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第22話 凱旋

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 シーンの凱旋は歓喜を以て迎えられた。
 シーンの姿が都から豆粒ほど見えたとき、王宮内に物見からの報告が入ったのだ。

「ご注進、ご注進!」
「いかがした!?」

「城塞のアルベルト司令のご子息であるシーン副官が、大トロルの首を上げて凱旋との報告にございます」
「なんと!」

「供の家来は全員生還。シーン殿にも傷一つありません」

 並み居る大臣たちは何が起こったのかと驚いたが吉報に声を上げた。
 聞いていた国王陛下も喜んで立ち上がり、馬車を走らせ城門まで自ら迎えに行ったのだ。

 シーンが城壁に近づく頃には、国王を中心として文武百官がぞろりと立ち並び、城塞には見覚えのある顔、顔、顔。城塞守備隊の仲間たちだ。彼らはラッパや鳴り物を鳴らした。シーンは手を振ってそれに応えた。

 国王の前に来ると、シーンは馬車より飛び降り、ひざまずいた。

「愚臣シーン。憎き賊のトロルを討ち果たしました。どうぞご検分ください」

 国王の前でトロルの両耳を包んだ布を開けると、大きな大きな耳である。見ていたものはどよめき国王は喜んだ。

「なるほど素晴らしい。報告は聞いた通りだ。シーン副官には後に莫大なる褒美を送られるであろう」
「ありがたき幸せにございます」

「なにか希望の品はあるか?」
「その儀なれば、一言お願いがございます」

「余に叶えられぬことなどない。なんなりと申せ」

 シーンは跪きながら応えた。

「わたくしには、パイソーン伯爵家より娶ったエイミーという妻がございます。これを正妻とお認めくださいますよう。お願い致します」
「は? なに? 家柄もハッキリしておるし、両家が認めた妻なのであろう? なにも余が認めなくてもよい気がするが。よかろう。“勇臣シーンの正妻はエイミーである!” これでよいか?」

「結構にございます。陛下のお言葉は何よりも重し。これで妻も喜びましょう」

 その瞬間、城塞より紙吹雪が舞い落ちる。そして大歓声。
 シーンが城塞を見上げると、そこにはエイミーが大きく手を降っていた。



 だがムガル宰相だけは一人歯噛みをして悔しがった。国王が認めたとあってはグラムーン家を取り潰しなど出来ない。
 さらにサンドラはなおさら恋い焦がれてしまうだろう。そんなシーンの正妻に嫁がせることも叶わないのだ。大公爵の娘が伯爵家の妾などプライドが許さない。
 これにはムガルの中に復讐の炎がメラメラと燃え盛っても仕方のないことであった。




 国王は王宮に帰ると、あの清廉な英雄、シーンのことが知りたくなった。近臣にたずねても、アルベルトの息子としか分からない。そこで口を開いたのはムガル宰相。

「陛下。実はシーンどのは私の娘の同級生でしてな」
「おお、宰相の娘と同級とな」

「でありますので、私は彼の者を良く知っております」
「ほぉ。それでどんな人物なのだ」

「実は彼には生来病気があり、言葉を話すこともままならない状態ではありましたが回復し、今では都を騒がす美丈夫です。歳は16。若くて将来有望。実直にて勇猛。信義あり、忠心な人物と聞いております」

 周りの大臣たちからも、“おお”という歓声。国王はますます前のめりになった。

「そんな人物が我が国に埋もれておったとは」
「はい。この功績に報いる報賞を与えて下さいませ」

「おお。では我が国の英雄称号である“勇士”をさずけようではないか!」
「おお。“勇士”は武勇に優れ、美徳を持ち合わせた功績のある英雄に贈られる称号。古今、24名しか与えられておりませぬ」

「あの英雄にはそれくらいするべきだろう」
「まさに英断でございます。それと封地も加増すべきです」

「なるほど。グラムーン伯爵家はどのくらい封地をもっているのか?」
「およそ1000戸です。さらに1000戸は加えてやるべきかと」

「おお、それはよい」

 ムガル宰相はニヤリと笑って、この国の地図を開き一カ所を指差した。

「グラムーン伯爵の領地はバイバル州の中にあるグラムーン郡でこの部分です。新しき地方は隣接するこの部分、サイル州のビジュル郡にしてみてはいかがでしょう」
「うむ。いいだろう。他に勇士シーンになにを与えるべきか諸君たちも議論してみてくれたまえ」

 国王と大臣たちは意見を述べ合い、シーンへの報賞が決まり、国王はこれで勇士シーンに報いることが出来ると、ことのほか喜んだのであった。
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