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8.あぁ、そういうことだったんですね
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地面に頭を擦り付けるほどの勢いで、いつまでも深々と土下座した姿勢のまま固まっている直生くんに、わたしはどうしたものかしばし迷った末「とりあえず顔を上げてください」などとまるでいつかの再現のような言葉を口にします。それで直生くんは、ようやく素直に頭を上げてくれました。おでこに細かい砂や石がついているのが、なんだか痛々しいです。
手を伸ばし、直生くんのおでこに付いたそれらを手で払って差し上げると、ようやく申し訳なさそうに「ありがとう」とだけ呟きました。
そんな状態の直生くんに、まずわたしが聞かなければならないことといったら……。
「何故、いきなり謝ったのです? わたしに対して、何かよからぬことをなさっていたとでもおっしゃるのですか?」
「その通りなんだよ」
間髪入れずに返ってきた答え。そう素直に断言されてしまいますと、追及する側であるはずのわたしも――まぁ、元からそんなことをする気などさらさらないのですが――なんだか怯んでしまいます。
その場に正座したまま、わたしの目を真剣に見据える直生くん。制服のズボンが汚くなってしまっているのではないかと内心気が気でないですが、今はそんなところを突っ込んでいる場合ではありませんし、せっかく直生くんがお話をしてくださろうとしているのに、水を差すわけにもいきません。
彼の真摯な目を、こちらも静かなまなざしで見つめ返すと、直生くんはようやく決心を固めたのか、やけに落ち着いた声でこう切り出してきました。
「瑞希。俺は、お前に一つ嘘を吐いた。お前のこと、今までずっと騙し続けてきたんだ」
「……嘘、ですか?」
いったい彼がどのことを言っているのか、皆目見当もつきません。その大きさすらも、把握することができません。わたしにずっとついていた嘘とは、いったい何なのでしょう。今まで彼がわたしに対して言ってきたことの中に、それが含まれているのであろうことはなんとなくわかるのですが。
「どこから、ですか」
いったいどこからが、嘘だったとおっしゃるのですか。
そこで直生くんは、一度気まずげに目を逸らしました。……が、もう逃げ場はないと悟ったのでしょう。変わらず静かな声で、できるだけ感情を表に出すまいとしているかのように、こう答えました。
「……最初から、だ」
わたしは思わず眉根を寄せました。
最初から? では……あの日わたしに、先ほどのように土下座をした瞬間から、既に嘘が始まっていたというのですか?
あの頼みごとからして、全部嘘だったと。そういうことなのですね。
「ではそもそも、暁くんのことが好きだというのは……嘘だった、と。そういうことなのですね?」
「その通りです」
直生くんは消え入るような声で答えると、申し訳なさそうな顔でシュンとしてしまいます。
「俺とちぃは、中学校時代からの付き合いなんだ。でも、俺と違ってあいつの周りには、いつだって色んな奴らがいて……高校に入ってクラスが離れてからは、特にそう。今年やっと久しぶりに同じクラスになったのに、前ほど気軽には話しかけづらくなってた。ちぃは変わらず俺に親しげに接してくれるのに、俺はちぃに対して勝手に劣等感を抱いて、近頃ちょっと冷たくなってたっていうところがあって。だから……そういう自分を変えたかったっていうのとか、ちぃともっと親しく接したいっていうのは、紛れもなく本心だった。そのために、背中を押してくれるきっかけが欲しかったんだ」
「……つまり、直生くんは暁くんともっと仲良くなりたかった。けれどそれは、恋愛感情などではなかったと。そういうことなのですね」
「そうだ」
「結果的には……わたしを騙し、利用したということで」
「短絡的に言えば、そういうことになります」
そのまま、直生くんはもう一度軽く頭を下げました。
「怒るのも、無理はないと思う。せっかくメリットもあるからってことで俺の頼みを受け入れて、あんなにも一生懸命にアドバイスしてくれてたのに……それが全部無駄だったなんて分かったら、そりゃあいくら温厚なお前だって許せないに決まってるよな」
何を、言っているのですか?
