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浮気妻に心霊的恐怖を喰らわせてやる

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 俺、弘史ひろし。26歳。同い年の妻の春風はるかとはアパート暮らしの結婚三年目。子どもはまだいない。
 俺の仕事はステージイベントなどでの音響や映像の担当。小さい会社だから一人でやらなくてはならないけど、最近では両立することに苦労を感じなくなってきた。
 春風はるかはパート。10時から15時のコンビニのレジだった。

 夫婦仲はそれなりによかったはずだけど、夏にクラス会に行ってから春風はるかがどうもおかしい。
 誘っても拒否するし、スマホはずっと握りっぱなしで風呂の中まで持っていく。休みの日も一人で出掛けるようになった。
 会社の先輩に相談しても『結婚三年目ならそんなもの』との回答。ふーんそうなんだーと思っていた。

 いつも通りの毎日だったが、その日の仕事は違っていた。昼前に終わってしまったのだ。
 帰る途中、先輩と後輩の三人でラーメンを食べて帰宅。当然春風はるかは仕事中なので家にはいない。

 時計を見ると15時少し前。ここで悪心が起こった。
 クローゼットにでも隠れて帰ってきたところを脅かしてやろうと思ったのだ。
 最近つれなかったから驚く顔も見たかった。

 早速玄関にはカギを掛け、靴箱に靴をいれて玄関はがらんとした状態。仕事用のバックもヤバイなと物陰に隠し、いざクローゼットへ。

 15時20分くらいだろうか? 足音と玄関の鍵が外される音。

 しめしめ帰ってきたなと思った。

「はいどーぞ! ようこそ我が家へー!」
「へー。ここが春風はるかのウチかぁー」

「そうそう。上がって上がって!」

 え? 男の声なんだけど。まさか……、浮気?

 クローゼットの隙間から見える男。年の頃は同じくらいか。
 あー……。なんか見たことあるぞオイ。春風はるかがクラス会の後に写真見せてくれたっけ。女子と並んでいたアイツじゃん!
 うぉい! 春風はるか

 イヤ待て。信じろ。春風はるかはそんなんじゃねぇ。と思う。
 あれは友だちだ。久しぶりに道で会ったからお茶でもとか言って部屋に誘っただけだろ。

 ……キスしてるけど。
 友だちでキスするだろうか? いやしない。
 完全に浮気だこりゃ。参った、参った。いや参ってる場合じゃねぇぞ。飛び出してぶん殴ってやるか?

 飛び出そうと思ったら、わーすごい筋肉ですね! ボクシングで鍛えたとか言って胸筋を触らせてます。
 オーノー。セックスアピールがムンムンっすね!

 くそぅ。ヘタレか、俺は!
 妻が奪われそうなんだぞ?
 動け、この震える膝よ!
 どうする? 考えろ!

①ヒョロガリな弘史ひろしは突然筋肉モリモリになって反撃できる。
②先輩と後輩がきて助けてくれる。
③やられちゃう。現実は非情である。

 ①か②! ①か②でおねしゃす!












 ③でした……。
 俺はクローゼットの中で、二人の仲のよいさまを見る羽目になった。
 はー。なんでこんな目に。しかし、昼間からラブアッフェアに励めるなんて、ろくな仕事してねぇぞ、コイツ。
 コイツに春風はるかが養えんのかよ。

「良かったよ。幹久みきひさ~」

 はい。お名前頂戴しました。幹久くん。お互い呼び捨てなんて仲いいですね、お二人さん。

「あん」

 はい、後半参りましょう。後半スタート!

 畜生。コイツらに地獄を見せてやらなきゃ腹の虫がおさまらん!

 ……一応証拠にスマホで動画とっとこう。





 俺は次の日。ボロボロの様相で仕事の休憩時間に先輩と後輩に昨日の話をすると、二人とも親身になって聞いてくれた。持つべきものは友!

「うん! それは許せませんね先輩!」
「証拠の動画撮ったのか。それなら離婚訴訟しても勝てるぞ!」

 いや離婚なんて。ねえ。そしたら一人になっちゃうし……。

「そしたら先輩は私がもらってあげますよ」

 うふって。うふってあなた。そんなことしたら春風はるかと同じ穴の狢じゃん? 嬉しいけど。

「さあどうする植田! 泣き寝入りか!? それとも離婚して未来を勝ち取るのか!? 腹を括れ!」

 ひーーーと晩考えさせてください。って言うわけにもいかないな、この雰囲気。
 たしかに春風はるかとはもう無理だろう。あんなもの見せられちゃったら。アイツら、俺のことなにも気付かないグズとか言ってたし。

「り、離婚します」
「よし! どうしたい。慰謝料もらってお別れか? それとも叩きのめして慰謝料もらうか?」

「え。叩きのめして慰謝料貰えます?」
「おいおい。俺たちの腕を忘れたか? やるぞ! 幽霊大作戦を!」

 そう。俺たちは映像、音響、照明のエキスパートだった。





 罠をはった。

 ウチの会社は、不定期に平日休みがある。そこで俺、先輩、後輩の三人で集まり、春風はるかがパートに出た途端に部屋に入り、見えないところに配線を組んだ。
 スピーカーを置き、テレビには別の映像が流せるようにセッティング。さらに変わった照明まで設置した。

 そして別の休みには、うまく行くかテストも敢行。素晴らしい出来映えだ。
 その間、部屋に別で仕掛けていたカメラやボイスレコーダーには密会の内容や不貞の証拠が積み重なっていった。もはやお腹いっぱいです。



 作戦当日、春風はるかには仕事で遠方に泊まり込みになると前々から伝えておいて家を出た。
 春風はるかはルンルン気分でパートに向かったことを確認。
 16時に幹久くんと部屋に入ったことを確認した。

 春風はるかは幹久くんに食事を作ってあげるようだった。せいぜい今のうちに楽しむがいい。

 楽しい団らんの最中に俺はトークアプリにメッセージを送る。

『はー。まだまだ仕事かかりそうだ。明後日まで泊まり込みになるかも』

 それに春風はるかの返事は『おつ』のスタンプが一個だけ。幹久くんには飯作って俺にはスタンプ一個かよ。まあいい。

『この前部屋にいた時、勝手に電気消えてビックリした』

 そのメッセージには少し間を置いてから『はーい』という可愛いスタンプだった。多分面倒くさがって適当なのを選んだのだろう。
 だがこの俺のメッセージは次への布石。きっとじわじわ効いていくことだろう。



 少しして二人は一緒に風呂。俺が帰ってこないと完全に安心してやがる。歯磨きして、冷蔵庫の俺のビール飲んでやりたい放題。

 判決。死刑。
 さあ十三階段を上るがいい。

 やがて二人はそのままベッドイン。おあつらえ向きに電気は点けたまま互いの愛を確かめ始めたその時。



 ガランガラン──。


 流しに大きめの音でコップが落下。二人は一時、行為を止める。




 その時、フッと全て電気が消える。

 二人のヒッという声が聞こえた。笑える。



 だが一点だけ照明が点く。そこには焼けた人形が椅子に座っている。これは俺でも怖い。

 二人は壊れるほど抱き合っている。ケケケ。

 これら全てボタン一つで出きるようにセットされております。順番にボタンを押すと、それぞれイベントが起こるかたちとなっております。

 では第四のボタン!




 スピーカーから不安を煽る音響。普段なら仕掛けだと分かるが、今の彼らの精神状態では恐怖でなにも考えられまい。
 さらに別なスピーカーからはお経。

 二人ともジリジリと壁を伝って逃げ場所を探しているようだ。裸のままで。



 第五のボタン。

 これを押すとテレビがつくが番組が流れるわけじゃない。俺たちが作った映像だ。
 暗い場面から砂嵐に変わり、突然青白い顔の女の顔が出てくる。もちろん音も組み合わせている。そこはプロフェッショナル。ちなみに青い顔の女性は後輩にメイクを決めたもの。よく見りゃ可愛い女の子である。

 それがドンと出た時、完全に二人は叫んだが追い討ち。
 クローゼットから飛び出して大きな足音を立てたのは先輩。

 二人は取るものも取らずに裸のまんまで部屋から飛び出していった。


 タイミングよくパトカーの音。少し前に裸の男女がいますと通報したのは後輩。春風はるかも幹久くんもそのまま逮捕。
 俺はパトカーのドアのところに立っていた。

春風はるか、裸でその男となにしてたんだ!?」

 もはや春風はるかは情報が多すぎてパニック。なにもしゃべれなくなっていた。
 明らかに浮気ですと身元引き受けには義両親に来て貰い、そのまま春風はるかを実家に連れていってもらった。
 弁護士から証拠を突きつけて貰い、離婚。春風はるかと幹久くんには慰謝料を貰った。

 ちなみに二人は、半分精神がやられ睡眠するために薬のお世話になってるらしい。それでも夜中に絶叫とともに起きるのだとか。ざまぁ。





 さてその後俺たちは、後輩の部屋に集まって祝賀のパーティーを開いた。

「離婚おめでとう!」
「ありがとう。二人とも。二人の協力のおかげ」

「いやいや、最高のステージを見せて貰ったよ」

 先輩はあのムービーをモニターにつないで流し始めた。後輩はそっと俺に寄り添ってくる。

「ねぇ先輩。あの約束どうします?」
「あの約束って?」

「私が先輩をもらってあげるって約束」
「い? あれって冗談じゃなかったの?」

「冗談じゃないですよ。分かってないな~」
「うーん。正直、今女性はなー」

 その時、先輩はモニターを指差した。

「ほらほら傑作。二人が玄関に逃げるとこ」

 たしかに。俺たちは映像を見ながらまた笑った。まさにメシウマ。

「はー。やっぱりすげえな、俺たちの技術。何がすげぇって、この赤いスカートの女の子、マジでリアルだわ」

 先輩が指差した先には、確かに赤いスカートをはいた少女が逃げる二人を追っているようだった。

「これ誰がどうやってやったの? プロジェクトマッピング?」

 俺も後輩も顔を見合わせる……。

「え? 勘弁してくださいよー。先輩でしょ?」
「え……? 俺、何もやってないけど……」

 つまりこれは──。
 本物のゆーれー?





 その後俺は、真っ昼間にアパートへと戻り、素早く自分の荷物をまとめると早々に部屋を引き払った。
 そしてルームシェアを名目に後輩のアパートに逃げるように入り込み、一年立たずに後輩と再婚したのだった。
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