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第一章 過去から現在へ向かって ~十年前より三年前
8 自由 Sideエヴァ
しおりを挟むその日私がした事はただ森の中を、祠の周りをゆっくりと時間を掛けて歩いただけ。
でも城外であるという事が、然も自分の意思で初めてなのよ。
今まで出来なかった事が出来て、身体と一緒に心も何かから飛び出した様なそんな開放感に包まれていてそれに何だか心がとても温かい?
心が温かいって気がついたのと同時に頬を伝う熱いものに気が付いた。
涙――――だったわ。
何故私は泣いているのだろう。
どうして涙が流れてしまったのだろうって思った。
ルガートへ来て一度も泣いた事なんてなかったのに、いいえ覚えている限り私は泣いた記憶が酷く曖昧なの。
もう決して泣く事はないと思っていたのに……。
何故私はまた泣く事が出来たのだろう。
答えは簡単……それとも複雑なのかしら?
暫くの間茫然と時を過ごして分かった事。
私は外へ出られて嬉しかったのと同時に寂しかったみたい。
七年よ。
その間ルガート城内の者は私をいない者としていた事に対しずっと寂しかった。
アナベルだけはずっと私の傍にいてくれたのだけれど、それでも彼女が働きに行っている間はずっと一人だった。
わかっている、それは甘えだって事くらいはね。
王女たる者人に弱みを見せてはいけないと教えられていたのですもの。
然も敵国の城内で、自分でもそれと気付かない所で随分と気を張っていたのね。
時間は掛かったけれど城外へ出た瞬間、王妃でも王女でもないただのエヴァンジェリンだって自覚したわ。
そうしてそれまで気を張っていたものがガラガラと音を立てて崩れてしまったのだと思う。
だってずっと我慢してきたもの。
故国ライアーンにいた頃もだし当然このルガートでもそう。
でもこの森の中では声を出して泣いてもいいのだって、それすらも自由なのだって事が何よりも嬉しい。
だから最終的に森の中にぽつんと座り込んで泣き笑いをしていたわ。
誰かに見られていたらきっと頭の可笑しい娘だと思われたでしょうね。
あぁだけど外に出る事がこんなにも素晴らしいだなんて思わなかった。
ちょっとした探検の心算だったけれどこれはこれで癖になりそう。
今日はおつかいをした訳でもない。
ましてや街へ行った訳でもない。
でもとても有意義な日。
森を自由に歩き、私という人間にもこんな風に自由があると初めて自覚出来た貴重な日なのだから……。
ふふ、思った通り癖になったみたい。
あの日を境に私はほんの短時間だけれど家事を終えてから外へ出る様になったわ。
別に徘徊をしている訳ではないのよ。
そう森の中で思いっきり深呼吸をするの。
それがとても気持ちいい。
また外へ出たと言っても直ぐには森から離れる事も出来なかったのも事実。
外の世界……街へ行きたい好奇心は日々募ってくるけれども、中々どうして足が思う様に前へ進まない。
だから離宮と森を行ったり来たりする事約三週間、それでも私にしてみれば確実に進歩しているのだと思う。
そしてただ今最初にいた森を出て街をぶ~らぶら。
と言え森からそんなに離れられない。
少し歩いては戻るを繰り返していたけれど、街の人間に出会う事もなかったから少しずつ時間を掛けて徐々に距離を延ばしてみたの。
最初の計画から三ヶ月程経過して漸く街を歩けるようになってきた。
一応小銭は持っているけれど別に何を買う訳でもない。
それに買う時には街の人と話さなくてはいけないからそれはそれでまた違い意味で大変なのかもしれない。
先ず大前提に無駄遣いは出来ない。
だってそんな事をすればそれだけ私達の計画は長引いてしまうもの。
無駄遣いはダメ、絶対!!
七年もの節約を旨として生きてきた私にしてみれば無駄遣いは重罪に値するもの!!
だから私は見るだけの為に歩いているの。
もう一つは街の空気に馴染む為ね。
それにしてもこのルガート王国の城下町はなんて賑わいがあるのかしら。
流石は大陸の中央に位置し大陸随一の商業国家と言われるだけはあるわ。
最近流行の服やあっちには雑貨屋さんかしら?
あそこには新鮮な野菜や果物……う~ん菜園にはないものが多いわね。
行商人や色んな人達が行きかう街。
活気があって見て歩くだけ本当に楽しい。
ずっとアナベル以外の人を見ては怖いという感情しかなかった。
でも今ではそれを楽しむ事の出来る自分がいる。
私は頻回に脱出を繰り返し、その行動範囲は徐々に王宮から距離が延びていく。
偶に道に迷いそうにはなるけれども、上を見上げれば目印となる王宮がある訳だから完全に迷子になる事はない。
それに何と言ってもアナベルにずっと秘密にしているのって何だか胸がドキドキワクワクしてしまう。
とは言え三年後までにこうして街に慣れておくというのも必要な事なのよ!!。
だからこれは訓練、そうこれは訓練よ!!
なんて自分へ都合の良い事を言い聞かせて歩いていれば、突然背後より声を掛けられてしまった!?
「え、エヴァ様??」
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