そりゃあ、最初はこちら側のメリットありきで引き受けたところもありますし、それに関しては否定しません。ですが……直生くんは、こちらの気持ちを何もわかっていない。
「わたしは、そんなことでいちいち怒ったりなどしません。努力が無駄になったぐらい、何だというのですか」
「瑞希……」
「でも、怒っているのは本当です」
キッ、と睨みつけるように告げれば、ビクリと震える肩。男の子のくせに、いくらなんでもその姿は情けないですよ。女の子にちょっと睨まれたくらいで、そんなにも怯むだなんて。
蛇に睨まれたカエル状態になっている直生くんをじっと睨みながら、わたしは言葉を続けました。
「わたしは、騙され利用されていたという事実が、どうしても腹立たしかったんです。あなたを許せないと思ったし……同時に、とても悲しかった」
「……」
「いつだったか、あなたはわたしにおっしゃいましたよね。『お前は俺とちぃのために、仕方なく俺と関わってたの?』って。そのお言葉、そのままお返ししますよ。あなたは暁くんともっと仲良くなる……ただそれだけのために、これまで仕方なくわたしと関わってきたというのですか?」
「違う……」
「本当は、わたしとお話するのが……わたしと一緒に時間を過ごすことが嫌だったと、そういう風におっしゃるのですか?」
「違うんだ、そうじゃない。それだけじゃないんだよ、瑞希!!」
言葉を遮るように被せられた直生くんの悲痛な叫びに、今度はわたしが怯む番でした。震える口をつぐみ、涙が出そうになるのをどうにか押さえながら、目の前にいる直生くんを見つめ、言葉を待ちます。
うつむきがちに地面へと目線を落としていた直生くんは、しばらく小刻みに震えながら黙っていましたが、やがて落ち着いたように一言ずつポツリ、ポツリと話し始めました。
「……俺には、気になる女の子がいた。今年同じクラスになったその子は一見地味目に見えるんだけど、特徴的な話し方と淑やかな仕草、それからいつだって一生懸命なその態度で、もともと学校では結構有名人だったんだ。もっとも、本人はそれを自覚してなかったみたいだけど」
どこかで聞き覚えがあるようなそれは、確かに校内でもよく耳にする評判。それが誰のことを指しているのかについては、今までよくわかっていなかったのですが……。
「同じクラスになって、初めは興味本位でその子のことを目で追ってた。でも、その子の色んな表情や仕草を目にしていくうちに、だんだんドキドキしてきて……あぁ、これが恋ってやつなのかなって、すぐに分かった」
甘く光る瞳。これが恋する人の見せる瞳の色なんだと、わたしはどこか他人事のように彼の表情を見つめていました。
「一回自覚すると、心情の変化って早いものなんだよな。もっと近づいてみたい、話がしてみたい……いつしかそういう風に考えるようになって。それである日俺は、思い切って行動に出ることにした。その子の側にいつもいる、幼馴染だというクラスメイトのとある女子に、この気持ちを打ち明けてみることにしたんだ」
愛おしさを湛えた瞳が、こちらへと向けられます。まるで、それがわたしのことだとでも言うかのように。
――自惚れるのもいい加減にした方がいい、とは自分でも思います。だってわたしは、彼の口から語られるほどまでに素晴らしい人間ではないのだから……。
ですがそれは、次の言葉であっさり現実のものとなりました。
「そいつは――白河結鶴は、言った。『村瀬瑞希は男同士の恋愛に萌えを感じる、腐女子と呼ばれる人間よ。それでもあんたは、彼女の全てを受け入れられる自信があるの?』と」
これまで曖昧になっていたはずの、突然明かされたその具体的な名前に、わたしは驚きのあまり大きく目を見開きました。
それでも……そのまま直生くんの口からは、さらに衝撃の事実が語られ続けます。
「俺は答えた。『どんな彼女でも、俺は愛おしいと思えるだろう。彼女を――村瀬瑞希を、どうしても知りたい。だから、そのための手掛かりが欲しい』と。白河は了承してくれたし、『男同士の恋愛絡みの相談を持ちかけるといいわ。それから、手っ取り早く同じ委員会に入るとかっていうのも、効果的だと思うわよ』ってアドバイスをくれた。『まるで娘を嫁にでも出すみたいな気分だわね……まぁ、頑張って』後にそう、付け加えて」
結鶴ちゃん……あなたという人は、わたしの知らないところで一体なんということを。っていうか、最初から全部知ってたくせにずっと黙っていたんですか、あの子は。
っていうか、それで直生くんはわたしにあんな頼みごとをしたんですね。同時に、前から抱えていた暁くんとのこともこれで解決できると思って……あぁ、本当に計画的ですね。同じ図書委員になったのも、実は仕組まれていたというわけですか。
……っていうか、っていうか!!
