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第44話 墓参
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エリックが捕えられた後、王宮では、なぜ勇士シーンは自ら首を持帰り、自身の功績を言わないのだろうと話題になっていた。
それはきっと奥ゆかしいからで、国王からお召しになるまで腰を上げない謙虚な人なのであろうと結論に至った。
国王と王太子ギリアムは、すぐに王宮に召喚しようということで、使者を飛ばすことにした。
◇
その頃のシーンは、大変自己嫌悪に陥っていた。
夜を駆けてサンドラへと会いに行き、愛を囁いてキスしてしまったことに頭を抱える。
だが最後はきつい一言を浴びせられた。これならエイミーに顔向け出来ると安堵。
しかし会いに行ったことやキスしたことなど思い出すととてもエイミーに言えることなど出来ない。
結果、エイミーとは別の部屋で悶々とするしかないが、エイミーはいつものようにやって来て、春風のように楽しいおしゃべりや、シーンの背中に寄り掛かって本を読んだり、お腹の赤ちゃんに向けて編み物などしてベタベタしてくる。
シーンはそんなエイミーにバレないようにいつものように振る舞うしかなかった。
「ねえシーンさまぁ」
「な、なんだいエイミー」
「うふ! 赤ちゃん楽しみですわね!」
「うん。そうだね」
「今は靴下を編んでいますの」
「へー……」
「シーンさまのもちゃんと編んで差し上げますわよ」
「あ、ありがとう」
「シーンさま、家でじっとしてるのもつまらないでしょうから、お外で遊んできてもいいのですよ」
「う、うん」
そう言われても、シーンのほうでは最近、前のように子どもみたいに遊ぶことをしたいと思わなくなっていた。
それはシーンもよくは分からない。
前のようなワクワクする高揚感がなくなっていたのだ。
「シーンさまは遊ぶのが好きですものね」
「ああ……そうだね」
「あらどうしまして? 私になにか遠慮してるのかしら?」
「そんなことない。そんなことないよサンドラ」
「え……?」
エイミーの声で、シーンはハッと我に返る。
「いや違う。違うんだよエイミー!」
「どうしましたの? そんなに慌てなくてもよろしいのに」
「私がサンドラのことを思ってるわけないだろ!?」
「あら私はなにも言ってませんわよ?」
シーンはエイミーの両肩を掴んだまま固まってしまった。エイミーは笑ってシーンの手を取る。
「私はサンドラ嬢を部屋に迎え入れることに反対致しませんわよ?」
「いや……。そんなまさか。私がサンドラを? ありえないよ。やめてくれ。私が愛しているのはエイミー、キミだけだ」
「まあ嬉しいですわ」
「うう……。ああ!」
思わず部屋を飛び出していた。自分のことがよく分からなくなってしまい、精神的にほとほと参ってしまった。
そこにアルベルトがやってきて、悩みがあるのではないか? 体調が悪いのではないかと訪ねた。
シーンとしても激しく抵抗したことから父アルベルトにもサンドラのことが言えるわけもなく、胸に秘めたまま。
アルベルトは、気晴らしにご先祖さまの墓参りにいこうと誘った。先祖に手を合わせることで、見えないものに心の拠り所を作る。アルベルトはそう考えたのだ。
シーンはアルベルトとともに、領地の中にある先祖の霊園に向かった。小高い丘にグラムーン家の縁者が祀られている。
一人一人に墓石があり、夫婦は寄り添うように並べられて葬られていた。
シーンはその一つ一つに花を一輪供えていく。だがある一つの墓石の前で足を止め、彫られているその名前を撫でていた。
「どうした? シーン」
「……ローズ。このお方は?」
「ああ。私のおばあさまのお母様だった人だよ」
「では、私のおばあさまのおばあさまですね……?」
「そうだ。大変美しくお優しいかただったと聞いている。シーン。お前もこのかたの血を引いているのだよ」
「もっと……もっとお聞かせください」
「ああ。私の知っている限りなら」
アルベルトは、語りだした。
「ローズおばあさまは、今の宰相閣下の家からでた人でな、アレックスおじいさまとは大恋愛の末に結ばれたらしい。当時のグラムーン家には財産は余りないにも関わらず、彼女は公爵家から当家に降嫁してきたのだよ。アレックスおじいさまはこの事を大変感謝し、神に祈りを欠かさなかったそうだ。そんなローズおばあさまは三人の子を産んだものの二十代でお亡くなりになり、アレックスおじいさまは大変悲しんで、周りのものが再婚を奨めても聞かず、一生をローズおばあさまに捧げたという」
シーンはそれを黙って聞いていた。アルベルトはシーンににこやかに話しかける。
「そんな一途な思いをシーンも持っているのだろう。キミはエイミーを。私もお前のお母様であるジュノン以外の女性は考えられない。我々はアレックスおじいさまのそういう部分を引き継いだのだな」
しかしシーンは頭を抱えて走り出してしまった。アルベルトは驚いて止めたが、シーンはどこかに行ってしまった。
◇
シーンは、どこをどう駆け回ったのか分からない。いつの間にかグラムーン家の前の屋敷にたどり着いていた。
前は屋敷の前にある大きな池に夢中だったが、今はそんな気持ちがない。シーンはゆっくりと古い屋敷の中に入っていった。
そして迷わずにある一室に辿り着く。その部屋にかけられている肖像画を見て一言呟く。
「サンドラだ……」
そこには『ローズと三界を誓う。生まれ変わってもまたキミと共に──』という誓いの文字があった。
