上 下
42 / 122
第二章  過去から現代へ向かって ~過去二年半前

20  覚醒 Sideエヴァ&アナベル

しおりを挟む


「う……んっ」
「……ま、エヴァ様」

 んん……も、凄……く頭と身体が重、い。
 まるで私の身体とは思えない程に怠くて……しんどい。
 だけど遠くで呼んでいる声はきっと……アナベル。
 そうアナベルは出会った時より何時も、どんな時も変わらず私の事を一番に心配してくれる。

 ルガートへ来た時も彼女だけ。
 私が心より頼れるのは……。
 今も心配そうに呼んでくれているもの……ね。


「エヴァ様お気がつかれましたか?」
「ん、んん?ア……ナベル?」


 ゆっくりと少しずつ開かれていくエメラルドグリーンの瞳には、エヴァを心配そうに覗き込むアナベルの姿が映り込んでいた。
 エヴァは未だ状況を把握する事は出来ていない。
 何と言っても三日間薬で強制的に眠らされていた彼女の華奢な身体に見えない部分で相当負担を強いていたのだ。
 兎に角エヴァは現在全身の倦怠感は勿論、食事は眠らされている間は点滴が行われていたから大丈夫とは言い難い。

 当然喉はカラカラだしお腹も空いている。

 それと睡眠薬の後遺症か頭痛もあると訴える。
 目覚めたばかりのエヴァがたどたどしく、何とか今の状態を纏めればざっとこの程度である。

 だがエヴァ命のアナベルにしてみれば大事であるのは言うまでもない。


 あの似非藪えせやぶ医者め!!
 私の大切なエヴァ様にはただ少しお眠り頂くだけでお身体には何も害はないと言っていたと言うのにです。
 あのいとけない御身体は現在悲鳴をあげておられるではないか!!

 頭痛に倦怠感?
 これだけでもあの者は万死に値します。
 あぁそれにしても私の大切なエヴァ様をこの様な目に合わせたのは他でもないこの私なのです。

 どうぞ一日もお早くご快癒して下さいませ。
 そして仔細があるとは言えエヴァ様へ偽りを吐きくすっりを持ってしまった私へ罰をお与え下さい。


 自らの罪を反省?
 いや多少斜め上を突き抜けようとするアナベルは今己が心の中でマックスを最でも十回は首を絞めていた。
 だがそれはあくまでも心の中であり、その様な考えは1㎜たりとも主であるエヴァには決して見せない。
 あくまでもアナベルの心の奥底にある闇の中で……だ。

 そんな頼りになるアナベルの心の闇を一切知らないエヴァは、彼女に心配させまいと頭が痛むのを我慢しつつ出来るだけ笑顔に徹していた。
 その涙ぐましい努力が更にアナベルの心を鷲掴みにしているとはエヴァ自身全く気がついてはいない。
 おまけに目覚めて暫くするとエヴァは、今更ながら自分が今何処にいるのかが無性に気になってもいた。

 本当に今更である。

 まぁ目覚めて直ぐは薬の加減もあってはっきりしなかったのもあるが、エヴァ自身少し天然な所も理由の一つだろう。


「ねぇアナベル……ここは一体何処なのかしら?」
「は、はいそうで御座いますね」

「離宮でないのはわかるけれど私達確か……そう馬車に乗っ、て南のレクサー村へ向かっている筈?」


 さぁここが正念場です。
 気を引き締め質問されるエヴァ様へ納得の出来るいい訳をしなければいけません。

 疑惑を持たれない様に、そしてしっかりとエヴァ様ご自身ご納得の出来る様に!!

 そして何よりもエヴァ様に拒絶されない様にしなければいけないのです。
 いい事アナベル・ベイントン。
 自身の首を絞めるか否かはこれからに掛かっているのですからね。


 アナベルはゆっくりと深呼吸をする。
 そして下腹へ力を込めるとエヴァへ説明と言ういい訳を語り始めたのだった。

「エヴァ様、実はここはレクサー村ではなく王都にある私の職場を御存知でしょう?」

「え、えぇ……」

 アナベルは一言一言を慎重に言葉を選びゆっくりと話し始める。
 しかし今ここにいるのが乗合馬車の目的地であるレクサー村ではなく王都だと言う現実にエヴァ自身驚愕の色を隠せなかった。

「どう、して?何故王都にいる……の?アナベルの働いていた食堂って……」


 やはりエヴァ様は動揺されている。
 あぁでも何なのでしょう。
 逼迫した状況にも拘らずにです。
 この小動物の様にわらわらと落ち着きのないご様子が何とも堪らない!!
 感情の乏しかったお人形時代のエヴァ様も捨て難いけれどもです。
 今の私の一言に一つ一つ反応される御姿はもっといい!!

