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第46話 抱き合う二人
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シーンとアルベルトを乗せた馬車は街道を調子よく進んでいった。約二日の旅程である。
途中でよい宿に泊まり、親子水入らずの旅であった。
そんな王宮へと向かう馬車の中で、シーンはアルベルトに対し、必死でご機嫌取りをしていた。
今まで叱られたことがなかったので、父アルベルトが自分を嫌いになってしまったのではないかと慌てた様子にアルベルトは微笑んだ。
「もうよい。もうよい」
「しかし、お父上……」
「お前は本当にエイミーが好きなのだな」
「は、はい。エイミー以外には考えられません」
「あれから数年が経つが、非常に蜜月で羨ましいよ。どうだ。子どもが産まれたら、義父のボア・パイソーン伯爵に会ってきては。エイミーも里帰りしたいであろう」
「本当ですか? 父上」
「ああいいとも」
「良かった。北都とはどんなところでしょう。とても楽しみです」
「うむ。ちゃんと父親となったことを報告してくるといい」
そんな話をしていた。やがてシーンはいつものようにエイミーとののろけ話に発展し、アルベルトも若い二人の話に若干引きながら聞いていた。
もうすぐ、地平線に都の城壁が見える──といった場所だった。
今までエイミーの話をしていたシーンは、突然話を止めて立ち上がり、走行中の馬車の扉を開けた。アルベルトも驚いて声を上げる。
「シーン! どうした!」
しかしシーンはそれに答えもせずに、馬車から飛び降り、馬より早い足で城に向かって駆け出したのであった。
アルベルトはシーンの超人的な能力をこんなところで目の当たりにして驚いたが、なぜシーンがなにも言わず危険な飛び下りをして城に行ったのか、アルベルトには分からなかった。
◇
その時サンドラは、噂でシーンが王宮に参内する話を聞いていたので、シーンに城門に来るなと言われていたものの、いつものようにいつもの場所にいた。
サンドラは遠くを見つめてシーンの白馬を探していたのだが、向こうから砂煙が舞い上がっている。
なんだろうと思ってそこを見てみるとシーンだった。
それは馬より早いスピードで、こちらに一直線に向かってくるのだ。
サンドラの護衛は、早くに察してサンドラの前に立つ。あんなものに衝突でもされたらお嬢様が危ないとのことだった。
シーンは遥か遠くから叫んだ。
「サンドラーー!!」
サンドラもシーンが自分に会いに来たのだと思い、叫ぶ。
「シーン!!」
道の中央をシーンは駆け抜ける。道を行く人々は驚いて左右へ避けていた。
そしてシーンはサンドラの元にたどり着き、彼女を抱き抱えた。走った勢いもあってクルクルと回りながら。
サンドラの侍女と護衛は、お嬢様の念願が叶ったと思わず涙する。
シーンとサンドラは密着して、お互いをただ見つめていた。
「サンドラ。会いたかったよ!」
「本当に? 私も会いたかった!」
「ああ。私だけのサンドラ。もう放さない!」
シーンはサンドラをきつく抱き締め、その縛めからほどこうとしない。そして、熱い熱い二度目のキスをした。
道行く人はそれを温かい気持ちで見つめながら通り過ぎる。
シーンはずっとサンドラを放さなかったし、サンドラのほうでもそれに応じてきつく抱き締めていた。
しかしふと思い出した。それはシーンの豹変。まるで別な人への変身。抱き締めるシーンが本物なのか、突然怒り出すシーンが本物なのかと少しばかりビクビクしていた。
だが占いの老婆の言葉を思い出す。
相手に合わせ、させるがままにさせろと。そうすれば謝ってきて愛の言葉すら述べてくるだろう。
今のシーンはまさにそうなのかもしれない。この前の剣幕の反動なのか、決して身をはなそうとしない。
「ああサンドラ。私はキミが愛しい。この前は心にもないことを言ってゴメン。どうか許しておくれ……」
何度も何度も謝罪を繰り返していた。
そんなシーンの元へとアルベルトは馬車を急がせていた。一体どこに行ったか心配だった。ひょっとしたら久しぶりに母に会えるのが嬉しくなって都の屋敷に行ったのかと思っていた。
