58 / 122
第三章 過去2年前
4 死闘
しおりを挟む程なくして東の方角より夕闇に紛れて奴らが追いついてきた。
ラファエルとチャーリーは剣を鞘より抜きとり臨戦態勢へと入る。
「エルは王様なので二人くらいでいいですよ。後の残りは私が引き受けますので……」
「いや反対だろう?それに俺の方が剣の腕は上だからな」
「またそんな無茶ばかり仰る。少しは周りにいる我々の事も考えて下さいよ」
「そうか。俺はお前達も楽しんでいると思っていたのだがな?」
そう言ってラファエルは喉をくつくつと鳴らし三日月の様な笑みを湛えた。
その様子にチャーリーはやれやれと言った具合で両肩を軽く竦める。
「来るぞ!!」
「了解です」
カキィィィィン!!
ガン!!
「うっ!?」
一見にして旅人風……だが、カーキーグリーン色の外套を目深に被りその上この夕闇である。
外灯何てない場所故に当然視界はウロである。
しかしラファエルより放たれし光魔法によって周囲は昼間の様に明るい。
兇者五人の顔の細部まではわからないが、いやわかった所で既に身元は抹消されている。
闇の世界で生きる者達とは明るい表の世界で自らを証明するもの等何一つ存在しない。
今彼らの事で判明しているとすればだ。
五人中三人は男で残る二人が女。
とは言え性別がわかった所でそれぞれ五人の力量に然程違いはないらしい。
おまけに彼らの身体能力は思っていた以上に高く上で戦うのを不利だと判断したラファエル達は、繰り出される攻撃を交わしつつ軽やかに馬より降りて地上での攻撃へと転じる。
「雷獣トニテュルスよ我が剣に纏え」
チャーリーは一瞬の隙を作り自身が握る剣へ魔唱を行う。
彼がその言葉を唱え終わると握っていた剣の刀身は雷そのモノの様に眩しく神々しいまでに光を放っていた。
兇者達は一瞬その閃光に怯むがチャーリーは迷わず雷光を纏う剣を兇者へ向かって振り下ろす。
ババババババババババババババババババババババババっっ!!
叩きつける様な轟音と共に軽く10mは地面がぱっくりと裂けていた。
兇者とチャーリーの間合いは2~3mくらい離れていたとはいえ、その衝撃に一人は気を失……いや感電している。
「もう少し力を押さえろ。少し離れているとはいえ王都は近い」
「それは言い過ぎでしょう。これでも十分加減はしたのですから……」
咎めるラファエルの言葉にチャーリーは冷静に手加減したと言い切る。
そしてラファエルもまた自らの剣へ魔唱を唱える。
「凍れる女神スティーリアよ我が剣にその力を纏え」
ラファエルも相手の攻撃を交わしつつ、青白くも鈍い光を放つ剣を兇者へ向けて振り下ろす。
するとその剣からは凄まじいスピードで直径約20㎝の、長さは約1m弱の氷柱が彼の周囲を囲むように出現すればだ。
四人の兇者達へ襲い掛る様に降り注ぐ。
「ぐふぁっ!?」
「がひっ!!」
「ぐあぁぁっ!?」
降り注がれた氷柱は容赦なく兇者達の身体を次々と貫いていく。
そうして瞬く間に残っていた兇者全てが地面に転がっている。
おまけに周囲は氷柱で貫かれた兇者達の血の海と化していた。
「あーあ誰かさん言ってませんでした。力を押さえろって……。この皆殺し状態ではどちらにその言葉が相応しかったのでしょうね?」
「――――無論私だろう。これでもほんの少ししか力を出してはいない。それに皆殺しではないからな」
あれをみろ……とややバツが悪そうにラファエルはチャーリーへと声を掛ける。
「あぁ確かに……」
確かに皆殺しではないなという証拠に一人だけ瀕死状態だが兇者は生きていた。
だが流石に無傷ではない。
腹と足に氷柱を貫通させてはいたのだが……。
ラファエルはゆっくりと瀕死の兇者の元へと近づいた。
息の根を止める為だったのか、或いは無駄だと理解しながらも今回の一件で得られただろう解決への糸口になるのか……。
「エル、陛下、後始末は私がしますよ。貴方は何時も必要以上現場に首を突っ込み過ぎです。少しは統治者としての自覚が――――っ!?」
兇者の元へ近づくラファエルをやんわりと制止しようとするチャーリーの声が早かったのか?
