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第2話 乙女心大爆走
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それからしばらく仲間たちと峠を流して帰路に着きました。
屋敷に入ると、お父様から応接間にくるように言付かったので、そこにいって驚きました。
「やあアリア嬢」
「え? シャルハ王子殿下……?」
そう。そこには先ほどお会いしたシャルハ王子殿下がおられたのです。私は冷静さを保てずに真っ赤な顔をしていたと思います。
そこにお父様が殿下がいる意味を教えてくださいました。
「実はシャルハ王子殿下は外交のためにこちらに来たのだ。我が国王陛下は王子殿下を宿舎に案内するつもりであったのだが、王子殿下たっての願いでな、我が家に逗留することになったのだ」
私はそんな王子殿下の積極的な行動力にますます顔を赤くして頬を押さえましたの。
王子殿下はそんな私を見つめるばかり。照れてしまいます。
お父様はそんな私たちの顔を交互に見た後でおっしゃいました。
「なるほど。王子殿下が当家を指名した理由が分かりましたわい。不束者の娘ではございますが、殿下がお気に召しましたらどうぞ国にお連れ帰り下さい」
すると王子殿下は高速でお父様のほうに顔を向けて声を上げました。
「本当でありますか、アネモネール卿!」
それにお父様はにこやかに頷くばかり。私は卒倒しそう。王子殿下は近付いてきて私の手を握りました。
「お聞きになりましたかアリア嬢。共に我が国に来て下さいませんか? こんなことを突然言われて戸惑うかも知れませんが一目惚れです。私には当然妻も婚約者もおりません。そんな折にそなたと出会えたのは天のおぼし召し。逆らえば両方に罰が下るに違いありません」
「まあ。殿下ったらウソでも嬉しいですわ」
「ウソではございません。私は第56代国王の指名を受ける身です。それを破棄してもそなたと共に居たい」
「本当でございますか?」
「本当ですとも。そなたはとても遠慮深く、お淑やかな女性ですね」
「──そうですわね」
余りのお言葉に私は顔をおさえてしまいました。するとお父様から小さな声が聞こえました。
「本当に不束者なのですが。……どうぞどうぞお早めにお持ち帰りくだされ──」
そう言って汗を拭うお父様を私は顔を上げてキッと睨み付けたら静かになりました。お父様ったらあんなユーモアも持ち合わせておいでてしたのね。
そしてなんということでしょうか? この一つ屋根の下で王子殿下と一緒にいれるなんて! これは下々の者たちでいうところの「同棲」ではないかしら?
結婚前の男女がはしたないですわ! ああでもなんという幸せな。私は王子殿下より妻にしたいと言われたのです。
私はその場で爆竹を鳴らして踊り狂い、仲間と集会を開いて青春爆走を決め込みたい気分でしたが、淑女にあるまじき行為と思い止まりました。
ああ、なんて素晴らしい! これが恋……。暴力や爆走なんてやっぱり乙女のすることじゃないわ。私は愛に生きる!
それが女の生きる道──。
「アリア。今日の政務が終わったら二人で街に出掛けないか? こちらの国の民草たちの暮らしを見てみたい」
いやーん。朝からシャルハ王子殿下に、おデートに誘われちゃった! ですわ。
私ったら嬉し恥ずかし青春待った無し。行きましょう。街に。そして民衆の暮らしを見てみましょう。
ああ、民衆は私たちを見てなんて言うかしら?
「まぁ高貴なお似合いのカップル!」
「悔しいけどナイスアベックだわ」
とか言うのかしらね? ああステキ! 早く王子殿下のご政務が終わらないかしら~?
待ちに待ったその時間がやって参りましたわ。シャルハ王子殿下はご政務を終え、人をつかって私の部屋に呼びに来たので、すでに上質のドレスに着替えていた私は急いで王子殿下のもとへ。
王子殿下は気合いの入った金の刺繍が縫い込まれた青いフロックコートに、純白のシャツ。なんて高貴で清楚な装いかしら。
殿下に手を引かれて、純正ホイールのシャバい馬車にエスコートされました。
嬉しい。
夕刻の賑わいのある街中で馬車を停め、王室御用達のレストランまでしばらく歩いて行きましょうと殿下が仰せられるので、私は控えめに頷いて並んで歩いていきますと、前から伯爵令嬢のエミリアが嬉しそうな顔をしてかけてきましたの。
彼女は私の前で中腰になると広げた両ひざに両手を付けて挨拶して来ました。
「姉きィ。今日は喧嘩ですかい?」
ま、なんてはしたない! 愛に生きると決めた私になんという挨拶かしら?
殿下も大変驚いて目を丸くしておられます。
「どなたですか? お友だちですか?」
「知らない人ですわ……」
計略が功を奏したようで殿下は、ああじゃあこの人は少し可哀相な人なんだという哀れみを帯びた顔をなさいました。おお殿下、なんとも慈悲深い。
「姉き。なにをご冗談を。コイツはこの前の、シャバ僧じゃないスか?」
しかしエミリアも場の空気を読んでとっとと消えればいいのに、未だに私の前にとどまるなどという暴挙。私になにか恨みでもございまして? このまま引き取らないなら、息を引き取っていただくこともやぶさかではございませんことよ?
どうやら殿下の影に隠れて彼女を見据えて差し上げると、状況を察したのか悪魔でも見たかのように無様に去っていきました。
エミリア、なんて友達思いなのかしら。この世に大事なのは「愛」。その次に「友情」だわ!
