アドリアンシリーズ

ひまえび

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アドリアンシリーズ第9話……エピソード12……旧オスマン帝国領の統治とその他への侵略……続き

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1372年11月下旬の日曜日朝5時……コンヤ仮宮殿
 戦後処理と宮殿建設、宿泊所、食堂、大浴場及びモスク、マドラサイスラム神学校、病院、キャラバンサライ隊商宿の建設や上下水道工事などに追われている時、ムジョル、林冲、宋江の3軍団から連絡があった。
 マニサ、イズミルを無血占領した。ムジョルをサルハン侯国の軍政長官としてマニサに駐屯させた。「各施設を整備し、マルマラ海の制海権を確保せよ」と指示した。アイドゥン侯国、メンテシェ侯国、ゲルミヤン侯国、ハミ侯国、テケ侯国、ラマザン侯国も降伏した。エレトナ侯国やドゥルカドゥル侯国はすでに占領下にある。これでアナトリア半島はすべて占領した。内政を充実させてからいよいよアレッポ攻めだ。
 士気も高くこれからというときに水を差す女が急にディヤルバクルに現れた。相談したいことがあるのでディヤルバクルまで来て欲しいというのだ。
 アドルフ14歳の9つ上の従姉のスサンナ23歳である。
スサンナはアスタラバードの領主であり、軍政長官をしているダニエルの正妻であった。残念ながら子宝には恵まれなかったようだ。
 一体何のようだろう。目上の人からの要請だし断るわけにはいかない。
アドルフはヘレネーを伴ってディヤルバクルまで少人数で出掛けた。
せっかくなので内政はアネックに任せてゆっくり回ることにした。
最初は半日馬車に乗り、スルタン・ハヌと呼ばれるキャラバンサライ隊商宿に着いた。
 ピーカンの青空の下、野原の真ん中に、卒然と目の前に現れた、城郭のようなキャラバンサライ隊商宿は、蜃気楼を見るようであった。
 1200年代にセルジューク朝によって建てられたこのキャラバンサライ隊商宿はアナトリアの重要な東西ルート上にある。大分古くなっているのが見て取れた。
 直ちに修復せよとアネックに指示した。かってのシルクロードには、25キロから30キロごとに、キャラバンサライ隊商宿があった。
これらのキャラバンサライ隊商宿は、商人たちのための宿泊施設や家畜小屋だけでなく、モスク、浴場、自炊もできる厨房、蹄鉄鍛冶の工房、倉庫などを備え、多くの従業員が働き、ひとつの建物が宿場町の機能を果たしていたのである。
 アドルフはこれらを復活しようと考えた。そのためには外国から来た商人たちをできるだけ優遇せねばならない。無料で泊まらせようと考えた。
 細い階段を登って、高い外壁の上に立つ。見渡す限りアナトリアの大地が茫漠とひろがる。その昔、ロバに乗り、何頭ものラクダを連ねて、コンヤからアクサライへ向かう商人たちには、この城郭のようなキャラバンサライ隊商宿がどんなにか頼もしく思えたことであろう。
 ウルファに駐屯しているテムジンが迎えに来てくれた。ここからシリアの近くにあるハランの村まで連れて行ってくれるという。
ハランというのはどんな村だと聞いたが行けば分かると言って教えてくれなかった。
1372年12月下旬の日曜日朝7時……ハランの村
 朝食を摂ってからテムジンの案内で村を見物した。
三角帽子のような赤茶色の小さな家が、大地にばらまかれたように散らばっている。それは蜂の巣のようにも、キノコの群生のようにも、「ゴティバ」のチョコレートのようにも見えた。赤土色の家には、銃口のように小さな窓がうがたれているだけである。
 聖書によれば、ハランは、イサクの妻リベカが、我が子ヤコブのために水を引いた土地であり、また、アブラハムはこのハランを経て、神の約束の地カナン「現在のパレスチナ」の赴いたとされている。ここは聖書の世界でもあったのだ。
 ローマ時代には、将軍クラッススがこの地で、パルティア人との戦いに敗れ、軍勢もろとも捕虜になっている。クラッススはこれを恥じ。自ら黄金の液を飲んで果てたという。
 また、背教者の異名を持つかのユリアヌス帝は、ペルシャ討伐の途上、このハランで、月神に祈りを捧げたとされているが、その後、交戦中に投げ槍が刺さって、32歳の生涯を終えている。ハランはローマ人にとって、不吉な土地だったとも言えよう。
1372年12月下旬の火曜日朝7時……ディヤルバクル砦
 テムジンとスサンナが待っていた。
挨拶を交わし、朝食を摂ってからスサンナの話を聞いた。
 スサンナ「結論から先に言うわ。ダニエルと離婚したいの。ダニエルが強硬に反対しているので、貴方とテムジンにアドリアンとの仲介を頼みたいの。テムジンは賛成してくれたわ。でもアドリアンはアドルフを高く評価していると聞いているの。だから貴方にも頼みたいの」
アドルフ「離婚理由をお聞かせ下さい。納得する理由があれば兄を説得いたします」
スサンナ「理由はたった一つよ。私に子供が出来ないので妾を20名も囲ったわ。私は毎日ダニエルからだけじゃなくて妾たちにも馬鹿にされているわ。もう堪えられないの」
アドルフ「分かりました。ベルケサライかカザンにいる兄と話しましょう」
テムジン「アドリアン様は今こちらに向かっているそうです。ダニエルがアドリアン様に知らせたようです」
 そんなやり取りをしている時、アドリアンが入ってきた。
アドリアン「スサンナ、離婚は許さん。ダニエルも反省している。妾は全員解雇した。これで許してやれ」
テムジンもアドルフもこれで解決したと思い、胸をなでおろした。
 ところがスサンナが爆弾発言を始めた。
スサンナ「ジェベの后のイライーダが急死したの。私は今までジェベが好きなことを隠していたけどもう黙っていられないわ。大体ことの始まりは貴方よ。私とジェベが恋人同士だと知りながら引き裂いたでしょう。こうなったら私は黙ってないわ。ジェベと話をさせてちょうだい。ジェベと話して駄目なら身を引くわ」
 アドリアンは心が痛んだ。これはスサンナのいう通りだ。
俺は分かっていて2人を一緒にさせなかった。あの時スサンナが鉄鉱石をジェベから貰わなかったら俺の運命は変わっていた。
 アドリアンは決心した。
アドリアン「よし分かった。アドルフ、お前がスサンナをジェベのところへ連れて行け。この縁談をまとめて来い」
 アドルフはスサンナを連れて、中国まで行くことになった。ヘレネーは二人目を妊娠しているのでアドリアンがカザンで静養させると決まった。
★中央ユーラシアからアナトリアへ③
アナトリアのトルコ化「続き」
 アナトリアのトルコ人にとって幸運であったことは、ビザンツ帝国が昔日の勢いを失い、アナトリアはアルメニア人、クルド人、ギリシャ人などの各勢力によって分裂状態におかれていたことである。
 こうしてアナトリアはしだいにトルコ人の世界へと変貌していくことになるが、当時中央ユーラシア、イラン方面からどのくらいの数のトルコ人がアナトリアに入ったかを統計的に知ることは不可能である。一般に、当時アナトリアに入ったトルコ人の10倍ぐらいの現地人がいたと推定されている。
 イスラーム史料は当時のアナトリアを「ルーム」、すなわち「ローマの地」と呼ぶが、神聖ローマ皇帝フリードリヒ一世バルバロッサ「在位1152から90年」の第3回十字軍につきしたがってきた書記はここを「トゥルキア」、すなわち「トルコ人の地」と呼んでいる。つまり当時のヨーロッパ人の目に、アナトリアはもはやトルコ人の世界と映ったのである。
 13世紀にアナトリアを訪れたマルコポーロもここを「トルコマニア」とよび、14世紀前半にアナトリアを訪れたアラブの大旅行家イブン・バットゥータは「アル・トゥルキーヤ」と呼んでいる。古いヨーロッパの文献が、オスマン帝国のことをしばしば「トルコ帝国」と呼ぶのはこうした事情に由来している。
★アドルフ14歳、女たちの出産予定
ヘレネー……1373年4月
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