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第二章 過去から現代へ向かって ~過去二年半前
3 噂の二人 Sideエヴァ
しおりを挟む外で働いてわかったもの。
それは人間とはつくづく噂が好きな生き物だって事。
然も男性よりも女性の方が恋愛関係等の噂が大好物らしい。
だがこの診療所では老若男女を問わず噂が大好物。
またこの噂が現時点私の悩みの種だったりする。
何を隠そう私とマックスの関係についてね!!
早いもので診療所へ勤めてもう一年が経ったわ。
最初の半年くらいまでは彼の事をマックス先生と呼んでいたのだけれど、もう最近ではお互い同じ職場で働く者だからと言う理由で彼を継承なしに名前呼びに変えたのが抑々事の発端だったのかもしれない。
「フィオそこの包帯出しておいてくれる?」
「包帯も今の処置に必要な物は全て用意出来ていますよマックス」
「うん流石は僕の大切な右腕だね」
「……そんな事を言っても何も出ませんよ」
とまぁこんな感じで何時もの様に軽口を言い合っているのはお互いを信頼しているからこそ。
阿吽の呼吸とでも言うのかしら。
最近では私も診療所の仕事に慣れてきたのでしょうね。
マックスが次にどの様な行動をするのか……と理解出来る様になってきたからこそ、準備や介助も行える様になったの。
ただそんな私達の様子を実際に目の前で見ているギャラリー、つまりは患者さんね。
彼らからすれば私達の会話や行動を見る限りどうやら仲の良い恋人、若しくは夫婦にしか見えないらしい。
私にすれば何処をどうすればその様な関係に見えるのかは――――謎。
それに私はこれでも紙切れ上とは言え立派な人妻らしいしね。
勿論生まれてから今この瞬間に置いて異性に対し特別な感情と言うものを抱いた事はないわ。
だから16歳にもなって恋とはどの様なものかもわからない。
以前患者さんより恋とはドキドキわくわくするものだと聞いた事はある。
そのどきどきワクワクが恋なのだろすれば、私は毎月月末に恋をしている事になるわね。
因みに月末のお給料日の夜にアナベルと一緒にお金が幾ら貯まったかを計算する時はもうドキドキ何てものではなく、ワクワクの余り背中に羽が生えればよ。
これから先の自由な未来へ向かって羽ばたいていく気持ちがそれなの。
え?
それは恋ではない?
それなら初めて菜園で育てたものが立派に成長して無事に収穫する時の瞬間もドキドキしたわ。
後掃除や洗濯も失敗なく出来た時も嬉しくってドキドキしたわね。
あぁパンが失敗せずに美味しそうにふっくらと焼けた時もドキドキ……。
何れにせよ異性が絡んでこない時点で全て恋ではないのかもしれない。
「せんせー、もうそろそろ身を固める年齢だろう?あぁその~何だねぇ、わしらが言うのも何だがね。先生とフィオちゃんは何と言うかいやぁお似合いだと思うんだがなぁ……」
「あぁフィオですか?確かに良い娘ですよね。仕事も出来て家事もこなせておまけに料理も美味しいしね」
「だろ。先生が気に入ってるんならわしらでフィオちゃんを説得してやるからよ。先生にはこれまで十分世話になっとるからな。きっちりと結婚まで話を付けてやるよ」
「う~ん確かにフィオは僕の大切なパートナーですよ。でも僕自身まだまだ身を固める心算はないんですよね。さ、出来ましたよ。次回来られる時は採血をしましょうね。フィオ~次の患者さん宜しく」
「はい、ではお大事にして下さいねデイルズさん。お酒は飲み過ぎちゃダメですよ」
「……あぁ有難うフィオちゃん」
とまぁこんな感じで今日も朝からずっとこんなやり取りを私とマックスは患者さんから受けている。
最近気が付けばこの話題が本当に多い。
一体何の公開処刑なのかと思ってしまうのだけれど患者さん達に悪意がないのはわかるわよ。
でもこれはこれで精神的に……辛い。
別にマックスが嫌いではないのよ。
寧ろ彼には感謝をしているくらい。
それにしてもマックスはデイルズさん達から突かれ、私は最寄りの女性陣がね。
それぞれ何処の何が気に入らないのかと詰め寄ってくるものだからこちらとしては居た堪れない。
でもスティアおばさんだけは何も言わず普通にその場の雰囲気を楽しんでいる様にも見えるのよね。
抑々『恋』と言うものがわからない私にどうしろと言うのかしら。
わからない者に答えを求めるのもどうかと思うのだけれど……。
しかしそんな噂を立てられている最中に月末のお給料日にマックスはやらかしましたよ。
私達にしてみれば恒例行事でも、周囲からすればそれは全く違う意味にとられるって事をね。
恒例行事のケーキとお花は退屈なギャラリーを十分に楽しませる事となったのは言うまでもない。
「いや~困ったものだね~」
「いやいやマックス、貴方全く困ったお顔をしていませんよ」
「そうかな。僕は兎も角フィオは相当困っているでしょ?」
「えぇいえ、マックス個人に対して好意を抱いてはいますがでもそれはお兄様の様な感じなのですもの」
それに私は既婚者だから余計にマックスに悪いもの。
「そうだね。僕もフィオみたいな妹がいたらきっと毎日楽しいだろうね」
「ふふ、マックス目当ての患者さんが聞けばきっと皆さん即貴方の妹になるって志願してきそうですね」
「あ〰〰〰〰それだけはちょっと困るかな」
「では妹として皆さんには内緒にしてあげますね」
「助かるよ。それでなくとも少々困っているからね」
何に困っているのかはわからないけれど、私達は家族みたいな穏やかな関係なの。
だから私はマックスへドキドキと言う感情を抱いてはいない。
こうして診察が終わり昼食後のほっこりとしたお茶の時間を二人でまったりと過ごすのは、アナベルや故国の両親と同じ温かい感情。
きっとマックスもそうなのでしょう。
しかしこの20分後私達の穏やかな時間に思わぬ邪魔が入ったわ。
まさしく珍客到来と言う奴がね。
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