屋敷に入ると、お父様から応接間にくるように言付かったので、そこにいって驚きました。
「やあアリア嬢」
「え? シャルハ王子殿下……?」
そう。そこには先ほどお会いしたシャルハ王子殿下がおられたのです。私は冷静さを保てずに真っ赤な顔をしていたと思います。
そこにお父様が殿下がいる意味を教えてくださいました。
「実はシャルハ王子殿下は外交のためにこちらに来たのだ。我が国王陛下は王子殿下を宿舎に案内するつもりであったのだが、王子殿下たっての願いでな、我が家に逗留することになったのだ」
私はそんな王子殿下の積極的な行動力にますます顔を赤くして頬を押さえましたの。
王子殿下はそんな私を見つめるばかり。照れてしまいます。
お父様はそんな私たちの顔を交互に見た後でおっしゃいました。
「なるほど。王子殿下が当家を指名した理由が分かりましたわい。不束者の娘ではございますが、殿下がお気に召しましたらどうぞ国にお連れ帰り下さい」
すると王子殿下は高速でお父様のほうに顔を向けて声を上げました。
「本当でありますか、アネモネール卿!」
それにお父様はにこやかに頷くばかり。私は卒倒しそう。王子殿下は近付いてきて私の手を握りました。
「お聞きになりましたかアリア嬢。共に我が国に来て下さいませんか? こんなことを突然言われて戸惑うかも知れませんが一目惚れです。私には当然妻も婚約者もおりません。そんな折にそなたと出会えたのは天のおぼし召し。逆らえば両方に罰が下るに違いありません」
「まあ。殿下ったらウソでも嬉しいですわ」
「ウソではございません。私は第56代国王の指名を受ける身です。それを破棄してもそなたと共に居たい」
「本当でございますか?」
「本当ですとも。そなたはとても遠慮深く、お淑やかな女性ですね」
「──そうですわね」
余りのお言葉に私は顔をおさえてしまいました。するとお父様から小さな声が聞こえました。
「本当に不束者なのですが。……どうぞどうぞお早めにお持ち帰りくだされ──」
そう言って汗を拭うお父様を私は顔を上げてキッと睨み付けたら静かになりました。お父様ったらあんなユーモアも持ち合わせておいでてしたのね。
そしてなんということでしょうか? この一つ屋根の下で王子殿下と一緒にいれるなんて! これは下々の者たちでいうところの「同棲」ではないかしら?
結婚前の男女がはしたないですわ! ああでもなんという幸せな。私は王子殿下より妻にしたいと言われたのです。
私はその場で爆竹を鳴らして踊り狂い、仲間と集会を開いて青春爆走を決め込みたい気分でしたが、淑女にあるまじき行為と思い止まりました。
ああ、なんて素晴らしい! これが恋……。暴力や爆走なんてやっぱり乙女のすることじゃないわ。私は愛に生きる!
それが女の生きる道──。
「アリア。今日の政務が終わったら二人で街に出掛けないか? こちらの国の民草たちの暮らしを見てみたい」
いやーん。朝からシャルハ王子殿下に、おデートに誘われちゃった! ですわ。
私ったら嬉し恥ずかし青春待った無し。行きましょう。街に。そして民衆の暮らしを見てみましょう。
ああ、民衆は私たちを見てなんて言うかしら?
「まぁ高貴なお似合いのカップル!」
「悔しいけどナイスアベックだわ」
とか言うのかしらね? ああステキ! 早く王子殿下のご政務が終わらないかしら~?
待ちに待ったその時間がやって参りましたわ。シャルハ王子殿下はご政務を終え、人をつかって私の部屋に呼びに来たので、すでに上質のドレスに着替えていた私は急いで王子殿下のもとへ。
王子殿下は気合いの入った金の刺繍が縫い込まれた青いフロックコートに、純白のシャツ。なんて高貴で清楚な装いかしら。
殿下に手を引かれて、純正ホイールのシャバい馬車にエスコートされました。
嬉しい。
夕刻の賑わいのある街中で馬車を停め、王室御用達のレストランまでしばらく歩いて行きましょうと殿下が仰せられるので、私は控えめに頷いて並んで歩いていきますと、前から伯爵令嬢のエミリアが嬉しそうな顔をしてかけてきましたの。
彼女は私の前で中腰になると広げた両ひざに両手を付けて挨拶して来ました。
「姉きィ。今日は喧嘩ですかい?」
ま、なんてはしたない! 愛に生きると決めた私になんという挨拶かしら?
殿下も大変驚いて目を丸くしておられます。
「どなたですか? お友だちですか?」
「知らない人ですわ……」
計略が功を奏したようで殿下は、ああじゃあこの人は少し可哀相な人なんだという哀れみを帯びた顔をなさいました。おお殿下、なんとも慈悲深い。
「姉き。なにをご冗談を。コイツはこの前の、シャバ僧じゃないスか?」
しかしエミリアも場の空気を読んでとっとと消えればいいのに、未だに私の前にとどまるなどという暴挙。私になにか恨みでもございまして? このまま引き取らないなら、息を引き取っていただくこともやぶさかではございませんことよ?
どうやら殿下の影に隠れて彼女を見据えて差し上げると、状況を察したのか悪魔でも見たかのように無様に去っていきました。
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