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第一章 過去から現在へ向かって ~十年前より三年前
17 サプライズ Sideエヴァ
しおりを挟む「あっ、フィオこれなのだけれどね」
先生は一通の封筒を私へ差し出したわ。
手紙?
私は手紙を受け取る相手がいないのにと思いつつ彼よりそれを受け取るとそのままスッとエプロンのポケットへとしまう。
その瞬間まるでスローモーションの様に干乾びた植物の様にしゅんと萎れていく先生。
彼の意味不明な行動に皆目見当のつかない私は苛々ゲージが静かに上昇していく。
私は敢えて気にしない素振りで食事を始めればだ。
最後には声まで萎らせて泣きついてきたのである。
「フィオ〰〰〰〰酷い。これは余りにも酷いし塩対応過ぎるよ!!」
先生はそう言ってギャン泣き……大人の男性でもギャン泣きするのだと初めて思ったのは内緒にしよう。
これ以上拗れるのはもう勘弁だものね。
とは言え私には何がどう塩対応なのか全くわからない。
改めて思うけれど先生、ちゃんと物事ははっきり言わないと相手には伝わらないのですよ。
「はぁ一体何が酷いのですか?お手紙はちゃんと受け取りましたし……ってあ、もしかして急ぎのお手紙でしたか?そうであればそうだと仰って下さればいいのに、わかりましたでは直ぐに読みますね」
「そ、その急ぎとかそう言うのではないのだけどね。うん読んでくれると嬉しいよ」
全く、急に凹んだと思えば速攻で復活したりと、もしかしなくても普段は見せないけれど先生は起伏の激しい性格なのかしら。
兎に角ポケットへしまった封筒を取り出し一枚のメッセージカードを手に取りを読み始め――――!?
『フィオ就職して一ヶ月、慣れない仕事なのに何時も頑張ってくれてありがとう。
お陰で診療所だけでなく僕の部屋も毎日過ごしやすいし、患者さんからも大好評だよ。
それから毎日美味しいお料理も有難う。
これからも一緒に頑張ろうね。
そしてこれはささやかながらだけれど今月のお給料です。
マックス』
封筒の中には素敵なカード以外に10000ルトが6枚と5000ルトが1枚入っていた。
えーっと、えーっと、もしかしてこれは……!?
持っている封筒が小刻みに震えてしまう。
ううん、封筒ではなく私の手が震えている。
そんな私を見て先生はあのにまにま笑顔から満面の笑みへと変わっていく。
「初めてのお給料日だよフィオ。何時も有難う。君が来てくれてから本当に僕は助かっているんだ」
「先……せ、い」
「それとこれね。さっき急いで買いに行ったのだけれど持って帰って……あ、アナベルと一緒に食べるといいよ。それからこれね」
そう言って渡してくれたのは先程よりテーブルの上にあった白い箱。
先生がそっと優しく箱を開ければ何と中にはケーキ⁉
然もこのスタンプの押されているお店と言えば王都でも一番美味しいお店だって患者さん達が言っていた所よね?
私も密かに憧れてはいたけれども贅沢は敵だと思いずっとケーキへの想いを封印していたのに……。
ケーキの次に可愛らしいピンク色の薔薇の花束を頂いてしまった。
でもどうしてお給料日にケーキと薔薇?
アナベルの食堂ではこんな事なかったのに……。
良くてお持ち帰りのお料理がちょっといいお肉の煮込みとかだった筈。
「初めて働いた記念日だからだよ。僕の診療所はお給料には月末だから覚えておいてね。それに可愛い女の子が一生懸命働いてくれるのだから頑張った時はこうしてご褒美にケーキとかって、普通女の子はケーキとお花は好きでしょ?」
「まぁ嫌い……ではないです。ただこんなサプライズみたいな事は本当に久しぶりで、少し恥ずかしいですね。でもとても嬉しいです。有難う御座います先生」
「うんうんやっぱりフィオは女の子だね。お花がとても似合っているよ」
「そうですか?あ、でもこの瞬間までお花とかケーキの存在なんて忘れていましたよ」
こんな贅沢なモノを愛でるよりも二人で一生懸命生き抜く事を最優先としてきたもの。
「そう……か」
私は一瞬彼の苦しげな表情で小さく返事をした事に気付かなかった。
それ程に目の前にあるケーキと花束は、お久しぶり過ぎて少しだけ荒んでいた私の心を癒してくれていたの。
「でも先生これはこれで物凄く嬉しいのですが、朝からのあのにまにまとした笑いは本当にキモいので止めて下さいね」
「きっ、キモい……⁉」
だってこれから毎月給料日の日になるとあの表情を見せられるのはちょっと気持ち悪いものね。
ここは早めに注意した方が良いと思い私は素直に先生へ伝えたのだけれどだ。
少し……いや、かなりその言葉を聞いた彼は衝撃を受けている。
もしかしてストレート過ぎたのかしら?
「もう先生ってばそんな露骨に落ち込まないで下さい」
「で、でもフィオが僕の事キモいって……」
「あぁもう何時もの先生はスーパーDrで素敵ですよ。ただ今日だけですってば」
「そんなに今日……キモかったの⁉」
はいそうですよって声を大にして言いたいけれどもよ。
今日は初のお給料日で、おまけにケーキにお花も頂いたのだからここでそんな事は言えない……わ。
私は軽く咳払いをし彼に食事が冷めるからと言って無理やり昼食へともっていく。
はぁお仕事の時は優男風だけれどもキリっとしていて素敵なお医者様なのだけれどもね。
その反面私生活では何となく甘えん坊と言うのか打たれ弱い?
年上の男性に対してアレだけれど、気づけば私は先生ののお母さん若しくはお姉さんポジ的な一なのかしら。
少し頼りないけれど先生って実は30歳の大人なのよね。
なのでもう少ししっかりして下さいね30歳。
でなければ何時まで経ってもお嫁さんは来てくれないですよ。
思わぬサプライズと楽しい昼食お終えた私は食事の片付けと夕食のセッティングを済ませれば先生から頂いたケーキに花束、そう忘れてはいけない一番大切なお給料さまを大切に鞄へしまって持って帰宅した。
人生初めてのお給料日はきっと生涯忘れられない日となったのは言うまでもない。
先生はただお金だけでなく、私の心もしっかりと満たしてくれたのだから……。
そしてこの花束とケーキは何故かそれ以降お給料日の恒例行事となる。
この恒例行事について一番誰が楽しみにしているかですって?
勿論それは私……だけれど甘い物が大好きなアナベルよ。
本人は絶対に認めないけれども頬を染め、美味しそうにケーキを食べる彼女の顔が物語っているのよね。
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