シーンは絵の掛かっている壁に寄りかかり、膝を抱いて顔を埋める。そして何時間もそこから動かなかった。
それはきっと奥ゆかしいからで、国王からお召しになるまで腰を上げない謙虚な人なのであろうと結論に至った。
国王と王太子ギリアムは、すぐに王宮に召喚しようということで、使者を飛ばすことにした。
◇
その頃のシーンは、大変自己嫌悪に陥っていた。
夜を駆けてサンドラへと会いに行き、愛を囁いてキスしてしまったことに頭を抱える。
だが最後はきつい一言を浴びせられた。これならエイミーに顔向け出来ると安堵。
しかし会いに行ったことやキスしたことなど思い出すととてもエイミーに言えることなど出来ない。
結果、エイミーとは別の部屋で悶々とするしかないが、エイミーはいつものようにやって来て、春風のように楽しいおしゃべりや、シーンの背中に寄り掛かって本を読んだり、お腹の赤ちゃんに向けて編み物などしてベタベタしてくる。
シーンはそんなエイミーにバレないようにいつものように振る舞うしかなかった。
「ねえシーンさまぁ」
「な、なんだいエイミー」
「うふ! 赤ちゃん楽しみですわね!」
「うん。そうだね」
「今は靴下を編んでいますの」
「へー……」
「シーンさまのもちゃんと編んで差し上げますわよ」
「あ、ありがとう」
「シーンさま、家でじっとしてるのもつまらないでしょうから、お外で遊んできてもいいのですよ」
「う、うん」
そう言われても、シーンのほうでは最近、前のように子どもみたいに遊ぶことをしたいと思わなくなっていた。
それはシーンもよくは分からない。
前のようなワクワクする高揚感がなくなっていたのだ。
「シーンさまは遊ぶのが好きですものね」
「ああ……そうだね」
「あらどうしまして? 私になにか遠慮してるのかしら?」
「そんなことない。そんなことないよサンドラ」
「え……?」
エイミーの声で、シーンはハッと我に返る。
「いや違う。違うんだよエイミー!」
「どうしましたの? そんなに慌てなくてもよろしいのに」
「私がサンドラのことを思ってるわけないだろ!?」
「あら私はなにも言ってませんわよ?」
シーンはエイミーの両肩を掴んだまま固まってしまった。エイミーは笑ってシーンの手を取る。
「私はサンドラ嬢を部屋に迎え入れることに反対致しませんわよ?」
「いや……。そんなまさか。私がサンドラを? ありえないよ。やめてくれ。私が愛しているのはエイミー、キミだけだ」
「まあ嬉しいですわ」
「うう……。ああ!」
思わず部屋を飛び出していた。自分のことがよく分からなくなってしまい、精神的にほとほと参ってしまった。
そこにアルベルトがやってきて、悩みがあるのではないか? 体調が悪いのではないかと訪ねた。
シーンとしても激しく抵抗したことから父アルベルトにもサンドラのことが言えるわけもなく、胸に秘めたまま。
アルベルトは、気晴らしにご先祖さまの墓参りにいこうと誘った。先祖に手を合わせることで、見えないものに心の拠り所を作る。アルベルトはそう考えたのだ。
シーンはアルベルトとともに、領地の中にある先祖の霊園に向かった。小高い丘にグラムーン家の縁者が祀られている。
一人一人に墓石があり、夫婦は寄り添うように並べられて葬られていた。
シーンはその一つ一つに花を一輪供えていく。だがある一つの墓石の前で足を止め、彫られているその名前を撫でていた。
「どうした? シーン」
「……ローズ。このお方は?」
「ああ。私のおばあさまのお母様だった人だよ」
「では、私のおばあさまのおばあさまですね……?」
「そうだ。大変美しくお優しいかただったと聞いている。シーン。お前もこのかたの血を引いているのだよ」
「もっと……もっとお聞かせください」
「ああ。私の知っている限りなら」
アルベルトは、語りだした。
「ローズおばあさまは、今の宰相閣下の家からでた人でな、アレックスおじいさまとは大恋愛の末に結ばれたらしい。当時のグラムーン家には財産は余りないにも関わらず、彼女は公爵家から当家に降嫁してきたのだよ。アレックスおじいさまはこの事を大変感謝し、神に祈りを欠かさなかったそうだ。そんなローズおばあさまは三人の子を産んだものの二十代でお亡くなりになり、アレックスおじいさまは大変悲しんで、周りのものが再婚を奨めても聞かず、一生をローズおばあさまに捧げたという」
シーンはそれを黙って聞いていた。アルベルトはシーンににこやかに話しかける。
「そんな一途な思いをシーンも持っているのだろう。キミはエイミーを。私もお前のお母様であるジュノン以外の女性は考えられない。我々はアレックスおじいさまのそういう部分を引き継いだのだな」
しかしシーンは頭を抱えて走り出してしまった。アルベルトは驚いて止めたが、シーンはどこかに行ってしまった。
◇
シーンは、どこをどう駆け回ったのか分からない。いつの間にかグラムーン家の前の屋敷にたどり着いていた。
前は屋敷の前にある大きな池に夢中だったが、今はそんな気持ちがない。シーンはゆっくりと古い屋敷の中に入っていった。
そして迷わずにある一室に辿り着く。その部屋にかけられている肖像画を見て一言呟く。
「サンドラだ……」
そこには『ローズと三界を誓う。生まれ変わってもまたキミと共に──』という誓いの文字があった。
シーンは絵の掛かっている壁に寄りかかり、膝を抱いて顔を埋める。そして何時間もそこから動かなかった。
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