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第二章 過去から現代へ向かって ~過去二年半前
10 何故そこで王妃の名が出るの? Sideエヴァ
しおりを挟む結果は予想通り、そう一身上……ではマックスは納得しなかった。
意外とマックスしつこい?
「それは仕方ないでしょ。何と言っても君は今やこの診療所ではなくてはならない人となってしまったのだからね。先ず来週明けに僕は患者さん達から責められるからね。それに週明けのあの殺人的な忙しさを君は僕一人に全て押し付けてしまうのだよ。忙しい上に大好きなフィオの姿がなければきっといや、絶対に暴動が勃発する」
「そんな大袈裟な……」
「大袈裟ではないよ。ファン心理を甘く見てはいけない。なのに君は良いよね。そんな理由で僕達の前より逃げてしまうのだからね」
「……マックス」
確かにマックスの言う通り週明けの月曜日は何時も殺人級に忙しい。
二人いて何とか診療所を回しているのも事実。
行き成り退職するからと仕事を放り投げようとしているのは外の誰でもない私。
では何と言えばいい?
実はこの国の紙切れだけの忘れられた王妃で、何も国の事も知らない、また知らされてもいない存在価値すらない人質だと言えばいいの?
私と言う存在の所為で故国ライアーンはシャロンと手を組まざるを得なかった。
その結果ルガートと開戦されこの国は勝利は納めたけれどもシャロン連合軍によって失われた命、若しくは傷ついた兵士も多くいる筈。
どの場所を攻め込んだのかまでは私は知らされてはいない。
場所によってはルガートの国民にも戦禍を被ったのかもしれない。
考えれば本当にキリがない。
あの頃は幼過ぎて私は何も出来なかった。
でも今は違う。
私は自分の命以上に私に尽くしてくれたアナベルを護りたい!!
離宮にさえいれば穏やかに生きて行けると思ってもいたわ。
でも現実はまだこの国の者達の心の中に戦争への遺恨が根強く残っている事に気づかされてしまったの。
だからこの国にはもう留まる事は出来ない。
私はアナベルを護ると決めたのだから……。
「……実はし、親戚の叔母の具合が、あぁ病気ではないのですがもうかなり高齢で……ひ、一人暮らしも、も、問題ではないかとアナ、あの、姉と相談して向こうで一緒に暮らす事になったのです」
咄嗟に出た嘘。
真実を告げる事は出来ない。
でもそれではマックスは納得しない。
だから……とは言え中々に苦しいいい訳なのは自分でも自覚しているわ。
しかしこの嘘を吐き通すしか道はない。
「ふーん、で、何処まで行くの?」
マックスは綺麗な青い瞳を細めじーっと私を凝視している。
まるで尋問にでもあっているかと思うのはもしかしなくとも気の所為?
「え……と、ルガートとシャロンの国境近く、です」
幾ら嘘が苦手でも素直に南へ行く何て、そんなお馬鹿な回答は私でもしないわよ。
一介の街の医師に何が出来るという訳でもないけれど用心に越した事はない。
ただこれ以上の詰問はされたくはない。
ボロを出さない為にもここは早々に帰る必要があるわね。
私は何食わぬ様子……精一杯冷静を装いながら食事の後始末をし始める。
「僕はね、フィオが先日の捕りものの一件が理由ではないかと思っているんだ。うん、これは別に聞き流してくれても構わないよ」
「…………」
「この国は建国してまだ歴史の浅い国なんだ。でもねその分この百年もの間戦争の絶えない、実に血みどろの時代でもあるんだよ。シャロンより独立して以来実際の所敵はシャロンだけではなかったしね。このルガートを取り巻く大小様々な国々と何時も争いが絶えなかったし、この王都へも何度か敵が攻め込んできた事もある。当然他国からの間者も沢山侵入していたよ。まぁ厳密に言えば今現在も国内に潜んでる筈だよ。そんな中北方の隣国ライアーンだけはずっと中立を保っていたのに今から八年前、そのライアーンにも裏切られた……かな?」
「――――っっ⁉」
「今この国は漸く表面上だけれど戦争を終える事が出来たんだよ。それは今の陛下の力によるところが大きいと僕は思っている。だけど復興はまだ始まったばかり。そして復興はまだ何年掛るかもわからない。僕も含め先日の騎士達やこの国の人間は皆他国者に関して疑心暗鬼の目で見る者が多い。その点に関して僕は反省している。フィオに先日言われた事をね。君に何時も命の尊さを教えていたのは他の誰でもない僕なのに、その僕が一瞬とは言え自分を見失っていた事実が本当に情けないと思ったよ。だからもしだ。それが今回の理由ならばフィオには辞めて貰いたくはない。フィオの様な素晴らしい助手がいてくれないと僕はまた道を違えないとも限らない。それに――――陛下にとっても王妃様という存在はなくてはならないものだと思うんだよ」
えっ!?
今、何か言いませんでしたかマックス?
何故ここに王妃の話が出てくるの⁉
まさかバレてはいません……よね?
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