上 下
18 / 122
第一章  過去から現在へ向かって ~十年前より三年前

13  大発見 Sideエヴァ

しおりを挟む

 マックス先生がお茶を淹れるからちょっと待っていて……と言われたわ。
 でも今までお産にかかりきりで疲れている先生にお茶を淹れて貰うのは何となく気が引けたのよね。
 だから場所さえ教えて貰えれば私が淹れますからと申し出て案内された台所を見た瞬間――――。

 OMGオーマイガー

 信じられなかったと言うよりも寧ろ見たくはなかった!!

 案内された台所は足の踏み場らしい場所は多少ある。
 しかし流し台には無数の然もかピカピに汚れが乾燥しこびり付いているだろう食器だけではない。
 何だろう何処からか、場所の特定は出来ないけれども異臭が漂っている。
 おまけに台所内ではえがブンブン物凄く生き生きと飛んでいるし、よく見ればそれは何も台所だけではない。

 普通に今までいただろう診療所も埃だらけだった!?

 よくもこんな汚い場所に住んでいられるものだと思ったわ。
 然もこのゴミ溜めの中にある何れかのカップで私へとお茶を淹れて出す心算だったのかと察すれば、その不衛生さの余りに身体がぷるりと震えてしまう。

 兎に角よ!!
 こうしていても何も進まない。
 私は素早く腕を捲ればそのまま何も言わず粛々と台所の掃除を始めたわ。

 当然マックス先生は止めたの……だけど!!


「この様な非常に人外レベルの不衛生な所でお茶を出されたくはありませんわ。なので先生はその間で休憩でもしていて下さい」

 言うだけ言って私は一心不乱に掃除へ専念したわ。
 離宮へ連れて行かれた時も余りの汚さに驚いたけれども、この診療所とは比べられないくらいにまだ綺麗だったのね。

 掃除をし始め少し経った頃かしら。
 冷静さを取り戻し掃除をしながら考えると、行き成り初対面の小娘に家の中を掃除されるってのも十分あり得ない事だわ。

 それに一応淑女致しましてもこんな強引な方法は少しはしたないと反省をするけれどもそれはもう後の祭り。

 何も気づかなかって体でごみを集め床を掃き、手際よくモップで拭き掃除をする。
 机の上や棚も拭き掃除をしてから汚れ物を洗っていく。
 当然窓も開けて蠅さん何処かへ飛んで行け~。
 約二時間経過した頃心配そうに覗きに来たマックス先生は直立不動になっていた。

「まるで他所の家の台所みたいだね」
「いえいえここはお間違いなくマックス先生のお台所ですよ。さぁお茶を淹れましたわ」

 ぴかぴかになった台所でお茶を淹れ先生にお出ししたの。
 先生は何だか少し落ち着かない様子だったけれど、それでも私が淹れたお茶を『美味しい』と喜んでくれたわ。
 それから暫くの間私達は雑談を交えて色々話し合ったの。


 どうやらマックス先生は独身貴族街道爆走中。
 なんでも先の戦……そんなの何時あったのかは知らないわ。
 まぁ私が知らないだけで先生は軍医として従軍していたらしい。

 現在は束の間の平和が訪れたので王都にて新しく診療所を開く事になったのだけれど、これが中々一人だと上手く回らないのが問題とか。
 家事や診療のお手伝いをする人がいないか探しているのだけれど、思っていた以上にこれと思う人には巡り合わなくて困っているのですって。

 一方私は現在お仕事絶賛お探し中だけれどアナベルの条件が厳しくて、これまた中々お仕事が決まらない。
 とは言え何時までも時間を無駄には出来ないし、後三年すれば予定ではこの国より出て行くのだもの。
 だから時間の許す限りは働きたい。

「だったら簡単だよ。どうか僕の仕事を手伝ってはくれないだろうか」
「はい?」
「僕の所だったら君の(アナベルの事ね)の条件に合うと思うよ。ここでは家事をして貰って残り時間は診療の受け付けや僕の手伝いをして貰えると凄く助かる。あぁ勿論時間もちゃんと条件通りでいいからね。若いお嬢さんを遅くまで働かせるなんて鬼畜な事はしないから。それから給金は毎月65000ルトでどうかな?」