 
 何やら心の声が駄々洩れ状態のアナベル。
 エヴァの反応に悶絶寸前へと陥るも皮一枚で何とか耐え凌ぎ、アナベルは表情筋に喝を入れ、動揺するエヴァと反対に感情を完全に抑え込みつつ話を続けた。

「ここはその食堂の二階に併設されている宿屋の一室です」
「な、何故、どうして宿屋に私達がいる……あ!?」

 驚いたエヴァは急に上体を起こした為にで目の前が真っ暗になってしまった。
 一過性の眩暈を起こしたのだろう。
 ふらつき前傾姿勢となるエヴァへアナベルは慣れた様子で身体を支え、ゆっくりと寝台へそのまま横たえさせる。

「急にお起きになられてはいけませんよエヴァ様」
「……ごめんなさい。でも、でもどうしても納得がいかなくて」
「お気持ちは十分にお察しますが、今はエヴァ様のお身体を癒す方が最優先です」

「身体、を癒す……とは?」

 
 特に健康状態に問題はなかった筈。
 馬車へ乗るまで私は健康だった……でも今は少しの事で眩暈や頭痛に、そう言えば身体も何処となく気怠い。
 もしかして馬車に乗っている間に気分を悪くしたのかしら。
 でもそうであれば王都ではなく何処か最寄りの宿場町の宿屋なら理解も出来るのだけれど……。

 まさかアナベルが私に嘘を吐く何て事はないって、私は今なんて愚かな事を考えたの!?

 アナベルを少しでも疑うだなんて!!
 彼女だけ、そうアナベルだけが私にここまで尽くしてくれているの。

 私にはアナベルしかいないの。
 きっと体調が優れない為につい変な事を考えてしまったのだわ。
 ごめんなさいアナベル。
 少しとはいえあなたの信頼を疑ってしまう何て私私は何と愚かな人間なのだろう。


 はああぁぁぁきっとエヴァ様の事です。
 今頃色々後悔なされているに違いないですわ。

 ですが今は敢えてこの可愛らしく動揺なされている間にを擦り込まさせて頂かなくては!!

 誠に申し訳ありませんエヴァ様。
 ですがこのアナベルは貴女様のお傍を離れる訳にはいかないのです。
 全てが終わった時にはこの私目を如何様にも処分して頂いて結構です。
 ですのでエヴァ様、今はどうか騙されて下さいませ。


しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

いつか彼女を手に入れる日まで

月山 歩
恋愛
伯爵令嬢の私は、婚約者の邸に馬車で向かっている途中で、馬車が転倒する事故に遭い、治療院に運ばれる。医師に良くなったとしても、足を引きずるようになると言われてしまい、傷物になったからと、格下の私は一方的に婚約破棄される。私はこの先誰かと結婚できるのだろうか?

【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?

冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。 オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・ 「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」 「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」

不遇な王妃は国王の愛を望まない

ゆきむらさり
恋愛
稚拙ながらも投稿初日(11/21)から📝HOTランキングに入れて頂き、本当にありがとうございます🤗 今回初めてHOTランキングの5位(11/23)を頂き感無量です🥲 そうは言いつつも間違ってランキング入りしてしまった感が否めないのも確かです💦 それでも目に留めてくれた読者様には感謝致します✨ 〔あらすじ〕📝ある時、クラウン王国の国王カルロスの元に、自ら命を絶った王妃アリーヤの訃報が届く。王妃アリーヤを冷遇しておきながら嘆く国王カルロスに皆は不思議がる。なにせ国王カルロスは幼馴染の側妃ベリンダを寵愛し、政略結婚の為に他国アメジスト王国から輿入れした不遇の王女アリーヤには見向きもしない。はたから見れば哀れな王妃アリーヤだが、実は他に愛する人がいる王妃アリーヤにもその方が都合が良いとも。彼女が真に望むのは愛する人と共に居られる些細な幸せ。ある時、自国に囚われの身である愛する人の訃報を受け取る王妃アリーヤは絶望に駆られるも……。主人公の舞台は途中から変わります。 ※設定などは独自の世界観で、あくまでもご都合主義。断罪あり。ハピエン🩷