だが城門に近付いて驚いた。なんと毛嫌いしていたサンドラと抱き合い親密そうではないか。
アルベルトは頭が追い付かないままだったがシーンの元に近付いて声をかけようとすると突然シーンは豹変した。
サンドラを突飛ばし、頬を叩いて冷たい目で睨む。サンドラは小さく悲鳴を上げて、倒れ込んだ。
先ほどの仲睦まじい状況と一変。サンドラの侍女は守るために彼女に覆い被さり、護衛は剣を抜いて詰め寄った。
「お前たち、控えなさい!」
「し、しかしお嬢様!」
サンドラの言葉だが、侍女と護衛は守りを解こうとはしなかった。
アルベルトも突然のことで見守るしか出来なかったが、馬車から降りてシーンに問い質した。
「シーン! 何てことを! サンドラ嬢に謝りなさい!」
しかし、シーンは鼻を鳴らして嘲笑した。
「お父上。私は病気の時に何度もサンドラに打たれ嘲笑されました。今の彼女は自業自得です。彼女は私の妻になりたいと言ってきました。しかしこのサンドラは、夫にしたい私の言うことなどさっぱり聞きません。私が先日、城門にはもう出るなと言ったのに、こうして出てきます。私を軽んじているのです。夫にしたいなどと戯言です。自分が主人だと思っているのです。そんなものを誰が妻にしたいと思うでしょう」
シーンはそう言うと、アルベルトの馬車に乗り込んで、御者に車を出すよう命じると、御者はためらいながらだが馬車を出発させた。
サンドラの家来たちは慌てて彼女に駆け寄った。
「ヒドイわ! お嬢様をこんな目に遭わせるなんて!」
「お嬢様! 私にシーンとの決闘をお許しください。なあに刺し違えてでもこの無礼を悔やませてやりますとも!」
しかしサンドラは、家来たちに落ち着くように諭した。
「みんな落ち着いて頂戴。占いの先生が言っていたじゃない。シーンの中に二つの魂があると。だからあんなに情緒不安定なのだわ。このくらいでへこたれていてはいられない。それにシーンは言ったわよね。言うことを聞かないものを妻には出来ないと。確かに私は言うことを聞かなかった。だから悪いのは私なのよ」
「し、しかし──」
サンドラは納得の行っていない侍女や護衛をなだめて、馬車に乗り込み公爵家へと帰って行った。
途中でよい宿に泊まり、親子水入らずの旅であった。
そんな王宮へと向かう馬車の中で、シーンはアルベルトに対し、必死でご機嫌取りをしていた。
今まで叱られたことがなかったので、父アルベルトが自分を嫌いになってしまったのではないかと慌てた様子にアルベルトは微笑んだ。
「もうよい。もうよい」
「しかし、お父上……」
「お前は本当にエイミーが好きなのだな」
「は、はい。エイミー以外には考えられません」
「あれから数年が経つが、非常に蜜月で羨ましいよ。どうだ。子どもが産まれたら、義父のボア・パイソーン伯爵に会ってきては。エイミーも里帰りしたいであろう」
「本当ですか? 父上」
「ああいいとも」
「良かった。北都とはどんなところでしょう。とても楽しみです」
「うむ。ちゃんと父親となったことを報告してくるといい」
そんな話をしていた。やがてシーンはいつものようにエイミーとののろけ話に発展し、アルベルトも若い二人の話に若干引きながら聞いていた。
もうすぐ、地平線に都の城壁が見える──といった場所だった。
今までエイミーの話をしていたシーンは、突然話を止めて立ち上がり、走行中の馬車の扉を開けた。アルベルトも驚いて声を上げる。
「シーン! どうした!」
しかしシーンはそれに答えもせずに、馬車から飛び降り、馬より早い足で城に向かって駆け出したのであった。
アルベルトはシーンの超人的な能力をこんなところで目の当たりにして驚いたが、なぜシーンがなにも言わず危険な飛び下りをして城に行ったのか、アルベルトには分からなかった。
◇
その時サンドラは、噂でシーンが王宮に参内する話を聞いていたので、シーンに城門に来るなと言われていたものの、いつものようにいつもの場所にいた。
サンドラは遠くを見つめてシーンの白馬を探していたのだが、向こうから砂煙が舞い上がっている。
なんだろうと思ってそこを見てみるとシーンだった。
それは馬より早いスピードで、こちらに一直線に向かってくるのだ。
サンドラの護衛は、早くに察してサンドラの前に立つ。あんなものに衝突でもされたらお嬢様が危ないとのことだった。
シーンは遥か遠くから叫んだ。
「サンドラーー!!」
サンドラもシーンが自分に会いに来たのだと思い、叫ぶ。
「シーン!!」
道の中央をシーンは駆け抜ける。道を行く人々は驚いて左右へ避けていた。
そしてシーンはサンドラの元にたどり着き、彼女を抱き抱えた。走った勢いもあってクルクルと回りながら。
サンドラの侍女と護衛は、お嬢様の念願が叶ったと思わず涙する。
シーンとサンドラは密着して、お互いをただ見つめていた。
「サンドラ。会いたかったよ!」
「本当に? 私も会いたかった!」
「ああ。私だけのサンドラ。もう放さない!」
シーンはサンドラをきつく抱き締め、その縛めからほどこうとしない。そして、熱い熱い二度目のキスをした。
道行く人はそれを温かい気持ちで見つめながら通り過ぎる。
シーンはずっとサンドラを放さなかったし、サンドラのほうでもそれに応じてきつく抱き締めていた。
しかしふと思い出した。それはシーンの豹変。まるで別な人への変身。抱き締めるシーンが本物なのか、突然怒り出すシーンが本物なのかと少しばかりビクビクしていた。
だが占いの老婆の言葉を思い出す。
相手に合わせ、させるがままにさせろと。そうすれば謝ってきて愛の言葉すら述べてくるだろう。
今のシーンはまさにそうなのかもしれない。この前の剣幕の反動なのか、決して身をはなそうとしない。
「ああサンドラ。私はキミが愛しい。この前は心にもないことを言ってゴメン。どうか許しておくれ……」
何度も何度も謝罪を繰り返していた。
そんなシーンの元へとアルベルトは馬車を急がせていた。一体どこに行ったか心配だった。ひょっとしたら久しぶりに母に会えるのが嬉しくなって都の屋敷に行ったのかと思っていた。
だが城門に近付いて驚いた。なんと毛嫌いしていたサンドラと抱き合い親密そうではないか。
アルベルトは頭が追い付かないままだったがシーンの元に近付いて声をかけようとすると突然シーンは豹変した。
サンドラを突飛ばし、頬を叩いて冷たい目で睨む。サンドラは小さく悲鳴を上げて、倒れ込んだ。
先ほどの仲睦まじい状況と一変。サンドラの侍女は守るために彼女に覆い被さり、護衛は剣を抜いて詰め寄った。
「お前たち、控えなさい!」
「し、しかしお嬢様!」
サンドラの言葉だが、侍女と護衛は守りを解こうとはしなかった。
アルベルトも突然のことで見守るしか出来なかったが、馬車から降りてシーンに問い質した。
「シーン! 何てことを! サンドラ嬢に謝りなさい!」
しかし、シーンは鼻を鳴らして嘲笑した。
「お父上。私は病気の時に何度もサンドラに打たれ嘲笑されました。今の彼女は自業自得です。彼女は私の妻になりたいと言ってきました。しかしこのサンドラは、夫にしたい私の言うことなどさっぱり聞きません。私が先日、城門にはもう出るなと言ったのに、こうして出てきます。私を軽んじているのです。夫にしたいなどと戯言です。自分が主人だと思っているのです。そんなものを誰が妻にしたいと思うでしょう」
シーンはそう言うと、アルベルトの馬車に乗り込んで、御者に車を出すよう命じると、御者はためらいながらだが馬車を出発させた。
サンドラの家来たちは慌てて彼女に駆け寄った。
「ヒドイわ! お嬢様をこんな目に遭わせるなんて!」
「お嬢様! 私にシーンとの決闘をお許しください。なあに刺し違えてでもこの無礼を悔やませてやりますとも!」
しかしサンドラは、家来たちに落ち着くように諭した。
「みんな落ち着いて頂戴。占いの先生が言っていたじゃない。シーンの中に二つの魂があると。だからあんなに情緒不安定なのだわ。このくらいでへこたれていてはいられない。それにシーンは言ったわよね。言うことを聞かないものを妻には出来ないと。確かに私は言うことを聞かなかった。だから悪いのは私なのよ」
「し、しかし──」
サンドラは納得の行っていない侍女や護衛をなだめて、馬車に乗り込み公爵家へと帰って行った。
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