 ゴクン――――。

 65000……ルトですって⁉
 家の掃除に受付と診療の手伝いで……た、確かアナベルのお給料は多くても50000ルトだった筈。
 これはもしかしなくとも物凄く破格なお仕事ではなくって。
 私の出来る事でこんなにお給料が頂けるなんて、これを断ればこんなに言い条件の職場はもう次は見つからないわ。


「本当に私でいいのですか?実は私、働くのは初めてなのです。それにまだ15歳なので……」
「15歳ならこの国では立派な大人だよ。それに君はさっきのお産も僕の指示通りにちゃんと動いてくれたじゃないか。家事も問題なさそうだしね。僕の方こそ是非とも君に働いて貰いたいんだ。え……っと名前は?」

 名前……そう実名はいけない。
 バレる可能性がないとは言い切れないもの。
 だけどいきなり聞かれてもって私の名前、名前はエヴァンジェリン・シャーリーン・フィオナ・オブライアンとは絶対言えないから、もっと短くて呼びやすい……フィオナ、フィオ。

 そうフィオなら万が一にもバレる事はない。

「私の事はと呼んで下さい」

 私はマックス先生に笑顔で偽りの名を告げる。
 マックス先生は素直に『フィオって可愛い名前だね』と言ってくれた。

 最初の出勤日は明後日の金曜日。
 私はお茶の後片付けをしマックス先生にこれから宜しくお願いしますと挨拶をして帰路へと着いた。
 かくしてハプニングが転じて私は漸く就職先を見つけたのである。

 ※1ルトは1円です。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】淑女の顔も二度目まで

凛蓮月
恋愛
 カリバー公爵夫人リリミアが、執務室のバルコニーから身投げした。  彼女の夫マクルドは公爵邸の離れに愛人メイを囲い、彼には婚前からの子どもであるエクスもいた。  リリミアの友人は彼女を責め、夫の親は婚前子を庇った。  娘のマキナも異母兄を慕い、リリミアは孤立し、ーーとある事件から耐え切れなくなったリリミアは身投げした。  マクルドはリリミアを愛していた。  だから、友人の手を借りて時を戻す事にした。  再びリリミアと幸せになるために。 【ホットランキング上位ありがとうございます(゚Д゚;≡;゚Д゚)  恐縮しておりますm(_ _)m】 ※最終的なタグを追加しました。 ※作品傾向はダーク、シリアスです。 ※読者様それぞれの受け取り方により変わるので「ざまぁ」タグは付けていません。 ※作者比で一回目の人生は胸糞展開、矛盾行動してます。自分で書きながら鼻息荒くしてます。すみません。皆様は落ち着いてお読み下さい。 ※甘い恋愛成分は薄めです。 ※時戻りをしても、そんなにほいほいと上手く行くかな? というお話です。 ※作者の脳内異世界のお話です。 ※他サイト様でも公開しています。

誰からも愛されない悪役令嬢に転生したので、自由気ままに生きていきたいと思います。

木山楽斗
恋愛
乙女ゲームの悪役令嬢であるエルファリナに転生した私は、彼女のその境遇に対して深い悲しみを覚えていた。 彼女は、家族からも婚約者からも愛されていない。それどころか、その存在を疎まれているのだ。 こんな環境なら歪んでも仕方ない。そう思う程に、彼女の境遇は悲惨だったのである。 だが、彼女のように歪んでしまえば、ゲームと同じように罪を暴かれて牢屋に行くだけだ。 そのため、私は心を強く持つしかなかった。悲惨な結末を迎えないためにも、どんなに不当な扱いをされても、耐え抜くしかなかったのである。 そんな私に、解放される日がやって来た。 それは、ゲームの始まりである魔法学園入学の日だ。 全寮制の学園には、歪な家族は存在しない。 私は、自由を得たのである。 その自由を謳歌しながら、私は思っていた。 悲惨な境遇から必ず抜け出し、自由気ままに生きるのだと。

