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第一章 過去から現在へ向かって ~十年前より三年前
5 一年後の決意 Sideエヴァ
しおりを挟むあれから少し時は流れ、秋になりそして冬になった。
私の知っている冬は、大地がほぼ真っ白な雪と分厚い氷に覆われるもの。
とは言えライアーンは季節がはっきりした土地だから作物を作るのには適していたわ。
しかしここルガートの冬は違う。
冬でも滅多に雪は降らなくて、祖国に比べると比較的温かい。
お陰さまで暖房費を節約出来るからこれはこれで良い事ね。
お洗濯も台所のお仕事も水が思う以上に冷たくなくて良かったと、これも体験し初めて分かったもの。
そんな日々を過ごしてあっという間に春が訪れた。
春と言えばルガート王国へきて一年、つまり私は9歳になったのだ。
当然誕生日を迎えたからと言って生誕祭を行われる事はない。
あくまでも一国の王妃とは言え所詮は子供で人質。
この一年陛下とは何も接触はなかったわ。
だから王妃として遇されなくても何も思う事はないし私的には放置大歓迎だわ。
また一年前の様に何も出来なかった私はもういない。
そうこの一年で私は誰の助けも必要がないくらい家事全般を実に手際良くこなせる様になったのだもの。
今ではパンもスープもお手の物。
当然パンは粉から捏ねて発酵させて焼き上げるまでよ。
菜園も順調良く育って豆や葉物野菜に人参やカブといった根菜類も現在進行形で育てている。
アナベルは食堂で今も働いている。
あぁ先日お給料も少しだけど上がったと言って喜んでいたわ。
それに時々お店の女将さんが残ったお料理をお裾分けしてくれるから物凄く有り難い職場なの。
だけどアナベルには本当に申し訳ない限りだわ。
私は仕方ないとしても伯爵令嬢である彼女までこんな生活を強いてしまったのは、主人として申し訳ない気持ちでいっぱい。
でもそんな私にアナベルはずっと傍にいてくれると何時も言ってくれるのが何より嬉しい。
きっとアナベルがいなければ私は早々に挫けていたでしょうね。
ううん、私一人ではきっと生きて行こうとさえあの時は思わなかったでしょう。
本当に彼女には感謝してもしきれない。
四年前よりアナベルは本当の姉妹の様に私の傍にいてくれる。
今の私がこうしていられるのはきっと彼女のお陰。
話しは少し元に戻るけれど、私は生活が落ち着いた頃を見計らってアナベル経由で街から祖国へと手紙を出して貰ったの。
勿論この窮状は伝えてはいない。
手紙は私から書くので一切ルガートには何も送らないで欲しいとだけ伝えた。
優しいお父様やお母様は物凄く心配なさっていらっしゃるのだろうけれど、私達は出来るだけ自分達の存在をルガート側に知られたくはない。
両親に対し親不孝なのかもしれない。
でも今は敢えて接触を断つ事で何れ訪れるだろう未来に家族や国民を巻き込みたくないのだから……。
私達はこれまで必死に生き抜きながら静かにこの一年様子を見てきた。
きっと向こうも私達の様子をある程度は見張ってもいるのだと思う。
そこでわかった事は離宮内で常に最小限の生活音を出しておけば、出入り口でのほほ~んと立っている衛兵は決して中へ入ってこない。
そして他の侍従や侍女も私達には気にも留めて……不思議と最初からいない者扱いだわね。
陛下のお召しや訪れも――――全くない。
まぁそれには理由は一応あったのだけど私達には本当にどうでもいい。
だからルガートへやってきて丁度一年が経過した夜に私達は決意した。
敗戦国の償いとして私がこの世に生を受けてから今までの年数……つまり八年間とプラス二年で十年。
そう十年間はここでひっそりと慎ましやかに生活していこうと決めたの。
生まれた年数分をこの国へ奉仕するのだからいいだろう……とこれは私の勝手な言い分なのかもしれない。
だけど乙女の八年間と言う時間はとても大切で貴重な時間。
花の命は短い。
その大切な乙女の時間を提供するのだから決して悪い話ではないだろう理由もこちらの勝手な言い分だけれど。
ただ幾ら何でも八では切りが悪いのでプラスおまけ。
まぁ出血大サービスでニ年を追加して合計十年。
私達はその十年をなるべくこの国の人間、主に王宮内にいる者達へ今以上に忘れられる様生き、それで以って節約を心がける。
そして来るべき日が来た時、私達はこの国より脱出するの!!
本当は二人共に愛する故国ライアーンへ帰りたい。
でも万が一の事を考え家族や国民へ迷惑をかけたくないという理由で第三国へね。
まだ場所は未定だけれど自由な地で、平民でもいいから何時か素敵な恋をして悔いのない人生をやり直すのだと決めたのよ。
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