「あの、直生くん……?」
「何?」
「えーと……今のはその、こ、告白と受け取ってもよろしいのでしょうか」
あぁ、どうにも顔が熱い。今はまだ、夏というには早い季節なのではありませんでしたっけ。
目の前には、暗くなり始めた空の下でもそれと分かるくらいに、顔を真っ赤にした直生くん。きっと今のわたしも、同じような顔をしているに違いありません。今鏡を向けられたら、きっと羞恥のあまり死ねるでしょう。
「まぁ、確かにかなり遠まわしだったよな……改めて、ちゃんと言う」
そう前置きしてから、心持ち潤んだ瞳を向けた直生くんは、わたしに向かってきっぱりとした口調でこう言いました。
「瑞希。俺は……お前のことが、好きだ。多分、初めて姿を目にした時からこの気持ちはあったんだと思うけど……嘘だったけど恋愛相談したり、同じ図書委員として仕事したり、そうやっていろんな形でお前と接していくたびに、お前のことを知っていくたびに、もっと好きになった。嘘ついて騙した上に、こんなこと言うのはかなり図々しいんだろうけど……お前さえよかったら、俺と付き合って欲しい」
「……」
何ででしょう。すごく、ドキドキします。これまで時折感じていたものとは比べ物にならないくらい、心臓が荒れ狂ったみたいにバクバクいってて、なんだか息ができなくなってしまいそうです。
だけど……改めて直生くんの告白に耳を傾けていたら、いつの間にかこれまでのモヤモヤは全部消えてしまっていました。その代わり今は、何とも言えない充足感が心を満たしています。
きっと……わたしは今、とても嬉しいんです。幸せ、なんです。
「直生くん」
その名前を呼ぶだけで、心が弾んでしまいます。
「何?」
返事をもらったら、もっと胸が高鳴ります。
ささやかな一つ一つのことさえもキラキラと輝いて、とっても愛おしいと思える……そんな、今抱いているこの気持ちこそがきっと、恋というものなのですね。
ベンチから立ち上がったわたしは、こちらをじっと見つめる直生くんの前に何の前触れもなく跪くと、そのまま彼の首に腕を回し、自分から距離を縮めてみました。首筋から直生くんの匂いがして、そのことに思わず胸がいっぱいになってしまいます。
「ちょ、瑞希!?」
慌てたように声を上げる直生くんの耳元で、吐息交じりに――この胸に満ち溢れた想いや、この心臓の高鳴りが全部伝わってしまえばいいと思いながら、小さく囁きました。
「好きです、直生くん」
手を伸ばし、直生くんのおでこに付いたそれらを手で払って差し上げると、ようやく申し訳なさそうに「ありがとう」とだけ呟きました。
そんな状態の直生くんに、まずわたしが聞かなければならないことといったら……。
「何故、いきなり謝ったのです? わたしに対して、何かよからぬことをなさっていたとでもおっしゃるのですか?」
「その通りなんだよ」
間髪入れずに返ってきた答え。そう素直に断言されてしまいますと、追及する側であるはずのわたしも――まぁ、元からそんなことをする気などさらさらないのですが――なんだか怯んでしまいます。
その場に正座したまま、わたしの目を真剣に見据える直生くん。制服のズボンが汚くなってしまっているのではないかと内心気が気でないですが、今はそんなところを突っ込んでいる場合ではありませんし、せっかく直生くんがお話をしてくださろうとしているのに、水を差すわけにもいきません。
彼の真摯な目を、こちらも静かなまなざしで見つめ返すと、直生くんはようやく決心を固めたのか、やけに落ち着いた声でこう切り出してきました。
「瑞希。俺は、お前に一つ嘘を吐いた。お前のこと、今までずっと騙し続けてきたんだ」
「……嘘、ですか?」
いったい彼がどのことを言っているのか、皆目見当もつきません。その大きさすらも、把握することができません。わたしにずっとついていた嘘とは、いったい何なのでしょう。今まで彼がわたしに対して言ってきたことの中に、それが含まれているのであろうことはなんとなくわかるのですが。
「どこから、ですか」
いったいどこからが、嘘だったとおっしゃるのですか。
そこで直生くんは、一度気まずげに目を逸らしました。……が、もう逃げ場はないと悟ったのでしょう。変わらず静かな声で、できるだけ感情を表に出すまいとしているかのように、こう答えました。
「……最初から、だ」
わたしは思わず眉根を寄せました。
最初から? では……あの日わたしに、先ほどのように土下座をした瞬間から、既に嘘が始まっていたというのですか?
あの頼みごとからして、全部嘘だったと。そういうことなのですね。
「ではそもそも、暁くんのことが好きだというのは……嘘だった、と。そういうことなのですね?」
「その通りです」
直生くんは消え入るような声で答えると、申し訳なさそうな顔でシュンとしてしまいます。
「俺とちぃは、中学校時代からの付き合いなんだ。でも、俺と違ってあいつの周りには、いつだって色んな奴らがいて……高校に入ってクラスが離れてからは、特にそう。今年やっと久しぶりに同じクラスになったのに、前ほど気軽には話しかけづらくなってた。ちぃは変わらず俺に親しげに接してくれるのに、俺はちぃに対して勝手に劣等感を抱いて、近頃ちょっと冷たくなってたっていうところがあって。だから……そういう自分を変えたかったっていうのとか、ちぃともっと親しく接したいっていうのは、紛れもなく本心だった。そのために、背中を押してくれるきっかけが欲しかったんだ」
「……つまり、直生くんは暁くんともっと仲良くなりたかった。けれどそれは、恋愛感情などではなかったと。そういうことなのですね」
「そうだ」
「結果的には……わたしを騙し、利用したということで」
「短絡的に言えば、そういうことになります」
そのまま、直生くんはもう一度軽く頭を下げました。
「怒るのも、無理はないと思う。せっかくメリットもあるからってことで俺の頼みを受け入れて、あんなにも一生懸命にアドバイスしてくれてたのに……それが全部無駄だったなんて分かったら、そりゃあいくら温厚なお前だって許せないに決まってるよな」
何を、言っているのですか?
そりゃあ、最初はこちら側のメリットありきで引き受けたところもありますし、それに関しては否定しません。ですが……直生くんは、こちらの気持ちを何もわかっていない。
「わたしは、そんなことでいちいち怒ったりなどしません。努力が無駄になったぐらい、何だというのですか」
「瑞希……」
「でも、怒っているのは本当です」
キッ、と睨みつけるように告げれば、ビクリと震える肩。男の子のくせに、いくらなんでもその姿は情けないですよ。女の子にちょっと睨まれたくらいで、そんなにも怯むだなんて。
蛇に睨まれたカエル状態になっている直生くんをじっと睨みながら、わたしは言葉を続けました。
「わたしは、騙され利用されていたという事実が、どうしても腹立たしかったんです。あなたを許せないと思ったし……同時に、とても悲しかった」
「……」
「いつだったか、あなたはわたしにおっしゃいましたよね。『お前は俺とちぃのために、仕方なく俺と関わってたの?』って。そのお言葉、そのままお返ししますよ。あなたは暁くんともっと仲良くなる……ただそれだけのために、これまで仕方なくわたしと関わってきたというのですか?」
「違う……」
「本当は、わたしとお話するのが……わたしと一緒に時間を過ごすことが嫌だったと、そういう風におっしゃるのですか?」
「違うんだ、そうじゃない。それだけじゃないんだよ、瑞希!!」
言葉を遮るように被せられた直生くんの悲痛な叫びに、今度はわたしが怯む番でした。震える口をつぐみ、涙が出そうになるのをどうにか押さえながら、目の前にいる直生くんを見つめ、言葉を待ちます。
うつむきがちに地面へと目線を落としていた直生くんは、しばらく小刻みに震えながら黙っていましたが、やがて落ち着いたように一言ずつポツリ、ポツリと話し始めました。
「……俺には、気になる女の子がいた。今年同じクラスになったその子は一見地味目に見えるんだけど、特徴的な話し方と淑やかな仕草、それからいつだって一生懸命なその態度で、もともと学校では結構有名人だったんだ。もっとも、本人はそれを自覚してなかったみたいだけど」
どこかで聞き覚えがあるようなそれは、確かに校内でもよく耳にする評判。それが誰のことを指しているのかについては、今までよくわかっていなかったのですが……。
「同じクラスになって、初めは興味本位でその子のことを目で追ってた。でも、その子の色んな表情や仕草を目にしていくうちに、だんだんドキドキしてきて……あぁ、これが恋ってやつなのかなって、すぐに分かった」
甘く光る瞳。これが恋する人の見せる瞳の色なんだと、わたしはどこか他人事のように彼の表情を見つめていました。
「一回自覚すると、心情の変化って早いものなんだよな。もっと近づいてみたい、話がしてみたい……いつしかそういう風に考えるようになって。それである日俺は、思い切って行動に出ることにした。その子の側にいつもいる、幼馴染だというクラスメイトのとある女子に、この気持ちを打ち明けてみることにしたんだ」