「おい、お前は――――あ、マ、リ……っ!?」
それともラファエルの身体が一瞬自身の放ったであろう氷柱の様に硬く固まってしまったのはわからない。
ずぶり……。
「エルっっ!!」
チャーリーは何時ものポーカーフェイスを投げ捨てればだ。
ラファエルの名を叫びながら彼の元へ駆け寄っていく。
ラファエルは身体を揺らしながらも目の前にいる女の兇者の胸に剣を突き立てた。
紫の瞳をした兇者は苦しげな表情をしているも、一瞬弧を描いた艶やかな笑みを浮かべるとそのまま息絶えていく。
「まさ……か、また、同じ過ちを、犯すとは……な」
そう呟きながらも自嘲めいた笑みを浮かべ、ラファエルはゆっくりと体勢を崩していく。
目の前で息絶えた兇者の最後の足掻きが、胸に潜ませていただろう暗器を用いてラファエルの肩に突き立てたのだ。
またそれは思ったより深く刺さっているのかそれとも暗器に毒を染み込ませていたのだろうか。
ラファエルは顔を歪ませ粒上の脂汗を大量に滲ませながらも激痛に耐えていた。
「エル、陛下っ、大丈夫ですか!!」
「あぁ、今の……ところはな」
肩の傷からの出血が酷い。
だが今直ぐ暗器を抜く訳にはいかない。
医師の下で抜かなければ、万が一心臓に近い動脈を傷つけでもしたらそれこそラファエルは一貫の終わりだ。
しかしここから王宮までは早くとも一時間は掛るだろう。
その間ラファエルの身体が耐えられるのかが問題である。
「っう、落ち着け。ここからならマックスが……今、ならあの場所にいる可能性がある。そこまで連れて行ってくれ。出来るだけ穏便に……な。くっ、可能な、限り俺が負傷した……事をっ、シャロン側は元より……うっ!?」
「余りお話しにならないで下さい陛下。皆まで申さずとも十分心掛けていますよ。兎に角マックスの元へ急ぎましょう」
チャーリーは囁く様にラファエルへ声を掛けてから彼を馬に乗せ自らもその後ろに跨る。
そうしてもう一頭の馬の手綱を握り一路王都へと、マックスがいるだろう診療所へ逸る気持ちを抑えつつ彼は出来るだけ平静を保ちながら馬二頭を含め転移した。
0
お気に入りに追加
245
あなたにおすすめの小説
エルネスティーネ ~時空を超える乙女
Hinaki
ファンタジー
16歳のエルネスティーネは婚約者の屋敷の前にいた。
いや、それ以前の記憶が酷く曖昧で、覚えているのは扉の前。
その日彼女は婚約者からの初めての呼び出しにより訪ねれば、婚約者の私室の奥の部屋より漏れ聞こえる不審な音と声。
無垢なエルネスティーネは婚約者の浮気を初めて知ってしまう。
浮気相手との行為を見てショックを受けるエルネスティーネ。
一晩考え抜いた出した彼女の答えは愛する者の前で死を選ぶ事。
花嫁衣装に身を包み、最高の笑顔を彼に贈ったと同時にバルコニーより身を投げた。
死んだ――――と思ったのだが目覚めて見れば身体は7歳のエルネスティーネのものだった。
アレは夢、それとも現実?
