黒猫君の恋。

エイト

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 将人の朝は割と早い。
 休日でも大体八時には起きている。
 今日も八時前に起き、朝食を食べた。
 部屋に戻りスマートフォンを確認すると、絋希から連絡が来ていた。
 昨日最後に送った『おやすみなさい』の下に、『おはよう』の文字。
 その続きは、将人の体調を伺う文章だった。
 『元気です。紘希さんは?』と返すと、すぐに返事が返ってきた。
 暫く何気ないやりとりをしていると、突然電話がかかってきた。
 慌てて通話ボタンを押し、スマートフォンを耳に当てる。

「もしもし、絋希さん?」
「お、将人、おはよう。今時間ある?」

 スピーカーから聞こえる声は、どこかそわそわしているように感じる。

「はい、大丈夫ですよ。どうしたんですか?」
「いや、声聞きたいなと思って。」

 その言葉に、どくりと胸がなる。

「俺は暫く忙しいけどさ。忙しくなくなったら、二人で会おう」
「はい!」

 思っていたより大きな声が出てしまい、一人恥ずかしくなる。

「じゃあ、どこ行きたいか教えて? 将人の行きたいとこに行こう」

 うんうん唸って考えていると、絋希がくすりと笑った。

「ゆっくりでいいよ、時間はあるから」

 恥ずかしさに、更に顔が熱くなる。
 もういいや、と半分自棄になりながら言う。

「ケーキ、食べに行きたいです。めちゃくちゃ美味しいケーキ」
「お、いいね。食べに行こう」

 どんなのがいいかな、と呟く絋希に、楽しみにしてくれているのかな、と嬉しくなる。

「せっかくなら、絋希さんの食べたいのにしてください」

 戸惑っているのかなかなか言葉が返ってこない。

「だって絋希さん、暫く忙しいんですよね。だったら、絋希さんが好きなもの食べてほしいです……その、ご褒美、的な?」

 将人がおずおずとそう言うと、はあ、とため息をかれた。
 何か変なことを言ったのかと焦っていると、絋希が笑った気配がした。

「ありがと。将人、優しいな」

 笑みを含んだ声に、照れる。

「じゃあ、考えとくな」
「はい!」

 照れを振り払うように返事をする。

「あ、場所は将人の家に近いとこにするから」

 だから安心して、と言われ、少しほっとする。

「あんまり遠いと親御さんも心配するだろうし」

 その言葉に、気にかけてくれてるんだな、と嬉しくなる。
 続けられた言葉は、将人を更に喜ばせるものだった。

「それに、遠いとその分早く帰らないといけなくなるから、一緒にいられる時間が短くなるだろ? それは嫌だからさ」

 熱くなった頬を無意識に触りながら会話を続ける。

「ありがとうございます、その、僕も長く一緒に過ごせると嬉しいです」

 そう言うと、スピーカーから聞こえてくる絋希の声が心なしか明るくなった気がした。

「よかった。将人もそう思ってくれてて」

 その声に、電話の向こうの紘希の表情が何故かわかったような気がした。
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