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隣国から人質同然に嫁いできた王太子妃、初めてのご公務

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 私がこの国に嫁いできた理由は、母国が小さく政略のためで、ほとんど人質の状態であると聞いた。
 私がこの国に嫁げば民は戦火に怯えずに済み、親兄弟も侵略の不安を抱えて眠ることなどないからだ。

 この国の王太子であるルークさまが幼い頃に私の婚約は結ばれた。私は恋など許されるはずもなく、ほとんどが城の中で過ごすことを命ぜられた。

 ルークさまが18歳になるまで、彼の歓心を引くための商品作り。
 常に美しく、肌に張りが出るようにミルクの風呂に入り、香油を塗り込む。
 食事量は少なく、赤身肉や緑黄色野菜、蜂蜜や卵黄。そして運動。

 これで私は美しく、体型も見事に磨かれた。
 学問も修め、ただただ、彼が成人するまでの時間を待った。

 そしてその時がやって来た。ルークさま18歳、私が16歳である。結婚式は盛大だが夫であるルークさまの隣にいれたのは一時間ほどだけ。
 彼は金髪碧眼の美丈夫で立ち居振る舞いも見事だったが、言葉を交わすことなどない。
 儀礼上の形式だけで、私の国のものは帰され一人ぼっち。侍女もこの国の人で寂しく息も詰まりそうだった。

 私の部屋の窓は、母国のほうも向いておらず、寂しさはベッドに顔を押し付けて泣いてこらえるだけ。

 私は事実上幽閉されたも同然。お飾りの妃。誰にも愛されずに一人ぼっちでこの国のこの部屋で生きねばならないのかと悲しくなった。

 その時だった。部屋がノックされ、灯りを持った侍女が入ってきた。その後ろには王太子であるルークさま。
 彼の侍女は、私の侍女になにか話をしていたが、すぐに終わったようで私の侍女はこちらにやって来て用件を伝えてきた。

「ご公務でございます。太子さまは人払いとおっしゃったので、我々は退散いたしますが、呼ばれればすぐに参ります」
「は、はい。わかったわ──」

 『公務』……。つまり国のための仕事。こんな夜中にどんなお仕事を? と思う暇もなく、侍女たちは出ていってしまい、私は王太子殿下と二人きり。
 しかし仕事の方法がわからない。

「公務である。寝台に横になりたまえ」
「あ、あのう。はい……」

 私は言われるがままにベッドに横になると殿下は私に覆い被さるように上に乗ってこられた。かといって体を押し付けてはこずに一定の距離を守って顔をこちらに向けている。
 私の顔が赤くなる。

「で、殿下。どんなお仕事ですの?」
「うむ。まずは口づけをするのだ」

「口づけを?」
「そうだ」

 そういって彼は荒々しく私の唇を奪い抱いてくるので驚いていると、その唇が離される。
 そして次なる仕事の内容だった。

「次は私の耳元で『愛しています』とささやくのだ」
「なんでございます?」

「『殿下愛しています』と囁くようにいうのだ」
「は、はい」

 私は、私のことを抱き締めたままの殿下の耳元でそっと『殿下愛しています』とささやいた。
 殿下は息を荒くして起き上がり、ご自身の衣服を一枚脱いでシャツだけになり、背中を向けて椅子の背もたれに衣服をかけた。

「あ、ここでバックハグをしたまえ」
「バック……背中から抱きつくのですか?」

「そうだ」
「こ、こうでございますか?」

「おぅっふ……。これはなかなか……」
「私、ちゃんとお仕事出来てますでしょうか?」

「そうだな。胸を押しつけるともっといいな」
「胸を──? こうでございます?」

「おおぅ。素晴らしい」
「ありがとうございます」

「そして耳元で『今宵は殿下に身を委ねます』だ」
「囁くのですね」

「そうだ。飲み込みが早いぞ」

 私は言われるがままに仕事をした。すると殿下は嬉しそうに私を抱き締めてきた。
 しかし未だに仕事の内容がわからない。

「殿下。これはどういうお仕事ですの?」
「わからんか? 私は将来国王となる身で、そなたはその妻だ」

「存じております」
「であるから、後継者を作ることは大事な仕事だ」

「な、なるほど」
「得心がいったか?」

「で、ですが殿下。私はこのお仕事、初めてでよく知りません」
「案ずるな。私も初めてでよく知らん。もし痛かったりしたらすぐにいいたまえ。善処しよう」

「わかりました」

 それから王太子殿下と私は公務を三回ほどこなした。一度目は全然善処されなかったが間隔をおいての二度目からは痛みはなくなったのでよかった。まぁよかった。
 公務が終わると疲れたのか王太子殿下はそのまま私の横で眠り、私も最初のこの国への不安はなくなり、ぐっすりと眠れていた。

 朝起きると、隣の王太子殿下と目があった。

「お目覚めかい。私の可愛い子猫」
「は、はい。起きました」

「これからはほぼ毎日公務があるからよろしく頼むぞ」
「こ、こちらこそ」

「この国に来て、寂しいこともあるだろうが、私を頼っておくれ」
「は、はい。私……」

「どうした?」
「この国に来て頼るものもおらず不安でした。ですが昨晩から殿下にお情けを頂戴し、おそれ多くも殿下を好きになってしまったかもしれません」

「それは奇遇だな」
「と、申しますと?」

「私も隣国の姫など不安で仕方なかった。相性が悪かったらどうしようとな。しかし会ったその時からそなたをとても愛おしく思っている。これから互いにもっとこの気持ちを膨らませていこうではないか」
「は、はい!」

「では朝食にするか? それとも公務をするか?」
「では朝食で」

「そう申すな。公務も大事だ」
「あら──」

 そういいながら私の夫は抱き締めてきたのだった。
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