転生王女は異世界でも美味しい生活がしたい!~モブですがヒロインを排除します~

ちゃんこ
ファンタジー
乙女ゲームの世界に転生した⁉ 攻略対象である3人の王子は私の兄さまたちだ。 私は……名前も出てこないモブ王女だけど、兄さまたちを誑かすヒロインが嫌いなので色々回避したいと思います。 美味しいものをモグモグしながら(重要)兄さまたちも、お国の平和も、きっちりお守り致します。守ってみせます、守りたい、守れたらいいな。え~と……ひとりじゃ何もできない! 助けてMyファミリー、私の知識を形にして~! 【1章】飯テロ/スイーツテロ・局地戦争・飢饉回避 【2章】王国発展・vs.ヒロイン 【予定】全面戦争回避、婚約破棄、陰謀?、養い子の子育て、恋愛、ざまぁ、などなど。 ※〈私〉=〈わたし〉と読んで頂きたいと存じます。 ※恋愛相手とはまだ出会っていません(年の差) ブログ https://tenseioujo.blogspot.com/ Pinterest https://www.pinterest.jp/chankoroom/ ※作中のイラストは画像生成AIで作成したものです。

婚約破棄されたので暗殺される前に国を出ます。

なつめ猫
ファンタジー
公爵家令嬢のアリーシャは、我儘で傲慢な妹のアンネに婚約者であるカイル王太子を寝取られ学院卒業パーティの席で婚約破棄されてしまう。 そして失意の内に王都を去ったアリーシャは行方不明になってしまう。 そんなアリーシャをラッセル王国は、総力を挙げて捜索するが何の成果も得られずに頓挫してしまうのであった。 彼女――、アリーシャには王国の重鎮しか知らない才能があった。 それは、世界でも稀な大魔導士と、世界で唯一の聖女としての力が備わっていた事であった。

悪役令嬢は処刑されました

菜花
ファンタジー
王家の命で王太子と婚約したペネロペ。しかしそれは不幸な婚約と言う他なく、最終的にペネロペは冤罪で処刑される。彼女の処刑後の話と、転生後の話。カクヨム様でも投稿しています。

【完結】虐待された少女が公爵家の養女になりました

鈴宮ソラ
ファンタジー
 オラルト伯爵家に生まれたレイは、水色の髪と瞳という非凡な容姿をしていた。あまりに両親に似ていないため両親は彼女を幼い頃から不気味だと虐待しつづける。  レイは考える事をやめた。辛いだけだから、苦しいだけだから。心を閉ざしてしまった。    十数年後。法官として勤めるエメリック公爵によって伯爵の罪は暴かれた。そして公爵はレイの並外れた才能を見抜き、言うのだった。 「私の娘になってください。」 と。  養女として迎えられたレイは家族のあたたかさを知り、貴族の世界で成長していく。 前題 公爵家の養子になりました~最強の氷魔法まで授かっていたようです~

【完結】堅物な婚約者には子どもがいました……人は見かけによらないらしいです。

大森 樹
恋愛
【短編】 公爵家の一人娘、アメリアはある日誘拐された。 「アメリア様、ご無事ですか!」 真面目で堅物な騎士フィンに助けられ、アメリアは彼に恋をした。 助けたお礼として『結婚』することになった二人。フィンにとっては公爵家の爵位目当ての愛のない結婚だったはずだが……真面目で誠実な彼は、アメリアと不器用ながらも徐々に距離を縮めていく。 穏やかで幸せな結婚ができると思っていたのに、フィンの前の彼女が現れて『あの人の子どもがいます』と言ってきた。嘘だと思いきや、その子は本当に彼そっくりで…… あの堅物婚約者に、まさか子どもがいるなんて。人は見かけによらないらしい。 ★アメリアとフィンは結婚するのか、しないのか……二人の恋の行方をお楽しみください。

あなたが私を捨てた夏

豆狸
恋愛
私は、ニコライ陛下が好きでした。彼に恋していました。 幼いころから、それこそ初めて会った瞬間から心を寄せていました。誕生と同時に母君を失った彼を癒すのは私の役目だと自惚れていました。 ずっと彼を見ていた私だから、わかりました。わかってしまったのです。 ──彼は今、恋に落ちたのです。 なろう様でも公開中です。

処理中です...