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第四章 現在
4 知らない場所 Sideエヴァ
しおりを挟む私は診療所を後にすると市場へと向かったわ。
噴水の近くにあるお肉屋さん。
ここのお肉は柔らかくて美味しいの。
おまけに値段も庶民には嬉しい低価格。
なのに何時もおまけまでしてくれるのよね。
市場へ近づくにつれ活気が満ちてくる。
商売を営む人にそれを買う人達で賑わっている。
活気のある風景を見て歩くのが私の楽しみの一つ。
でも本当に四年前まで戦に明け暮れていた国とは思えない。
これも紙切れ上の夫である陛下が国政を真面目に取り組んでおられる証拠なのかもしれない。
だからこそ今日の繁栄があるのだわ。
ただ私には全く興味がないのでしょうね。
まぁ私も陛下の事は言えない。
だって顔も覚えていないのは私も同じだもの。
覚えている……のはとても大きくて冷たい感じの男性って事くらい。
このまま私の存在を忘れてくれないかしら。
でも何時か、そう何れこの国にいれば陛下より召し出される可能性は否定出来ない。
そうなれば私に拒否する事は出来ない。
あぁどうしても正妃として陛下の傍にいなくてはいけないと強要されるならよ。
私の作った料理を美味しいと言って食べてくれるエルさんの様な男性だったらいいのに……と変な事を考えていた時だったの。
どんっ!?
「あ、っ……ってちょっと待って!!」
急に背後より強くぶつかられてしまったわ……って呑気にしている訳にはいかない。
そしてアナベルより何時も口を酸っぱくして言われている事がある。
待ってと言われて古今東西待つ人間はいない。
私に体当たりした少年は私の鞄を抱え一目散に走っていく。
物凄く速い。
でも私も簡単に諦めなくてよ。
その中には私が一生懸命頑張って働いたお金が入っているのだから!!
譬え王妃らしくないと言われても構わない。
簡単には諦めない。
盗られたものは絶対に取り返す!!
私は脇目も振らず少年を追い掛けたの。
少年が寂しい路地裏へ入っても私は躊躇う事無くその後を追い掛けたわ。
それがどの様に危険な事なのかも考えずにね。
「ここは……何処?」
少年を見失ってふと我に返り周囲を見回したわ。
全く知らない所にいた。
一体ここが何処で、どの道を通れば元の通りへ戻れるのかもわからない。
いえ本当にもう一度あの通りへ戻れる事が果たして出来るのかしら。
見知らぬ場所。
見知らぬ……離宮よりも崩れそうな家と呼ぶには少し躊躇ってしまう小屋が乱立している場所。
あの賑やかな大通りとは全く違う物音一つしない細く寂しい道。
また日が沈んでいないのにも拘らず何故こんなにもここは薄暗いの?
ここは本当に私の知るルガートなの?
私はその場で佇みながらどうすればいいのか思案してしまう。
このまま進むべきかそれとも戻る……その戻る道がわからな――――っ!?
「よぉねえちゃん、あんたこんな所で何してんだぁ?」
覚束ない足取りで、それでもしっかりと私の方へと向かってくる。
「へへ、こりゃあまぁとんだ別嬪さんじゃねぇか。こんな上玉なんざ早々お目に掛かれるもんじゃねぇ。まぁこれも何かも縁さ。こんなトコへ態態やってきたんだ。俺があっちで善がり狂うまで可愛がってやるよ」
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