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第一章 レント城塞
第五十三話 初心者扱いお断り
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馬上のエランは咄嗟に鐙から片足を外し、腰を上げて半変化になったザーリの頭を蹴り、馬から遠ざける。
側に来たトキが、ザーリに何かを投げつけると、一瞬で燃え上がり跡形も無く消えた。
「マールの武器は、完成したようだな。あっけなさ過ぎて、つまらん!」
まるで遊んでいるように、何かの革袋を手にしている。
エランは気分が悪くなり、顔を背けた。ザーリには嫌な思いばかりさせられてきた。
大嫌いな奴の死に同情はしたくない。
それなのに……、何だろう、この不快感。
「なぜ、切らなかった? 顔見知りでも、屍食鬼に情けは無用だ! 奴等に喰われたくなければな」
「…………」
トキは厳しい顔付きで、青ざめたエランの顔を睨みつける。
「短剣投げは得意か?」
「はい、得意です」
「では、これをやる。革袋を敵に投げて、この短剣擬きで突き刺せ。一つしか無いから、窮地の時に使えよ」
彼はそう言って次の標的を探しながら、第二城門に向って前進していった。
渡された革袋を手にしてエランは、ザーリの消えた跡に視線を戻し、トキの言葉を復唱した。
「屍食鬼に、情けは無用なんだ」
第二城門に近づくにつれて、半変化が数を増す。
その中にハラルドの手下が何人も含まれているのを、エランは確認した。
友人を皆、犠牲にしたのか?
そう思うと、ますます気分が悪くなる。
半変化はただ第二城門に群がり、何かを求めるように上に飛ぼうとしている。
自警団が彼等に襲いかかり、城門の兵達も上から火矢で半変化を殺す。
上空には屍食鬼が飛び交い、多くの火矢が城門塔から放たれている。
人々は矢に当たる事を恐れず、果敢に目の前の敵と戦っていた。
「火を放て! 燃やさないと、死なないぞ」
国王軍兵の叫びに従い、あちこちで火の手が上がる。
血を流し倒れる者達に足を取られながら、かつての隣人だった者が屍食鬼に変わる前に、皆が必死に半変化の殲滅を目指す。
半変化は数を減らしながらも、徐々に変化が進み屍食鬼として飛ぶ者達が現れた。
長く伸びた黒い太い首、せり出した獣じみた顎に、口から出た牙は隠す事が出来ない程、凶暴で血に飢えて見える。
耳を劈く奇声を発し、身体から黒い渦が沸き起こるのがエランには見える。
「国王軍に任せろ!」
屍食鬼に完全変化し飢えた獣となって襲い来る。
屍食鬼相手に戦闘の素人が敵う訳もなく、人々は逃げ惑い騎士達が対峙する。
「火矢を放て!」
一斉に火矢が放たれ、上空の屍食鬼が燃え上がる。
長く尖った爪で急所を狙ってくる屍食鬼に、一人の騎士が慣れた剣捌きでかわしながら腹を切り裂く。
緑の粘液が飛び散るが浴びても身体に害が出ないのは、セルジン王の魔力を秘めた護符のおかげだ。
腹を裂かれ動きの鈍った屍食鬼に、瞬時に火矢が襲う。
「メリマン隊長! 奴等、第二城門塔内に入り込むつもりです」
高所にある兵士用入り口に、屍食鬼が群がっている。
別の屍食鬼を殺したばかりのトキは、即座に大声で指示を出す。
王の近衛騎士は精鋭揃い、守るべき王がいない時は、戦場で屍食鬼の殲滅に従事する。
「持ち場を離れるな! レント騎士隊の戦い方がある」
第二城門からラッパが鳴らされ、城門近くにいる者達が撤退する。
城門の兵士用入り口に群がる屍食鬼は数を増やし、燃え上がる炎に照らされ、そこだけ蠢く黒い染みのように見えた。
それが突如、落下し始めたのだ。
塔の頂上に設置された板囲いから、熱せられた油の入った袋が投げられ屍食鬼を直撃。
次の瞬間、近くの矢狭間から火矢が放たれる。
屍食鬼達は爆発的に燃え上がった。
目の端でそれを捕えながら、トキはエランを呼ぶ。
「半変化を何体殺した?」
何体という死体を数えるような言葉に、元人間だと思うとエランはまた気分が悪くなる。
「三体です」
「三体か。未成年の初陣にしてはまあまあか。ここの屍食鬼も数が減ってきた。上空は、オーリン様が追い払ったんだろう」
上空に疎らにいる屍食鬼の黒い影のその上に、光り輝く何かが見えた。
竜の真上が光っている。
あれが《ソムレキアの宝剣》の輝きなのだろう。
「今から第三城門内へ行くが、お前は残れ。向こうは隠れる場所が無い」
「屍食鬼なら、四体殺りました。僕も行きます!」
どう考えても初心者扱いに、エランはムッとしながら答えた。
トキは驚き、面白がるように彼を見る。
「合計七体か。やるじゃないか、お坊ちゃんかと思っていたのに」
「十二の時から特例で魔物狩りに出ているんです。屍食鬼は魔物に見えて、半変化より殺りやすい」
エランは不敵に笑った。
側に来たトキが、ザーリに何かを投げつけると、一瞬で燃え上がり跡形も無く消えた。
「マールの武器は、完成したようだな。あっけなさ過ぎて、つまらん!」
まるで遊んでいるように、何かの革袋を手にしている。
エランは気分が悪くなり、顔を背けた。ザーリには嫌な思いばかりさせられてきた。
大嫌いな奴の死に同情はしたくない。
それなのに……、何だろう、この不快感。
「なぜ、切らなかった? 顔見知りでも、屍食鬼に情けは無用だ! 奴等に喰われたくなければな」
「…………」
トキは厳しい顔付きで、青ざめたエランの顔を睨みつける。
「短剣投げは得意か?」
「はい、得意です」
「では、これをやる。革袋を敵に投げて、この短剣擬きで突き刺せ。一つしか無いから、窮地の時に使えよ」
彼はそう言って次の標的を探しながら、第二城門に向って前進していった。
渡された革袋を手にしてエランは、ザーリの消えた跡に視線を戻し、トキの言葉を復唱した。
「屍食鬼に、情けは無用なんだ」
第二城門に近づくにつれて、半変化が数を増す。
その中にハラルドの手下が何人も含まれているのを、エランは確認した。
友人を皆、犠牲にしたのか?