愛おしさを湛えた瞳が、こちらへと向けられます。まるで、それがわたしのことだとでも言うかのように。
――自惚れるのもいい加減にした方がいい、とは自分でも思います。だってわたしは、彼の口から語られるほどまでに素晴らしい人間ではないのだから……。
ですがそれは、次の言葉であっさり現実のものとなりました。
「そいつは――白河結鶴は、言った。『村瀬瑞希は男同士の恋愛に萌えを感じる、腐女子と呼ばれる人間よ。それでもあんたは、彼女の全てを受け入れられる自信があるの?』と」
これまで曖昧になっていたはずの、突然明かされたその具体的な名前に、わたしは驚きのあまり大きく目を見開きました。
それでも……そのまま直生くんの口からは、さらに衝撃の事実が語られ続けます。
「俺は答えた。『どんな彼女でも、俺は愛おしいと思えるだろう。彼女を――村瀬瑞希を、どうしても知りたい。だから、そのための手掛かりが欲しい』と。白河は了承してくれたし、『男同士の恋愛絡みの相談を持ちかけるといいわ。それから、手っ取り早く同じ委員会に入るとかっていうのも、効果的だと思うわよ』ってアドバイスをくれた。『まるで娘を嫁にでも出すみたいな気分だわね……まぁ、頑張って』後にそう、付け加えて」
結鶴ちゃん……あなたという人は、わたしの知らないところで一体なんということを。っていうか、最初から全部知ってたくせにずっと黙っていたんですか、あの子は。
っていうか、それで直生くんはわたしにあんな頼みごとをしたんですね。同時に、前から抱えていた暁くんとのこともこれで解決できると思って……あぁ、本当に計画的ですね。同じ図書委員になったのも、実は仕組まれていたというわけですか。
……っていうか、っていうか!!
「あの、直生くん……?」
「何?」
「えーと……今のはその、こ、告白と受け取ってもよろしいのでしょうか」
あぁ、どうにも顔が熱い。今はまだ、夏というには早い季節なのではありませんでしたっけ。
目の前には、暗くなり始めた空の下でもそれと分かるくらいに、顔を真っ赤にした直生くん。きっと今のわたしも、同じような顔をしているに違いありません。今鏡を向けられたら、きっと羞恥のあまり死ねるでしょう。
「まぁ、確かにかなり遠まわしだったよな……改めて、ちゃんと言う」
そう前置きしてから、心持ち潤んだ瞳を向けた直生くんは、わたしに向かってきっぱりとした口調でこう言いました。
「瑞希。俺は……お前のことが、好きだ。多分、初めて姿を目にした時からこの気持ちはあったんだと思うけど……嘘だったけど恋愛相談したり、同じ図書委員として仕事したり、そうやっていろんな形でお前と接していくたびに、お前のことを知っていくたびに、もっと好きになった。嘘ついて騙した上に、こんなこと言うのはかなり図々しいんだろうけど……お前さえよかったら、俺と付き合って欲しい」
「……」
何ででしょう。すごく、ドキドキします。これまで時折感じていたものとは比べ物にならないくらい、心臓が荒れ狂ったみたいにバクバクいってて、なんだか息ができなくなってしまいそうです。
だけど……改めて直生くんの告白に耳を傾けていたら、いつの間にかこれまでのモヤモヤは全部消えてしまっていました。その代わり今は、何とも言えない充足感が心を満たしています。
きっと……わたしは今、とても嬉しいんです。幸せ、なんです。
「直生くん」
その名前を呼ぶだけで、心が弾んでしまいます。
「何?」
返事をもらったら、もっと胸が高鳴ります。
ささやかな一つ一つのことさえもキラキラと輝いて、とっても愛おしいと思える……そんな、今抱いているこの気持ちこそがきっと、恋というものなのですね。
ベンチから立ち上がったわたしは、こちらをじっと見つめる直生くんの前に何の前触れもなく跪くと、そのまま彼の首に腕を回し、自分から距離を縮めてみました。首筋から直生くんの匂いがして、そのことに思わず胸がいっぱいになってしまいます。
「ちょ、瑞希!?」
慌てたように声を上げる直生くんの耳元で、吐息交じりに――この胸に満ち溢れた想いや、この心臓の高鳴りが全部伝わってしまえばいいと思いながら、小さく囁きました。
「好きです、直生くん」
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