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第二章 過去から現代へ向かって ~過去二年半前
4 ハプニングと好奇心 Sideエヴァ
しおりを挟むまったりと年季の入ったお年寄り夫婦さながらに……っていやいや、そこは普通にダイニングで食後のお茶をマックスと楽しんていると何やら突然診療所の外が何やら騒がしい?
最初に異変を察知したのはマックス。
私はその物音が近づくまで何もわからなかったの。
でも近づくにつれ聞こえるのは複数の男性の怒鳴り声と金属と金属のぶつかり合う激しい金属音。
音と気配だけでもわかる何やら物騒で危険な感じ。
「一体何かしら。もしかして喧嘩でしょうか?私少し見てきま――――!?」
「いやフィオはここにいなさい。いいかい。僕が声を掛けるまで決して外を見ようと思ってはいけないよ」
外の様子を見に行こうと席を立ち掛ける私を賺さずマックスは制止した。
そして何時もよりやや低い声音で有無を言わさず『ここにいろ』と私に言い聞かせ、彼は声のする方へと真っ直ぐに向かった。
私はと言えば常とは違うマックスの態度に気圧される形でそのまま椅子に座ってしまう。
何時もは優しくてちょっとへらへらしているけれど、これはお仕事以外で知るマックスの新たな一面だったかもしれない。
とは言えです。
『ここにいろ』と言われ大人しくはいそうですかと事が終わるまで静かに待つ程私は深窓の姫君ではない。
確かに生まれは姫ですよ。
しかし今は姫ではない!!
また行くなと言われるとどうしても覗きたくなるのは抑えられない好奇心。
外では益々荒々しい怒声に金属と金属のぶつかり合う様な音、きっとあれは剣と剣のぶつかる音に違いないわ。
ならば今事件が、この診療所の前で勃発している!!
普通良い子は決して覗きに行こうとは思わない。
しかし生憎ながら私は少し変わり者なのかもしれない。
このワクワクドキドキとした高揚感を抑えられる訳がないわ。
そうと決まれば素早く席を立ち、マックスに見つからない様そっと診療所ではなく自宅側の玄関側へ回り込む。
私は深呼吸をし呼吸を整える。
そしてゆっくり扉を開ければ目の前にいたのは数人の騎士に取り押さえられている男の姿。
騎士達の中でも一番目を惹いたのは、日に焼けた褐色の肌と燃える様な紅い髪からの黒い瞳をした大柄で筋骨隆々な男性。
顔の作りも整ってはいるが何と言うのだろう。
その男性からは吃驚するくらいお酒の臭いがプンプンと漂ってきたの。
うぅ、臭い。
兎に角これでも騎士なのかと疑いたくなる程に昼間からこのお酒臭いのは本当に頂けない。
お酒の臭いに充てられかけた私は開けた扉を思わず閉めてしまおうと一歩後ずさろうとし――――!?
「フィオ、僕は君に何て言ったかな?」
あわわわ……大変⁉
目の前にいたのはお酒臭い騎士だけはなく数人の騎士達もいた。
然も騎士達の中にかなりご機嫌斜めなマックスがじろっと私を睨みつつも怪我人の処置を行っている。
私はマックスが二の句を告げる前に「お話しは後でですよね。中で処置の用意をしています」と告げて踵を返し診察室へと戻る。
そんな私にマックスはやれやれと言った具合に軽く両肩を竦めると、傍にいた騎士達に怪我人を中へ運ぶ様声を掛けた。
次々と運ばれてくる怪我人の状態を見て処置の準備を進めていく。
怪我は浅い切り傷や擦過傷が幾つかあり、傷口を洗い出血している所へガーゼを当てる。
先ず最初に一番の怪我人……つまり犯人さんね。
それもそうよね。
あんなガタイのいい筋骨隆々集団の様な騎士達を相手に無傷で済む筈はない。
私達は騎士達が護衛をする中で犯人さんへ治療を行っていく。
だがそこへ頭が痛くなるくらいの大きな声で怒鳴る奴がいたの。
「おい先生、そいつはどう見ても最後だろ!!先に俺の部下を診てやってくれ。コイツの為に怪我をしたんだ!!第一犯人を優先的に診るのは可笑しいだろう!!」
人の迷惑も顧みない騒がしい騎士の方を見ればだ。
何と先程のひと際人目を引いた紅い髪に黒い瞳をした大柄な筋骨隆々な男性だったの。
然も大きな声で怒鳴るだけでなく、お酒臭いのが診療所内にも漂わせるから少し気持ち悪い。
当然私は窓を開けたのは言うまでもない。
因みに彼も怪我人の中の一人だけれどね。
「そう言ってもねぇ、彼の方が怪我の度合いは一番酷いからね」
「酷いのは当たり前だ。こいつはウェイスティアの間者だからな!!こんな所で手当てをせずともこいつにはこれから取り調べという拷問が待っている。だから手当てをするだけ無駄というものさ。それに――――!?」
パチィィィィィィィン!!
それはそれは小気味よい程診療所内に響いたわ。
たった今し方まで喚いていた騎士は呆けた様に叩かれただろう右の頬へ自身の手を当て固まっている。
そして叩いたのは他の誰でもない私。
当然マックスや治療を受けていた犯人さんだけでなく数人の騎士達も本当に可笑しいの。
全員揃って鳩が豆鉄砲喰らったかの様にぽかんと口を開けたまま私を見ているのだもの。
私そんなに変な事をしたのかしらね。
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