そう思うと、ますます気分が悪くなる。
半変化はただ第二城門に群がり、何かを求めるように上に飛ぼうとしている。
自警団が彼等に襲いかかり、城門の兵達も上から火矢で半変化を殺す。
上空には屍食鬼が飛び交い、多くの火矢が城門塔から放たれている。
人々は矢に当たる事を恐れず、果敢に目の前の敵と戦っていた。
「火を放て! 燃やさないと、死なないぞ」
国王軍兵の叫びに従い、あちこちで火の手が上がる。
血を流し倒れる者達に足を取られながら、かつての隣人だった者が屍食鬼に変わる前に、皆が必死に半変化の殲滅を目指す。
半変化は数を減らしながらも、徐々に変化が進み屍食鬼として飛ぶ者達が現れた。
長く伸びた黒い太い首、せり出した獣じみた顎に、口から出た牙は隠す事が出来ない程、凶暴で血に飢えて見える。
耳を劈く奇声を発し、身体から黒い渦が沸き起こるのがエランには見える。
「国王軍に任せろ!」
屍食鬼に完全変化し飢えた獣となって襲い来る。
屍食鬼相手に戦闘の素人が敵う訳もなく、人々は逃げ惑い騎士達が対峙する。
「火矢を放て!」
一斉に火矢が放たれ、上空の屍食鬼が燃え上がる。
長く尖った爪で急所を狙ってくる屍食鬼に、一人の騎士が慣れた剣捌きでかわしながら腹を切り裂く。
緑の粘液が飛び散るが浴びても身体に害が出ないのは、セルジン王の魔力を秘めた護符のおかげだ。
腹を裂かれ動きの鈍った屍食鬼に、瞬時に火矢が襲う。
「メリマン隊長! 奴等、第二城門塔内に入り込むつもりです」
高所にある兵士用入り口に、屍食鬼が群がっている。
別の屍食鬼を殺したばかりのトキは、即座に大声で指示を出す。
王の近衛騎士は精鋭揃い、守るべき王がいない時は、戦場で屍食鬼の殲滅に従事する。
「持ち場を離れるな! レント騎士隊の戦い方がある」
第二城門からラッパが鳴らされ、城門近くにいる者達が撤退する。
城門の兵士用入り口に群がる屍食鬼は数を増やし、燃え上がる炎に照らされ、そこだけ蠢く黒い染みのように見えた。
それが突如、落下し始めたのだ。
塔の頂上に設置された板囲いから、熱せられた油の入った袋が投げられ屍食鬼を直撃。
次の瞬間、近くの矢狭間から火矢が放たれる。
屍食鬼達は爆発的に燃え上がった。
目の端でそれを捕えながら、トキはエランを呼ぶ。
「半変化を何体殺した?」
何体という死体を数えるような言葉に、元人間だと思うとエランはまた気分が悪くなる。
「三体です」
「三体か。未成年の初陣にしてはまあまあか。ここの屍食鬼も数が減ってきた。上空は、オーリン様が追い払ったんだろう」
上空に疎らにいる屍食鬼の黒い影のその上に、光り輝く何かが見えた。
竜の真上が光っている。
あれが《ソムレキアの宝剣》の輝きなのだろう。
「今から第三城門内へ行くが、お前は残れ。向こうは隠れる場所が無い」
「屍食鬼なら、四体殺りました。僕も行きます!」
どう考えても初心者扱いに、エランはムッとしながら答えた。
トキは驚き、面白がるように彼を見る。
「合計七体か。やるじゃないか、お坊ちゃんかと思っていたのに」
「十二の時から特例で魔物狩りに出ているんです。屍食鬼は魔物に見えて、半変化より殺りやすい」
エランは不敵に笑った。
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