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第四章  現在

16  始まりは終わる為にそれとも終わりは始まりの為にあるもの? 

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 背後にいるアーロンへ気付かれない様にジェフリーは一瞬だけフィオをギュッと抱きしめれば、凡そ声とは呼べない程の小さな、擦れる様な声で然も吐き捨てる様に彼女へと告げた。
 ジェフリー自身その言葉を紡いだ刹那、彼の心臓はギリギリと捩じ上げられる様な痛みにも似た錯覚を感じていた。
 だがこの程度でフィオを護れるのであれば幾らでも耐えてみせると、ジェフリーは表面上何もない体を貫いてみせた。
 フィオが自身の腕の中で酷く困惑しているのにも構わずその華奢な背中をそっと向こうへ、アーロンと反対側へと押し出せばそのままくるりと踵を返した。

「何も、とぶつかっただけです我が君」

 何もなかったかの様にジェフリーは振る舞う一方で、心の中では一刻も早くフィオにこの場より立ち去って欲しいと懇願する。
 アーロンに、彼の蛇の様な執着さを持つ天色の双眸に、フィオを囚われたくはないとジェフリーは柄にもなく思ってしま――――!?

「ジェフリー、君は相変わらず嘘が下手だねと言うかね。普通の人間ならばまぁ騙せるレベルだけれどさ。抑々この僕に君の程度の嘘で誤魔化せられるど本当に思っているの?」
「いっ、いえ、その様な事は考えてもおりません」

「ふぅ……んそうかな? 君、今顔色が変わったよ?」
「――――っっ!?」

「クスクス、本当に君は何時も楽しいね。僕は君を見ていて飽きないよ」

 アーロンは自身の銀色の髪を指に絡めながら形の良い唇を弧に描き、目の前の優秀な部下が自身の言葉一つで普段ならば絶対に見せないだろう顔色の変化を、ねっとりと舐める様に見つめ愉しんでいた。
 とは言えジェフリーも直ぐ何時もの無表情となればすかさずアーロンを窘める。

「我が君、ここは人目に付きますので早々に馬車へお乗り下さい」
「ふふん、僕を箱に閉じ込めて事なきを得ようとでも思っているのかな? まぁいいか、他でもない君の言う事なら僕は大人しく従うとしよう――――っ!?」

 アーロンは軽く両肩を竦めジェフリーの促すままに馬車へ乗ろうと一歩前へ踏み出したと見せかければ、彼は一瞬の隙を突きジェフリーの身体をさらりと躱し、堅物の、面白みのない男がだ。
 主である自分を欺いてでも護ろうとしたモノの前へと躍り出る。

 最初にアーロンの視界に入ったのは赤毛交じりの金色ストロベリーブロンド
 それも金色の部分は白金プラチナブロンドに輝きを放つ髪。
 またどんなに黒く冴えない縁の太い大きな眼鏡を掛けていようとも間違えよう筈がない。
 キラキラと煌めくエメラルドグリーンの大きな瞳に白磁の様に抜ける白い肌、また桜桃サクランボの様に愛らしい唇そして小柄で華奢な肢体を持つこの世でたった一人しか存在しないだろう乙女。


 何があろうとも忘れられない存在。
 どれ程の月日が流れようとも決して忘れられない存在。
 彼女がこの世界に生を受けた瞬間よりずっと恋焦れてきた。

 誰が見間違える?

 否、見間違える事等ない!!

 この世界の誰よりも愛しくて、その存在を自分の手で葬る事により彼女の全てを自分が手に入れられると信じてやまない、この世界でただ一つの愛する乙女。

 永遠にも近い時間の流れの中でどんなにこの愛しい存在を探した事かっ!!

 己の命よりも何よりも代え難く愛し過ぎる存在。

 そうこの狂気の様な愛を自身へ教えてくれた愛するたった一つの至宝。


「…………っ、エヴァン、ジェリン!?」
「エル、さん?」

 喉の奥より絞り出す様に出た声は渇望とも取れる擦れた声でアーロンは、その乙女の名を口にする。
 そして目の前のフィオはアーロンの姿を見て、彼と瓜二つでもあるもう一人の名を紡ぐ。

 そうラファエルとアーロンは一卵性の双子の様にそっくりだったのだ。

 ただ二人を違えるのは瞳の色だけ……。
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