜索するが何の成果も得られずに頓挫してしまうのであった。
彼女――、アリーシャには王国の重鎮しか知らない才能があった。
それは、世界でも稀な大魔導士と、世界で唯一の聖女としての力が備わっていた事であった。
悪役令嬢は処刑されました
菜花
ファンタジー
王家の命で王太子と婚約したペネロペ。しかしそれは不幸な婚約と言う他なく、最終的にペネロペは冤罪で処刑される。彼女の処刑後の話と、転生後の話。カクヨム様でも投稿しています。
【完結】虐待された少女が公爵家の養女になりました
鈴宮ソラ
ファンタジー
オラルト伯爵家に生まれたレイは、水色の髪と瞳という非凡な容姿をしていた。あまりに両親に似ていないため両親は彼女を幼い頃から不気味だと虐待しつづける。
レイは考える事をやめた。辛いだけだから、苦しいだけだから。心を閉ざしてしまった。
十数年後。法官として勤めるエメリック公爵によって伯爵の罪は暴かれた。そして公爵はレイの並外れた才能を見抜き、言うのだった。
「私の娘になってください。」
と。
養女として迎えられたレイは家族のあたたかさを知り、貴族の世界で成長していく。
前題 公爵家の養子になりました~最強の氷魔法まで授かっていたようです~
【完結】堅物な婚約者には子どもがいました……人は見かけによらないらしいです。
大森 樹
恋愛
【短編】
公爵家の一人娘、アメリアはある日誘拐された。
「アメリア様、ご無事ですか!」
真面目で堅物な騎士フィンに助けられ、アメリアは彼に恋をした。
助けたお礼として『結婚』することになった二人。フィンにとっては公爵家の爵位目当ての愛のない結婚だったはずだが……真面目で誠実な彼は、アメリアと不器用ながらも徐々に距離を縮めていく。
穏やかで幸せな結婚ができると思っていたのに、フィンの前の彼女が現れて『あの人の子どもがいます』と言ってきた。嘘だと思いきや、その子は本当に彼そっくりで……
あの堅物婚約者に、まさか子どもがいるなんて。人は見かけによらないらしい。
★アメリアとフィンは結婚するのか、しないのか……二人の恋の行方をお楽しみください。
あなたが私を捨てた夏
豆狸
恋愛
私は、ニコライ陛下が好きでした。彼に恋していました。
幼いころから、それこそ初めて会った瞬間から心を寄せていました。誕生と同時に母君を失った彼を癒すのは私の役目だと自惚れていました。
ずっと彼を見ていた私だから、わかりました。わかってしまったのです。
──彼は今、恋に落ちたのです。
なろう様でも公開中です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる