61 / 100
アドリアンシリーズ第9話……エピソード12……旧オスマン帝国領の統治とその他への侵略……続き
しおりを挟む1372年11月下旬の日曜日朝5時……コンヤ仮宮殿
戦後処理と宮殿建設、宿泊所、食堂、大浴場及びモスク、マドラサ、病院、キャラバンサライの建設や上下水道工事などに追われている時、ムジョル、林冲、宋江の3軍団から連絡があった。
マニサ、イズミルを無血占領した。ムジョルをサルハン侯国の軍政長官としてマニサに駐屯させた。「各施設を整備し、マルマラ海の制海権を確保せよ」と指示した。アイドゥン侯国、メンテシェ侯国、ゲルミヤン侯国、ハミ侯国、テケ侯国、ラマザン侯国も降伏した。エレトナ侯国やドゥルカドゥル侯国はすでに占領下にある。これでアナトリア半島はすべて占領した。内政を充実させてからいよいよアレッポ攻めだ。
士気も高くこれからというときに水を差す女が急にディヤルバクルに現れた。相談したいことがあるのでディヤルバクルまで来て欲しいというのだ。
アドルフ14歳の9つ上の従姉のスサンナ23歳である。
スサンナはアスタラバードの領主であり、軍政長官をしているダニエルの正妻であった。残念ながら子宝には恵まれなかったようだ。
一体何のようだろう。目上の人からの要請だし断るわけにはいかない。
アドルフはヘレネーを伴ってディヤルバクルまで少人数で出掛けた。
せっかくなので内政はアネックに任せてゆっくり回ることにした。
最初は半日馬車に乗り、スルタン・ハヌと呼ばれるキャラバンサライに着いた。
ピーカンの青空の下、野原の真ん中に、卒然と目の前に現れた、城郭のようなキャラバンサライは、蜃気楼を見るようであった。
1200年代にセルジューク朝によって建てられたこのキャラバンサライはアナトリアの重要な東西ルート上にある。大分古くなっているのが見て取れた。
直ちに修復せよとアネックに指示した。かってのシルクロードには、25キロから30キロごとに、キャラバンサライがあった。
これらのキャラバンサライは、商人たちのための宿泊施設や家畜小屋だけでなく、モスク、浴場、自炊もできる厨房、蹄鉄鍛冶の工房、倉庫などを備え、多くの従業員が働き、ひとつの建物が宿場町の機能を果たしていたのである。
アドルフはこれらを復活しようと考えた。そのためには外国から来た商人たちをできるだけ優遇せねばならない。無料で泊まらせようと考えた。
細い階段を登って、高い外壁の上に立つ。見渡す限りアナトリアの大地が茫漠とひろがる。その昔、ロバに乗り、何頭ものラクダを連ねて、コンヤからアクサライへ向かう商人たちには、この城郭のようなキャラバンサライがどんなにか頼もしく思えたことであろう。
ウルファに駐屯しているテムジンが迎えに来てくれた。ここからシリアの近くにあるハランの村まで連れて行ってくれるという。
ハランというのはどんな村だと聞いたが行けば分かると言って教えてくれなかった。
1372年12月下旬の日曜日朝7時……ハランの村
朝食を摂ってからテムジンの案内で村を見物した。
三角帽子のような赤茶色の小さな家が、大地にばらまかれたように散らばっている。それは蜂の巣のようにも、キノコの群生のようにも、「ゴティバ」のチョコレートのようにも見えた。赤土色の家には、銃口のように小さな窓がうがたれているだけである。
聖書によれば、ハランは、イサクの妻リベカが、我が子ヤコブのために水を引いた土地であり、また、アブラハムはこのハランを経て、神の約束の地カナン「現在のパレスチナ」の赴いたとされている。ここは聖書の世界でもあったのだ。
ローマ時代には、将軍クラッススがこの地で、パルティア人との戦いに敗れ、軍勢もろとも捕虜になっている。クラッススはこれを恥じ。自ら黄金の液を飲んで果てたという。
また、背教者の異名を持つかのユリアヌス帝は、ペルシャ討伐の途上、このハランで、月神に祈りを捧げたとされているが、その後、交戦中に投げ槍が刺さって、32歳の生涯を終えている。ハランはローマ人にとって、不吉な土地だったとも言えよう。
1372年12月下旬の火曜日朝7時……ディヤルバクル砦
テムジンとスサンナが待っていた。
挨拶を交わし、朝食を摂ってからスサンナの話を聞いた。
スサンナ「結論から先に言うわ。ダニエルと離婚したいの。ダニエルが強硬に反対しているので、貴方とテムジンにアドリアンとの仲介を頼みたいの。テムジンは賛成してくれたわ。でもアドリアンはアドルフを高く評価していると聞いているの。だから貴方にも頼みたいの」
アドルフ「離婚理由をお聞かせ下さい。納得する理由があれば兄を説得いたします」
スサンナ「理由はたった一つよ。私に子供が出来ないので妾を20名も囲ったわ。私は毎日ダニエルからだけじゃなくて妾たちにも馬鹿にされているわ。もう堪えられないの」
アドルフ「分かりました。ベルケサライかカザンにいる兄と話しましょう」
テムジン「アドリアン様は今こちらに向かっているそうです。ダニエルがアドリアン様に知らせたようです」
そんなやり取りをしている時、アドリアンが入ってきた。
アドリアン「スサンナ、離婚は許さん。ダニエルも反省している。妾は全員解雇した。これで許してやれ」
テムジンもアドルフもこれで解決したと思い、胸をなでおろした。
ところがスサンナが爆弾発言を始めた。
スサンナ「ジェベの后のイライーダが急死したの。私は今までジェベが好きなことを隠していたけどもう黙っていられないわ。大体ことの始まりは貴方よ。私とジェベが恋人同士だと知りながら引き裂いたでしょう。こうなったら私は黙ってないわ。ジェベと話をさせてちょうだい。ジェベと話して駄目なら身を引くわ」
アドリアンは心が痛んだ。これはスサンナのいう通りだ。
俺は分かっていて2人を一緒にさせなかった。あの時スサンナが鉄鉱石をジェベから貰わなかったら俺の運命は変わっていた。
アドリアンは決心した。
アドリアン「よし分かった。アドルフ、お前がスサンナをジェベのところへ連れて行け。この縁談をまとめて来い」
アドルフはスサンナを連れて、中国まで行くことになった。ヘレネーは二人目を妊娠しているのでアドリアンがカザンで静養させると決まった。
★中央ユーラシアからアナトリアへ③
アナトリアのトルコ化「続き」
アナトリアのトルコ人にとって幸運であったことは、ビザンツ帝国が昔日の勢いを失い、アナトリアはアルメニア人、クルド人、ギリシャ人などの各勢力によって分裂状態におかれていたことである。
こうしてアナトリアはしだいにトルコ人の世界へと変貌していくことになるが、当時中央ユーラシア、イラン方面からどのくらいの数のトルコ人がアナトリアに入ったかを統計的に知ることは不可能である。一般に、当時アナトリアに入ったトルコ人の10倍ぐらいの現地人がいたと推定されている。
イスラーム史料は当時のアナトリアを「ルーム」、すなわち「ローマの地」と呼ぶが、神聖ローマ皇帝フリードリヒ一世バルバロッサ「在位1152から90年」の第3回十字軍につきしたがってきた書記はここを「トゥルキア」、すなわち「トルコ人の地」と呼んでいる。つまり当時のヨーロッパ人の目に、アナトリアはもはやトルコ人の世界と映ったのである。
13世紀にアナトリアを訪れたマルコポーロもここを「トルコマニア」とよび、14世紀前半にアナトリアを訪れたアラブの大旅行家イブン・バットゥータは「アル・トゥルキーヤ」と呼んでいる。古いヨーロッパの文献が、オスマン帝国のことをしばしば「トルコ帝国」と呼ぶのはこうした事情に由来している。
★アドルフ14歳、女たちの出産予定
ヘレネー……1373年4月
0
お気に入りに追加
5
あなたにおすすめの小説

小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

if 大坂夏の陣 〜勝ってはならぬ闘い〜
かまぼこのもと
歴史・時代
1615年5月。
徳川家康の天下統一は最終局面に入っていた。
堅固な大坂城を無力化させ、内部崩壊を煽り、ほぼ勝利を手中に入れる……
豊臣家に味方する者はいない。
西国無双と呼ばれた立花宗茂も徳川家康の配下となった。
しかし、ほんの少しの違いにより戦局は全く違うものとなっていくのであった。
全5話……と思ってましたが、終わりそうにないので10話ほどになりそうなので、マルチバース豊臣家と別に連載することにしました。
戦国三法師伝
kya
歴史・時代
歴史物だけれども、誰にでも見てもらえるような作品にしていこうと思っています。
異世界転生物を見る気分で読んでみてください。
本能寺の変は戦国の覇王織田信長ばかりではなく織田家当主織田信忠をも戦国の世から葬り去り、織田家没落の危機を迎えるはずだったが。
信忠が子、三法師は平成日本の人間が転生した者だった…
狩野岑信 元禄二刀流絵巻
仁獅寺永雪
歴史・時代
狩野岑信は、江戸中期の幕府御用絵師である。竹川町狩野家の次男に生まれながら、特に分家を許された上、父や兄を差し置いて江戸画壇の頂点となる狩野派総上席の地位を与えられた。さらに、狩野派最初の奥絵師ともなった。
特筆すべき代表作もないことから、従来、時の将軍に気に入られて出世しただけの男と見られてきた。
しかし、彼は、主君が将軍になったその年に死んでいるのである。これはどういうことなのか。
彼の特異な点は、「松本友盛」という主君から賜った別名(むしろ本名)があったことだ。この名前で、土圭之間詰め番士という武官職をも務めていた。
舞台は、赤穂事件のあった元禄時代、生類憐れみの令に支配された江戸の町。主人公は、様々な歴史上の事件や人物とも関りながら成長して行く。
これは、絵師と武士、二つの名前と二つの役職を持ち、張り巡らされた陰謀から主君を守り、遂に六代将軍に押し上げた謎の男・狩野岑信の一生を読み解く物語である。
投稿二作目、最後までお楽しみいただければ幸いです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる