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第54話 義姉妹

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 その夜。晩餐はシーンはエイミーととり、サンドラは一人でとった。本来は主人とともに食事をとるのは正妻であるが、それについてサンドラのお付きの者たちはなにも言わなかった。

 なんとなく、シーンがエイミーにサンドラとのことを嫉妬させないようにしていると感じたからである。

 シーンは先ほどのことがあったあともエイミーを片時も離さず、通路を歩く際も横に抱き寄せており、やはり寝室も共にした。
 サンドラとは決して会わせようとしなかったのだ。





 さて深夜である。サンドラの部屋の扉の前には護衛が二名、交代で寝ずの番だ。
 サンドラのベッドの横には椅子を置き、これも侍女一人が交代で照明の灯りとサンドラの番をしていた。
 サンドラの寝台の横の椅子にはノーイが侍っている。そのままそこにサンドラは眠っていた。

 しかし目を覚ますと、照明の灯りは消えていた。そしてノーイが座っている場所に人影があったのだ。

「ノーイ?」

 しかしその影はこちらに首を向けているが返事をしない。

「ノーイ。灯りが消えているわ。光を灯しなさい」

 すると、大きな窓に掛けられたカーテンが触れてもいないのに、そろりそろりと開いていく。
 大きな窓の半分くらいまでくると、まばゆい月明かりが部屋に射し込んで、その人物の顔を照らした。

 そこに座っていたのは微笑むエイミーであった。
 ノーイは床に転んで寝ているようであり、サンドラは声を上げそうになったが驚きすぎて口が開かなかった。

「ああ驚かないでちょうだい。サンドラ」

 とエイミーが言うので、サンドラは戦慄したもののその言葉に頷いた。

「シーンさまは誤解をしているようだけど、私はあなたに危害を加えようとはこれっぽっちも思ってないのよ。むしろあなたにお願いがあるの」
「お願い……とは?」

「シーンさまは私が嫉妬に狂っていると思ってるようだけど、そうじゃない。私はもっとあなたと仲良くなりたいのよ。まるで姉妹のように」
「え、ええ。同じ妻同士、そうなれば嬉しいわ」

「本当? あなたは正妻。私は副妻ふくさい。それでかまわない?」
「ええ。あなたがそれでよいのなら」

「でもシーンさまは、仰られたわ。私にあなたを妹と思えと。私のほうが二つ年下だけど、私が姉でよいかしら?」
「え? ええ。あなたはとても大人のような雰囲気だし、シーンのことを深く知ってらっしゃる。それにシーンはとてもあなたを尊敬しているようだもの、あなたを姉として敬うわ」

 それは恐怖も手伝ってのことかもしれないが、サンドラはそう答えた。その答えに、エイミーは少女のように微笑んだ。サンドラもそれにつられて微笑む。
 その雰囲気のままサンドラはエイミーに提案した。

「では私が正妻で妹。あなたは副妻で姉だから私たちは同格よね?」
「うふふ。あなたからそう言って頂けるなら嬉しいわ。そうなりましょうよ」

「シーンは一晩ずつ互いの部屋に行く。それでいいわね」
「当然よ。同じ妻なのだから、片方の部屋ばかり行っては不公平だわ」

「お互いに意見が違ってたら喧嘩もする。でもちゃんと姉妹らしく仲直りをする。それでいい?」
「もちろん。私もそうあるべきと思っていたわ」

 エイミーが指を鳴らすと、照明に灯りがつく。そして転がっているノーイの肩を叩いて起こすと、ノーイは目を覚ました。

「あ、あなたはエイミー嬢?」
「ええそうよ。あなたは寝てしまっていたの。大丈夫?」

「え、ええ……。大丈夫で……。エイミー嬢。どうしてここに?」

 ノーイがエイミーに問うと、それにサンドラが答えた。

「エイミーは私ともっと仲良くなりたくて押し掛けてきてくれたのよ。深夜だけど、エイミーともっと話したいわ。ノーイ。お茶を点てなさい」
「え、ええ。ですが……。はい」

 ノーイは歯切れ悪く了承し、奥に引っ込んでお茶の準備をしだした。
 サンドラは寝巻きのまま起き上がって、エイミーをテーブルに誘い、話を始めた。

 サンドラは聞いた。シーンのことを。
 シーンは何が好きなのか。どんな遊びが好きなのか、どんな食べ物が好きなのか、どんな衣服が好きなのか──。
 エイミーは微笑みながらそれに答えていった。

 二人は前々から姉妹のように、どんどんと話を深くしていった。そのうちにエイミーはサンドラに願ったのだ。

「ねえサンドラ。私のお腹の中にはシーンさまの赤ちゃんがいるの」
「ええ、知っているわ」

「もうすぐ産まれるの」
「あと何ヵ月?」

「すぐよ」
「まさか」

 腹の大きさは目立っていない。三ヶ月くらいかもしれないとサンドラは思ったが、エイミーはすぐと言って具体的な日を言わなかったが続けた。

「産まれたら、サンドラにはその子の母になって欲しいの。そのうちにサンドラにも赤ちゃんができると思うわ。でも分け隔てなく育てて欲しい」
「それは結構だわ。でも私はあなたの子育てに協力するということよね?」

 しかしエイミーは笑ってそれに答えず、子育てに言及した。

「出来ればたくさん神の話をして欲しいわ。神の偉大さ、神への尊敬を──」
「まあ。いいけど、私は一般的な話しか知らないわよ?」

「もちろん、それでいいわよ。どんな話を知ってるか教えて欲しいわ」
「ええ……。誰でも知ってる話で恥ずかしいけど……。『神は何もないところに土くれの世界を作りたもうた。光と闇を作りたもうた。第一の子は土でディエイゴ、第二の子は水でハジャナ。ディエイゴとハジャナは竜に姿を変え、世界を今の形に作り神に世界の総督を任された。ディエイゴとハジャナは互いに動物の姿に変わって愛し合いその姿の子をたくさん産んだ』うふふ。こんなものかしらね? このままずっと話すと朝になってしまうわ」

「うふふふ。ええ。それだけ知っていれば充分だわ」
「神話を教えて欲しいなんて不思議なお願いだわ」

「うふふ。本当ね」

 二人は、夜明けまでシーンやお互いの話をしてより一層親密になった。
 だが、その頃になると隣りの部屋からバタバタと駆け回る音が聞こえだし、二人ともシーンが起きたのだと微笑み会った。

 そのうちに、こちらに駆けてくる足音が聞こえ、護衛の制止を振り切って扉を開けたのは紛れもないシーンだった。
 その姿は下着だけで、よほど慌てて来たことが分かった。

 シーンの目はまずサンドラの無事の確認、それしエイミーのほうへと目を向けたのだ。安堵のため息をつきながらシーンはエイミーへと話し出す。

「エイミー、私の隣からいなくなっちゃダメだろう? さ、私たちの部屋に戻ろう」

 とエイミーを連れていこうとするが、それにサンドラが答えた。

「あらシーン。お気遣いは無用よ。私たち姉妹になって仲良くなったのですもの。私は正妻で妹。エイミーは副妻で姉で立場は同じなのよ?」
「え? そうなのかい?」

 シーンはエイミーのほうを恐る恐る見るが、エイミーはにこやかに微笑んだ。

「ええシーンさま。そうなりましたの」

 シーンはホッとため息を漏らした。

「なあんだ、良かった。そうか、そうだったのか。ではみんなで仲良く朝食をとろう」

 といって使用人に命じ、これからは主人に順列はないから、食事は円卓にしてくれといった。
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