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第一章  過去から現在へ向かって ~十年前より三年前

5  閑話エヴァとアナベル Sideアナベル

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 私はアナベル・ルチアナ・ベイントン。
 ライアーン王国の伯爵家の二女として生を受けた者です。

 私は四人兄妹の末っ子で父や兄達に溺愛……いえ、体の良いと申しましょうか。
 幼き頃より剣や体術等の武芸をがっつりと教え込まれておりました。
 数年前とある理由により突然平民出身の母より『』と口癖と共に何故か家事全般、えぇ当然貴族家の家事ではなくそこは平民仕様で叩き込まれました。

 そんな私が初めて王宮へ伺候致した日に我が国の至宝であられる第一王女エヴァンジェリン・シャーリーン・フィオナ・オブライアン殿下と対面させて頂きましたのは、私が12歳になった時で御座います。

 当時エヴァ様はまだ5歳で大変お美しくもお可愛らしい、またご年齢に比べとても聡明な姫君でした。
 このまま国王ご夫妻に王子がお生まれにならなければエヴァ様が次期女王となられるのです。

 正式に立太子こそされてはおられませんが物心のつく頃より将来の女王陛下としての自覚も然る事ながら毎日御勉学に明け暮れ、口数も少なく不躾ながら第一印象は綺麗なお人形の様な姫君。

 とても凛としたお美しさの中にあどけなさを秘めた美少女でいらしたのは間違いありません。
 しかしなんと申しましょうか、あの頃のエヴァ様はその天使の様なお姿と内に秘められたお心が微妙にアンバランスだったのです。

 そんな印象を抱いた私へ父は簡単に説明をしてくれました。
 エヴァ様はとある事が切っ掛けでそれ以降お心を閉ざされているのだと。
 お人形ビスクドールな一面を理解すると同時にお労しい事だと心が痛みました。
 ただその辺り詳しい事情はまだ教えて貰えず、でもそれを踏まえた上でエヴァ様の護衛兼お話し相手コンパニオンとしての任を頂きました。

 勿論即答でお受けいたしましたわよ。
 愛らしい姫君のお傍に侍……いえ、断じて邪な思いは抱いておりません。
 とは言えただの伯爵令嬢コンパニオンではいざと言う時に動けない不便さを感じましたので、父に願い出てとしてお傍に上がる事となったのです。

 えぇ、当然ですがそうする事でこの私が何時如何なる時でもエヴァ様の御身をお護りする事出来るというものなのですよ。


 そうしてエヴァ様にお仕えする様になって三年経った頃でしょうか。
 突如隣国シャロンよりの要請?
 いえ、あれは完全に脅迫と言っていいでしょう。
 我が国へ勝手に潜ませている間者を使い生まれて間もないエヴァ様のお命を幾度となく狙っていた癖にです。
 要求を呑まなければ遊びでなく今度こそ本気でエヴァ様を狙うと言ってのけるのがシャロンなのです。
 実際私も何人かは捕縛しましたがアレが本気でないなんて!!

 確かにあの国が申す通り陛下が首を縦にお振りになられるまで、今迄のが単なる遊びだとでもいう様にエヴァ様は執拗にお命を狙われ、その事でお心が疲弊されてゆかれるエヴァ様を思い到頭とうとう陛下は後方支援ならば……という条件で承諾されました。

 それを聞いたエヴァ様は何度も撤回する様にと父王陛下をおいさめになられておられましたが、結果的には願いは叶わず、建国以来初めて戦に加担する事となったのです。

 陛下が正式に決断されたのをお聞きになり酷く落胆されたエヴァ様は子供の様に、いえ実際に8歳のお子様なのです。
 ですがご自分に力がなかった事に対し悔しかったのでしょうね。
 ご自分の所為で建国以降一度たりとも戦う事のなかった国が後方支援んとは言え参加する事に対し泣かれました。
 いえ、正確には声を上げて泣きたかったのでしょう。
 ですがあの頃のエヴァ様には感情がほぼなくされていた故に、涙を流す事も出来ず顔を微妙に歪めていらしたのが精一杯でした。


 ただその御姿はご両親へ一切お見せする事はなく、私にだけお見せ下さいましたが本当にお心が自由に表現出来ない辛さと悔しさはこちらが悲しくなるくらい十分に伝わりました。
 両陛下がお辛い立場にあるからと言えまだ8歳のお子様なのに甘える事もなく、唯一私の前で父王陛下を止められなくて『』と言っておられたのです。

 幼いのに護られるのが当然なのに、エヴァ様は幼いながらもその御心は既に次期女王陛下でした。

 優しくそして気高いお心を持ったエヴァ様に私はお仕えする事が出来て本当に幸せだと心より思っています。
 ですが最近は少々そのお育て方を間違えた感が否めないのも事実です。
 こうしてルガードで暮らす様になりエヴァ様は初めてご自分が育てた野菜を収穫出来た時、私に向けて少しはにかんだ笑みを浮かべて話されたのを今も決して忘れる事等出来ません。


「ねぇアナベル、自ら手を掛け育てればちゃんと収穫出来るって凄く幸せな事なのね。私……生まれてきて良かったわ。アナベルと一緒でなければこうして生きているって気持ちを持つ事が出来なかったからかもしれないもの」
「エヴァ様……」

 あぁ漸くです。
 私のエヴァ様はお人形より人間へとお戻りになられた瞬間でした。
 でもそれはまだ最初のほんの小さな一歩であり、エヴァ様の病を無事に克服されるまでにはまだまだ時間を要しましたがそれでも私にとっては至上の喜びなのです。

 ですのでエヴァ様のお元気なお姿を見られるその日まで私は今以上に頑張りますわ。
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