夢にしては余りにも生々しく、現実にしては何処かふわふわとした感じのする体験。
混乱したままのエルネスティーネに考える時間は与えて貰えないままに7歳の時間は動き出した。
これは時間の巻き戻り、それとも別の何かなのだろうか。
エルネスティーネは動く。
とりあえずは悲しい恋を回避する為に。
また新しい自分を見つける為に……。
『さようなら、どうぞお幸せに……』の改稿版です。
出来る限り分かり易くエルの世界を知って頂きたい為に執筆しました。
最終話は『さようなら……』と同じ時期に更新したいと思います。
そして設定はやはりゆるふわです。
どうぞ宜しくお願いします。
始まりは最悪でも幸せとは出会えるものです
夢々(むむ)
ファンタジー
今世の家庭環境が最低最悪な前世の記憶持ちの少女ラフィリア。5歳になりこのままでは両親に売られ奴隷人生まっしぐらになってしまうっっ...との思いから必死で逃げた先で魔法使いのおじいさんに出会い、ほのぼのスローライフを手に入れる............予定☆(初投稿・ノープロット・気まぐれ更新です(*´ω`*))※思いつくままに書いているので途中書き直すこともあるかもしれません(;^ω^)
旦那様、どうやら御子がお出来になられたようですのね ~アラフォー妻はヤンデレ夫から逃げられない⁉
Hinaki
ファンタジー
「初めまして、私あなたの旦那様の子供を身籠りました」
華奢で可憐な若い女性が共もつけずに一人で訪れた。
彼女の名はサブリーナ。
エアルドレッド帝国四公の一角でもある由緒正しいプレイステッド公爵夫人ヴィヴィアンは余りの事に瞠目してしまうのと同時に彼女の心の奥底で何時かは……と覚悟をしていたのだ。
そうヴィヴィアンの愛する夫は艶やかな漆黒の髪に皇族だけが持つ緋色の瞳をした帝国内でも上位に入るイケメンである。
然もである。
公爵は28歳で青年と大人の色香を併せ持つ何とも微妙なお年頃。
一方妻のヴィヴィアンは取り立てて美人でもなく寧ろ家庭的でぽっちゃりさんな12歳年上の姉さん女房。
趣味は社交ではなく高位貴族にはあるまじき的なお料理だったりする。
そして十人が十人共に声を大にして言うだろう。
「まだまだ若き公爵に相応しいのは結婚をして早五年ともなるのに子も授からぬ年増な妻よりも、若くて可憐で華奢な、何より公爵の子を身籠っているサブリーナこそが相応しい」と。
ある夜遅くに帰ってきた夫の――――と言うよりも最近の夫婦だからこそわかる彼を纏う空気の変化と首筋にある赤の刻印に気づいた妻は、暫くして決意の上行動を起こすのだった。
拗らせ妻と+ヤンデレストーカー気質の夫とのあるお話です。
【完結】やり直しの人形姫、二度目は自由に生きていいですか?
綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
「俺の愛する女性を虐げたお前に、生きる道などない! 死んで贖え」
これが婚約者にもらった最後の言葉でした。
ジュベール国王太子アンドリューの婚約者、フォンテーヌ公爵令嬢コンスタンティナは冤罪で首を刎ねられた。
国王夫妻が知らぬ場で行われた断罪、王太子の浮気、公爵令嬢にかけられた冤罪。すべてが白日の元に晒されたとき、人々の祈りは女神に届いた。
やり直し――与えられた機会を最大限に活かすため、それぞれが独自に動き出す。
この場にいた王侯貴族すべてが記憶を持ったまま、時間を逆行した。人々はどんな未来を望むのか。互いの思惑と利害が入り混じる混沌の中、人形姫は幸せを掴む。
※ハッピーエンド確定
※多少、残酷なシーンがあります
2022/10/01 FUNGUILD、Webtoon原作シナリオ大賞、二次選考通過
2022/07/29 FUNGUILD、Webtoon原作シナリオ大賞、一次選考通過
2021/07/07 アルファポリス、HOT3位
2021/10/11 エブリスタ、ファンタジートレンド1位
2021/10/11 小説家になろう、ハイファンタジー日間28位
【表紙イラスト】伊藤知実さま(coconala.com/users/2630676)