酒の席での戯言ですのよ。

ぽんぽこ狸
恋愛
 成人前の令嬢であるリディアは、婚約者であるオーウェンの部屋から聞こえてくる自分の悪口にただ耳を澄ませていた。  何度もやめてほしいと言っていて、両親にも訴えているのに彼らは総じて酒の席での戯言だから流せばいいと口にする。  そんな彼らに、リディアは成人を迎えた日の晩餐会で、仕返しをするのだった。

愛など初めからありませんが。

ましろ
恋愛
お金で売られるように嫁がされた。 お相手はバツイチ子持ちの伯爵32歳。 「君は子供の面倒だけ見てくれればいい」 「要するに貴方様は幸せ家族の演技をしろと仰るのですよね?ですが、子供達にその様な演技力はありますでしょうか?」 「……何を言っている?」 仕事一筋の鈍感不器用夫に嫁いだミッシェルの未来はいかに? ✻基本ゆるふわ設定。箸休め程度に楽しんでいただけると幸いです。

人質姫と忘れんぼ王子

雪野 結莉
恋愛
何故か、同じ親から生まれた姉妹のはずなのに、第二王女の私は冷遇され、第一王女のお姉様ばかりが可愛がられる。 やりたいことすらやらせてもらえず、諦めた人生を送っていたが、戦争に負けてお金の為に私は売られることとなった。 お姉様は悠々と今まで通りの生活を送るのに…。 初めて投稿します。 書きたいシーンがあり、そのために書き始めました。 初めての投稿のため、何度も改稿するかもしれませんが、どうぞよろしくお願いします。 小説家になろう様にも掲載しております。 読んでくださった方が、表紙を作ってくださいました。 新○文庫風に作ったそうです。 気に入っています(╹◡╹)

ハズレ嫁は最強の天才公爵様と再婚しました。

光子
恋愛
ーーー両親の愛情は、全て、可愛い妹の物だった。 昔から、私のモノは、妹が欲しがれば、全て妹のモノになった。お菓子も、玩具も、友人も、恋人も、何もかも。 逆らえば、頬を叩かれ、食事を取り上げられ、何日も部屋に閉じ込められる。 でも、私は不幸じゃなかった。 私には、幼馴染である、カインがいたから。同じ伯爵爵位を持つ、私の大好きな幼馴染、《カイン=マルクス》。彼だけは、いつも私の傍にいてくれた。 彼からのプロポーズを受けた時は、本当に嬉しかった。私を、あの家から救い出してくれたと思った。 私は貴方と結婚出来て、本当に幸せだったーーー 例え、私に子供が出来ず、義母からハズレ嫁と罵られようとも、義父から、マルクス伯爵家の事業全般を丸投げされようとも、私は、貴方さえいてくれれば、それで幸せだったのにーーー。 「《ルエル》お姉様、ごめんなさぁい。私、カイン様との子供を授かったんです」 「すまない、ルエル。君の事は愛しているんだ……でも、僕はマルクス伯爵家の跡取りとして、どうしても世継ぎが必要なんだ!だから、君と離婚し、僕の子供を宿してくれた《エレノア》と、再婚する!」 夫と妹から告げられたのは、地獄に叩き落とされるような、残酷な言葉だった。 カインも結局、私を裏切るのね。 エレノアは、結局、私から全てを奪うのね。 それなら、もういいわ。全部、要らない。 絶対に許さないわ。 私が味わった苦しみを、悲しみを、怒りを、全部返さないと気がすまないーー! 覚悟していてね? 私は、絶対に貴方達を許さないから。 「私、貴方と離婚出来て、幸せよ。 私、あんな男の子供を産まなくて、幸せよ。 ざまぁみろ」 不定期更新。 この世界は私の考えた世界の話です。設定ゆるゆるです。よろしくお願いします。

【完結】ふしだらな母親の娘は、私なのでしょうか?

イチモンジ・ルル
恋愛
奪われ続けた少女に届いた未知の熱が、すべてを変える―― 「ふしだら」と汚名を着せられた母。 その罪を背負わされ、虐げられてきた少女ノンナ。幼い頃から政略結婚に縛られ、美貌も才能も奪われ、父の愛すら失った彼女。だが、ある日奪われた魔法の力を取り戻し、信じられる仲間と共に立ち上がる。 歪められた世界で、隠された真実を暴き、奪われた人生を新たな未来に変えていく。 ――これは、過去の呪縛に立ち向かい、愛と希望を掴み、自らの手で未来を切り開く少女の戦いと成長の物語―― 旧タイトル ふしだらと言われた母親の娘は、実は私ではありません 他サイトにも投稿。

処理中です...