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第四章  現在

5  白馬の青年 Sideエヴァ

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「やっ!!きゃあ」

 行き成りだった。
 腕が伸びたかと思えば強引に私の右腕が掴まれてしまった。

 勿論私は抵抗したわ。
 でも男の腕は石の様に硬くて全くびくともしない。
 改めて男を見れば……いえ睨みつけたわ。

 ボサボサの髪に薄汚れた衣服をだらしなく着崩した様相の中肉中背の男。
 厭らしく私の姿を上から下までじっとりと舐める様な視線と舌なめずりする様にぞっとしてしまう。

「あ、やぁっ⁉」

 触られるのも嫌だった。
 なのに男は私を容易に自身の腕の中へと囲い込むの。

 無論抵抗したわ。
 殴られてもいいと思うくらいに抵抗を試みたわ。
 こんな暴挙は断じて受け入れられない。
 
「は、放し……⁉」

 拒絶の言葉を発すると共に空気を吸い込んだ瞬間、余りの悪習に吐き気を催してしまったの。

 離れていた時はまだ微かだったから苦にもならなかった。
 力づくで腕の中へと囲われるとその何とも言えない安酒混じりの口臭って、何日歯を磨いていないのかを問いたかったわ。
 それともう何日かさえも考えられない程の汗と埃とそれから……以下略。
 私の想像を遥かに超えたえた体臭で呼吸が出来ないだけでなく涙まで滲ませてしまう。

 これ以上もう男の体臭を吸いたくないと強く思った私は必要最低限の呼吸をするだけに気を取られた所為で、男より逃れたいのに思うよう身体へ力が入らないと言う負のスパイラルへと陥ってしまった。
 
「へへ、直ぐに善い思いをさせてやるさ」

 そう言ってずるずると私を向こうにある小屋へと引き摺っていく。
 こんな男に何をされるのかは正確にはわからない。

 でも私は嫌!!
 こんな男に好き勝手されるのだけは何があろうとも許さない。
 でも思う様に呼吸が出来なくて力が入らない。
 とは言えこのままでは危険だと言う事はわかる。

 第一男のが私へ当て嵌まるとは到底思えないのだもの!!

 だから臭いが嫌だからとかなんてもう言っていられないの。
 私は臭いのを我慢して思い切り大きな声で叫んだわ!!

「離してっ!!汚らわしいこの手を離しなさい!!」

「っ、何をこのアマっ、何調子こいてやがんだ。ちったぁ痛い目に合わねぇと大人しくならねぇのか!!」
「な、きゃあ!?」

 グイっと強引に私の胸倉を男が掴む。
 咄嗟に殴られると思った瞬間、私はその衝撃を予想し目を瞑った時だった。


「――――おい、お前何をしている?」
「んあ゛あ゛……?」

 最初に視界に入ったのは雪の様に真っ白な馬。
 その馬に騎乗しているのは鮮やかな緑色の髪に漆黒の瞳をしたやや神経質そうな面持ちの青年。

「もう一度問う。お前その娘に何をしようとしているのだ?」

 彼は馬より降りる事無く私と、正確には無礼にも私を囲いこんでいる男を悠然と見下ろしていた。
 キリっとした凛々しい面差しの青年の思わぬ登場に男は何を思ったのかしら。
 私の身体を放す事無く、そして当然だと言わんばかりに青年へ向けて口汚く罵ったの。

「おうおうっ、何カッコつけてんだよ貴族のにーちゃんがよ!!ここはあんたみたいなお貴族様が来る所じゃねーんだよっ!!俺はこれからこの姉ちゃんと仲良くしけ込もうっていう時に邪魔何かすんじゃねぇ!!わかったらとっととこっからここから出ていきやがれ!!」

 嫌、汚いっ、唾を飛ばさなずに話してよ!!

 本当にもういい加減にして!!
 
 帰りが遅くなればアナベルが……⁉

 そこで私はある事を思い出したの。
 私は男が青年へ気を取られている一瞬の隙を見逃さなかった。
 気付かれない様自身の身体を捩らせ渾身の力を込めて男の股間を思い切り膝で蹴り上げてやったわ。

「――――っうぅ!!」

 私の身体より男の手が離れ股間を抑え蹲ろうとする前に、男の足の甲の真ん中辺りを少しヒールのある踵で力一杯に振り下ろす。

「――――っっ⁉」

 突然の痛みで悶絶する男へ最後の仕上げと言う様に私は先程蹴りを入れた場所へご丁寧にもぐりぐりと力一杯捩じりつけたの。

 本音を言えば罷り間違っても男性の股間何て場所を蹴るどころか触りたくもないわよ。
 ましてやあの様に汚い男のモノ何て論外にも程があるわ。
 でも働き始めてからアナベルよりこうした対処法を教えられていたの。

 アナベル曰く……!!

 そうだからアナベルの長年に渡る指導に基づいて実行しただけ。
 まさか本当にこんな日が来るとは思わなかったわ。
 また私自身出来るとも思わなかったけれど……。

 出来ればもうこの様な体験をしたくはない。

 男はその場で股間と足の甲を抑えて蹲ったまま悶絶している。

「うぐ、ちき……しょうっ、こんな小娘なんかにっ!!」

 悪態を吐く事は出来てもても暫くは動けないみたい。
 だから逃げるのならば今しかない。
 私は男より距離を取ろうとした時ふと青年と目が、視線が絡みつく様な不思議な感覚を抱いたの。
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