【完結】2021/10/10
【同時掲載】小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ
公爵家の半端者~悪役令嬢なんてやるよりも、隣国で冒険する方がいい~
石動なつめ
ファンタジー
半端者の公爵令嬢ベリル・ミスリルハンドは、王立学院の休日を利用して隣国のダンジョンに潜ったりと冒険者生活を満喫していた。
しかしある日、王様から『悪役令嬢役』を押し付けられる。何でも王妃様が最近悪役令嬢を主人公とした小説にはまっているのだとか。
冗談ではないと断りたいが権力には逆らえず、残念な演技力と棒読みで悪役令嬢役をこなしていく。
自分からは率先して何もする気はないベリルだったが、その『役』のせいでだんだんとおかしな状況になっていき……。
※小説家になろうにも掲載しています。
虐げられた令嬢、ペネロペの場合
キムラましゅろう
ファンタジー
ペネロペは世に言う虐げられた令嬢だ。
幼い頃に母を亡くし、突然やってきた継母とその後生まれた異母妹にこき使われる毎日。
父は無関心。洋服は使用人と同じくお仕着せしか持っていない。
まぁ元々婚約者はいないから異母妹に横取りされる事はないけれど。
可哀想なペネロペ。でもきっといつか、彼女にもここから救い出してくれる運命の王子様が……なんて現れるわけないし、現れなくてもいいとペネロペは思っていた。何故なら彼女はちっとも困っていなかったから。
1話完結のショートショートです。
虐げられた令嬢達も裏でちゃっかり仕返しをしていて欲しい……
という願望から生まれたお話です。
ゆるゆる設定なのでゆるゆるとお読みいただければ幸いです。
R15は念のため。
【完結】婚約破棄されて修道院へ送られたので、今後は自分のために頑張ります!
猫石
ファンタジー
「ミズリーシャ・ザナスリー。 公爵の家門を盾に他者を蹂躙し、悪逆非道を尽くしたお前の所業! 決して許してはおけない! よって我がの名の元にお前にはここで婚約破棄を言い渡す! 今後は修道女としてその身を神を捧げ、生涯後悔しながら生きていくがいい!」
無実の罪を着せられた私は、その瞬間に前世の記憶を取り戻した。
色々と足りない王太子殿下と婚約破棄でき、その後の自由も確約されると踏んだ私は、意気揚々と王都のはずれにある小さな修道院へ向かったのだった。
注意⚠️このお話には、妊娠出産、新生児育児のお話がバリバリ出てきます。(訳ありもあります)お嫌いな方は自衛をお願いします!
2023/10/12 作者の気持ち的に、断罪部分を最後の番外にしました。
2023/10/31第16回ファンタジー小説大賞奨励賞頂きました。応援・投票ありがとうございました!
☆このお話は完全フィクションです、創作です、妄想の作り話です。現実世界と混同せず、あぁ、ファンタジーだもんな、と、念頭に置いてお読みください。
☆作者の趣味嗜好作品です。イラッとしたり、ムカッとしたりした時には、そっと別の素敵な作家さんの作品を検索してお読みください。(自己防衛大事!)
☆誤字脱字、誤変換が多いのは、作者のせいです。頑張って音読してチェックして!頑張ってますが、ごめんなさい、許してください。
★小説家になろう様でも公開しています。
【完結】捨てられた双子のセカンドライフ
mazecco
ファンタジー
【第14回ファンタジー小説大賞 奨励賞受賞作】
王家の血を引きながらも、不吉の象徴とされる双子に生まれてしまったアーサーとモニカ。
父王から疎まれ、幼くして森に捨てられた二人だったが、身体能力が高いアーサーと魔法に適性のあるモニカは、力を合わせて厳しい環境を生き延びる。
やがて成長した二人は森を出て街で生活することを決意。
これはしあわせな第二の人生を送りたいと夢見た双子の物語。
冒険あり商売あり。
さまざまなことに挑戦しながら双子が日常生活?を楽しみます。
(話の流れは基本まったりしてますが、内容がハードな時もあります)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる